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マイペースな世界で。  作者: 亜孤
プロローグ
4/8

マイペース少女と不思議なおばあさん


「・・・っ、あ、あの角を曲がれば・・・、学校、ごわす!!」


家を出てから数分が経過したところだった。

学校が間近に迫ったところで、裕子は最後のラストパートをかけようと目の前の角を曲がろうとしていた。


「ご、ご、五時間目までには、間に合わせて、見せるです!」


そう言って角を曲がろうとした瞬間だった。


「うえぃ!!」

「あれまー」


反対方向から運命の王子様が・・・ではなく、背の低いおばあさんが現れたのだ。

ぶつかりかけたのを防ぐため、裕子はすぐ後ろへ下がったが、バランスを崩し思い切りしりもちをついてしまった。


「あててて・・・」

「ごめんなさいねー、学生さん。大丈夫ですか?」


おばあさんが心配そうな顔で尋ねてきた。

裕子はすぐに顔を上げ笑顔で答える。


「はいー!おしりを打っただけでござんすから!おばあさんはだいじょぶですか?」

「はい、あなたが止まってくれたのでね。当たらずにすみました、ありがとうございます」

「いえいえー」


そう言いながら裕子はゆっくりと立ち上がった。

やっぱり、ちょっとだけおしりがヒリヒリする。


「いいえ、本当に助かりました。もう歳なので、足腰が悪くて悪くて・・・。こうして毎朝歩いていますけど、体力も衰えてきたのがわかるんですよー。歩くスピードだとか反射スピードとか、遅くなってますしね」

「・・・そう、なんどすか?」

「ええ、そういうものですよ。私みたいなおばばなんて、いつ死ぬかもわからないんですから」


家族にはいつも心配されてたわー。

おばあさんは笑ってそう話した。

だが、裕子にはその顔が泣いているように見えた。


「そうだ、学生さん。お名前はなんておっしゃるの?」

「あ、都嶋裕子です」

「へー、裕子さん。私は富田スマと申します。ふふふ、また会えるといいですね」


さっきの寂しい笑顔ではなく、優しくて暖かい笑顔でスマは言った。

その笑顔に裕子もつられて笑顔になる。


「はいー、そうでござんすね!」

「ふふふ、裕子さんは面白い人ですね」

「そうでございますかー?」


裕子が聞くとスマはゆっくり頷いて裕子を見た。


「ええ、本当に。今を大切に生きてくださいね」


そう言い終わると、スマは、それでは。と言って軽く会釈し、裕子が来た道をゆっくりと歩いていった。

裕子もゆっくりとおじぎして、スマの後姿を見送った。

小さかった背中がもっと小さくなっていく。

その後ろ姿に、裕子は少し寂しさを覚えた。


「(また・・・、会えるんどすかね?)」


そんなことを思った直後だ。

聞き覚えのある音が街中に高らかに鳴り響いた。

キーンコーンカーンコーンという甲高いチャイムの音・・・。


「あ・・・」


そう声を上げて、裕子は口に手を当てた。


「忘れてた・・・」


そして、くるっと後ろを振り返り、学校へ行く道を全速力で走り出した。


「いやあああ、五時間目が始まってしまうでごわすううう!!」


またそう叫びながら。

その叫び声が背中から聞こえたスマは足を止め、ゆっくりと顔を上げ空を見た。


「本当に、元気なお嬢さんだこと・・・。孫を思い出すわ」


優しく微笑んで、そう呟いた。


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