完璧少女の昼休み
お昼のチャイムが教室中に鳴り響いた瞬間、一人の少女が誰よりも早く立ち上がって早々と教室から出て行った。
手にはきちんとお弁当。
そして、早足で長い廊下を無言無表情で歩いていく。
通り過がりの生徒が何人かチラチラこっちを見てくるが、それはいつものことなので無視をした。
「やっぱ、いつ見てもクールだよねぇー」
「ほんとよー。おまけに綺麗だし、頭もいいでしょ?」
「そうそう。同じ高校一年生とは思えないわよねー・・・」
こんな声も聞こえてきたが、それももう慣れた。
でも、やっぱりいつ聞いてもいらいらしてくる会話だ。
本当は違うのに、そういうのじゃないのに・・・。
そう思いながら、少女は目的地へ歩く速度を速めた。
「ふぅ・・・、落ち着く・・・」
そう言いながら少女は両手を上にあげ、ぐぐーっと思いきり伸びをした。
今にも壊れそうなドアを勢いよく押すと、ギギィというさびれた音と共に気持ちのよい風が体に当たる。
ここは屋上。ドアの気味悪さからあまり人が寄り付かない場所だ。
しかしドアを開けば話は別で、風は気持ちよく、昼寝にも最適なすばらしい場所になる。
「(ほんとにいい場所だ・・・。誰にも知られたくない・・・)」
少女は空を仰ぎながらそう思った。
少女の名前は、山代麻里。頭良し顔良し運動良しの何でも出来る完璧少女だと、周りからは言われている。
実際に麻里は、頭も運動神経も普通よりは良い方であるし、真面目な性格から学級委員長という役柄にもついていた。
が、一つだけ欠点があった。
「(さて、昼食を・・・)」
そう思い後ろに振り向いた瞬間・・・
「おわっ・・・」
足を絡まして、麻里は顔からべちっとこけてしまった。
そう、完璧少女と羨ましがられている麻里は超がつくほど鈍くさいのだ。
「いった・・・」
モロにぶつけたのか赤くなった額をさすりながら、麻里はムクリと起き上った。
誰もいなくてよかった・・・。と心の中で安堵しつつ、またやってしまった・・・。と深く反省。
これはよくあることだった。さっきの屋上へ向かう時だって、何度か足が絡まりかけたのは麻里だけの秘密だ。
「こんなだから、友達ができないのか?」
麻里はポツリとそう呟く。
こんな自分を見てほしくなくて、幻滅されるのが嫌で、麻里は中学、そして高校と誰とも関わろうとしていなかった。
しかしそんな麻里に初めての友達が出来るのは、今からそう遠くはない未来だったりする。