放課後の約束
「おーい!えっとー・・・、山代!」
「・・・私?」
帰ろうとしたとき、後ろから声をかけられ、麻里は振り返った。
小走りで駆け寄ってきたのは竹広だ。
今は放課後。
教室にはほとんどの生徒が部活へ向かっため、今は数えられる程度にしかいない。
麻里の傍へ行くと、竹広は口を開いた。
「山代、今から帰んの?」
「あ、ああ。そのつもりだけど・・・」
いきなりの質問に戸惑いながらも、麻里は答えた。
竹広は麻里の答えに「そっかー」と相づちを打った。
その様子に麻里は頭上にはてなマークを浮かべる。
「何かあるのか?」
そう尋ねると、竹広は「別に大したことじゃんねえんだけどな」と前置きして理由を答えた。
「ただ、都嶋が山代と帰りたいって言ってて、でもなんか恥ずかしいらしいから俺が代わりに言ってやるってことで、山代呼んだだけだし」
「え、都嶋さんが私と帰りたい?」
「あ・・・、言っちまった」
「井野くんのお馬鹿あああ!恥ずかしいでございませんかーっ!何気なーく聞いておくんなましって言ったのにいいいい!!」
すると突然、そう叫びながら顔を真っ赤にさせた裕子が二人の間に割り込んできた。
「つ、都嶋さん?」
「都嶋!!悪ぃ!!」
「うー・・・、恥ずかしくて目も合わせられないでごんす・・・」
竹広は両手を顔の前に合わせ、裕子に謝った。
裕子はあまりの恥ずかしさに顔を両手で覆い、麻里に背を向ける。
そんな裕子の様子を見て、麻里は言いにくそうに言った。
「・・・・あの、都嶋さん。せっかくの誘い、とても嬉しいんだけど・・・」
「っ、駄目、でございますか?」
麻里の言葉を遮り、裕子は顔をぱっとあげ、麻里を見た。
麻里は少し頭を下げた。
「ああ、本当に申し訳ない・・・。でも、明日なら大丈夫だ。明日は、一緒に帰ろう」
「へ・・・・・・、は。はいー!!喜んで!!」
麻里に誘いを断られ、一瞬泣きそうな顔をした裕子だったが、そのあとの麻里の言葉で、最後には笑顔になっていた。
それを見て、麻里はほっとした。
「それじゃあ、また明日な」
麻里はそう言って教室を出ていった。
「はいー!さいならー!」
裕子は麻里に向かって両手をブンブンと振った。
そして麻里が教室を出ていった後、今度は竹広が裕子に頭を下げた。
「都嶋ー、本当にごめんなー」
「いえいえー。明日一緒に帰れますし、第一私は全く気にしとりやせん!」
そう言って竹広に向かって、裕子はガッツポーズをした。
「そっか!」
竹広もそれにならってガッツポーズ。
そしてまた二人でニッと笑い合った。
「(・・・、やっぱ、馬が、合う、のか?)」
今まで自分の席でゆっくり本を読んでいた良介は、偶然二人のやりとりを見て、そう思ったらしい。