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祝宴にて

 グライスとフェミナ、新婚の夫婦は、婚礼の主要な儀式を終えたとは言え、二人の門出を祝うはずの席に主役の花婿の姿が無くとも、人々は盛り上がって酒を酌み交わしあっていた。この婚礼の真の目的が若い二人の結婚を祝福する為のものではないことを象徴するかのようだった。

 フェミナは育ちの良さを物語るように、祝福を受ける席で不愉快な表情は見せては居ないが、時折うつむくような角度でかいま見せる表情は我が身の不幸を悲しんでいるようにも見える。酒の酔いを覚ますという名目で席を離れていたリーミルが、いつの間にか姿を消していたグライスを連れて戻ってきたが、新婚の夫の姿に、フェミナは緊張感を漂わせただけで笑顔は見せなかった。


 そんな二人にかまう様子もなく、宴席の人々の会話は弾んでいる。今もまた、酒で顔を赤くしたシュレーブ国からの使いのルカゴスが杯を掲げて叫んだ。

「フローイ国とシュレーブ国の行く末を祝福して!」

 彼は杯を煽り、テーブルの上の酒が入った壺を片手に、宴席の人々をかき分けてボルスス王に歩み寄った。

「偉大なるボルスス王にも乾杯……。そして、戦での我らが連合国軍の勝利を祈って」

 そんな言葉に、賓客をむげに扱うこともできず、ボルススも笑顔で杯を掲げて見せた。

「いや、今は我が国の若き王子と、そなたの国の姫君を祝ぉうてやってくだされ」

「おおっ、謙遜を。この国の反映と安泰も、ボルスス王の庇護の元にあればこそ。我々が手を組めばルージ国のリダルなど……」

「いやはや、とんでもない」

 ルカゴスはそんなボルススの言葉には興味がない、本心をちらりと伺わせる質問をした。

「して、ご出陣はいつになさるおつもりかな?」

 ルカゴスは人の良さそうな笑顔の中で、目だけは素面の真剣な表情で質問をした。ボルススは宴席を広く見回すように、ルカゴスと視線を合わせず笑顔で答えた。

「いや、ルカゴス殿。今は孫の婚礼の席。そのような無粋な話は止めにしてくだされ」

 隣国からの使いと祖父の会話をリーミルは横目で横目で眺めながら油断無く聞いていた。シュレーブ国とフローイ国に神帝スーインを暗殺したルージ国に討伐の勅使が遣わされている。シュレーブ国のルカゴスは、婚礼の祝福の使者を装って、フローイ国が兵を挙げる時期を探りに来ているのである。ただ、老獪なボルスス王は出兵時期の明言を避けている。ルカゴスが更に回答を迫ろうとしたのを見て、リーミルはルカゴスに割り込むように祖父に声をかけた。

「お爺さま。そろそろ宴席もお開きのようだわ」

 リーミルが指さす先に新郎新婦の姿があった。


 フェミナは緊張感を漂わせながら、来客に軽くお辞儀をし、侍女に手を引かれて宴会の場を辞して寝所へと姿を消した。やや遅れて、グライスもまた、酒の杯を置いて立ち上がった。やや緊張感があり、杯を手にしていたが酔っている気配はなかった。リーミルは宴会の場を辞するグライスの背を優しく見送った。婚礼の儀の後、人々の祝宴を経て、この夜に新郎新婦の二人は寝所で初めて結ばれる習わしである。リーミルと弟グライス、そしてこの日、彼女たちの家族となるあの娘フェミナも、この世界の複雑な情勢の中で運命をかき乱される。間もなく、人々の運命が大きく動き出す戦を迎える。グライスも初陣を果たすだろう。せめて、この一夜だけは、弟と義妹の静かな愛が存在するよう祈ったのである。

 この王都カイーキは「月の都」と称される。その都に静かに月の光が降り注いでいた。



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