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新婚の二人

 結婚式の明くる日。まだ前日の賑やかな余韻がさめては居ない。しかし、質朴な気質を持った人々のこと、既に生活は平穏を取り戻し始めている。王の館では王家の者たちがそろって朝食を取るのが習わしである。この朝の食事は、新婚の二人をおもんばかってやや遅い時間に設定されてはいたが、王ボルススと孫娘リーミルは既に食卓についていて、テーブルの上の果実をつまんでいた。

「それで、お爺さまは、ランロイにお戻りになるのね」

 リーミルが言ったランロイはフローイ国の古い都である。フローイ国で夜に張り巡らされる陰謀という意味を込めて、他国からフクロウの巣とも呼ばれている。いまから23年前、今回の婚礼を思い起こさせる出来事があった。ボルススは息子のグラムスにシュレーブ国から姫ティルマを迎えたのである。自分は老いたと称して息子のグラムスに王位を譲った。この時代に存命中ら王位を息子に譲るというのは珍しい。しかし、ボルススにとって見れば、シュレーブ国の姫を后に迎えた息子が王位に就いているというのは、フローイ国とシュレーブ国の結びつきを喧伝し、他国を畏怖せしめる効果がある。もちろん、彼は実権を手放したわけではなかった。父親が息子に政治や人生のアドバイスをするという形を取って、息子のグラムスを操っていた。

 新都建設が誰の発案だったのか明らかになっては居ない。形の上ではリーミルの父グラムスが新都を建設するという宣言をした。そうやって、フローイ国の潤沢な財政をつぎ込んで作られたのが現在の王都カイーキである。周囲の森と東のイロット山系から流れ下る幾筋かの川が流れ込む湖の畔にあって、都を囲む景色が美しく、建設された王都カイーキもまた、その景色の一部に溶け込むかのように調和していた。

 実務的なボルスス王の見たところ、息子の目に狂いはなく、この都は美しいばかりではなく、この王都カイーキに至る街道は山岳地帯の隘路を通らねばならず、他国から攻めにくい位置にある。

 ただ、この時のボルススは古い都ランロイに戻るということを、顔をしかめて別の理由で述べた。

「ああ、ここに居れば、ルカゴスたちに出陣の時期をしつこく問い詰められ続けるに違いないからな」

「たしかに、しつこそうな男ね」

 今回の婚礼の席に、ルカゴスというシュレーブ国の貴族が祝いの品を持って参列している。婚礼の祝福という名目で、フローイ国が兵を挙げたルージ国討伐の軍を起こすつもりがあるのかどうか探りに来ているのである。もちろん、彼は軍を動かすつもりで居る。ただ、他国に指図される気はない。大陸の東に位置するルージが、大陸中央のシリャード攻略の兵を送るとすれば、その軍は間違いなくシュレーブ国を通る。シュレーブ国はフローイ国に先立ってルージ国との戦を始めざるを得ないのである。

(しばらくは様子を見ておけばいい)

 そんなボルススの意志を、傍らのリーミルは祖父の表情から正確に読み取っていた。ただし、各地の領主に戦支度をしておけとの使者は遣わせてはいる。次の使者を遣わせば十日とたたぬうちに、数千の兵士が集まるだろう。

 ボルススの意図を読み取ろうとするかのように、祖父の横顔を観察するリーミルに、ボルススが聞いた。

「お前はどうするのだ?」

「私もお爺さまとランロイに」

 リーミルは素直にそう言って笑った。彼女は血筋と言うことを考えた。弟のグライスの無口で頑固な性格はフローイ国の人々の気質を持っているが、このカイーキの都の煌びやかさもよく似合う。そういう意味でグライスはシュレーブ国から嫁いできた母の血を強く受け継いでいるようだ。しかし、リーミルは生まれ育ったこの町より、田舎くささの残るランロイの町が好きだった。そういう辺り、彼女は祖父の血を色濃く受け継いでいるのかも知れない。


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