二人のお昼
「へぇ、河村テニスやってたんだな」
「小五で、やめた、けど」
「俺はサッカーやってるぜ!」
「いつ、から?」
「そーだなぁ・・・、四歳あたりから、だっけ?」
お互いの話をしながら、竹広と良介は各自で弁当を食べていた。
お昼時間が始まってまだ数分しか経っていないが、この二人はもうすっかり仲良くなっている様子だ。
「結構、長いこと、やってるな」
「そうだなー。俺の場合姉ちゃんがやってたってのもあんだけどな!」
「井野は、うまいのか?」
「あ?俺?うまい・・・、のか?」
「おれは、知らない」
「・・・・自分のことはよくわかんねーな」
「そうか・・・」
こんな会話だが、竹広たちにしては楽しいらしい。
すっかり二人の世界に入ってしまったようだ。
そのせいか、二人はまったく気付かなかった。
「おい、あいつら・・・」
「だよな?俺も気になってた」
「いつからああなんだ?」
「ついさっきからだろ?井野は今日来たばっかだし」
「前に会ってたとか・・・」
「いや、二人の態度からしてそれはないだろ」
クラスの生徒に、お前らいつから仲良くなったんだ的な視線で見られていることに。
「なあ、河村」
竹広の言葉に良介は顔を上げた。
「ん?」
「俺さぁ、河村はのろまな奴だって聞いたんだけど」
「ああ。おれは、のろまだ。自分でも、そう思う」
「・・・・でも弁当食うの早くなかった?」
「そうか?」
「そう早かった!!なんか、お前三分くらいで食べてた!!」
そう言って、竹広は机の端に置いてある弁当袋をビシィッと指差した。
確かに竹広の言うとおり、テニスの話をし終わったあたりでは少なくとも良介は弁当を完食していた。
「それ、ユウにも、言われた。おれは、普通だと、思ってるけど」
「ゆう?」
良介の口から聞いたことのない名前が出てきて、竹広は首をかしげた。
「誰?ゆうって」
「ここの、クラスの、女子。井野の、座ってる席に、座ってる」
「あ、ここ休みじゃねーの」
そう言いながら竹広は後ろにある机を見た。
「毎日、遅刻、してる」
「ふーん」
そう言って竹広は顔を戻して再度良介を見た。
「んじゃ、そいつは来るんだな?」
「一応」
「で、河村とはどんな関係なんだ?名前で呼んでたけど・・・」
「いとこ」
「へ?」
良介の言葉に竹広は思わず聞き直した。
良介がもう一度言う。
「いとこ」
竹広はぽかんとした表情のまま尋ねた。
「お前、いとこと同じクラス?」
「で、前の、席」
竹広の言葉に良介が付け足した。
それを見て竹広はほおー・・・と感心したようにため息をつく。
「すげえ・・・。やっぱ世の中って狭いよなぁー・・・」
ボソッと呟いたその言葉は良介には聞こえていなかった。