転入生とのろま少年
お昼のチャイムが教室いっぱいに鳴り響く。
それを合図に周りの生徒達はガタガタと立ち上がり、各自自分たちがご飯を食べるところへ移動していく。
ほとんどの生徒が立ち上がっていく中、一人だけ椅子に座ったまま何かを書いている少年がいた。
「なあなあ、何してんだ?」
一人の男子生徒が気になったのか、その少年にそう尋ねてきた。
少年は何かを書いていた手を止め、ゆっくりと顔を上げてその男子生徒を見る。
「さっきの、数学のプリント、解いてる」
ゆっくりと途切れ途切れにそう言って、少年はまた目線を下に戻した。
「さっきの数学のプリントって・・・、終わる五分前に配られたやつ?簡単だからこの時間でやっとけって言われた・・・」
男子生徒の言葉に無言で少年は頷いた。
それを見て、男子生徒は目を丸くし、わざとらしく驚いた仕草をした。
「えっ!お前、まだできてねーの!?」
少年はまたゆっくりと頷いた。
その様子を見て男子生徒はふと思い出した。
そういえば、こいつのろまで有名な奴だったっけ?
だれかがそう言っていたような気が・・・。
そう思いながら、男子生徒は少年の前にある椅子に座ってそのまま少年の方を向いた。
少年はまた顔を上げて、不思議そうな顔で男子生徒を見る。
そんな少年の顔を見て、男子生徒は二カッと笑ってこう言った。
「俺、今日はお前と昼飯食う!!」
お前なんかおもしろいし!という言葉は言わないでさっきまで手に持っていた弁当を少年の机に置いた。
男子生徒の名前は井野竹広。竹広は今日転入してきたばかりの生徒だった。
「なな!いいだろ?」
竹広が少年をまっすぐ見て聞いた。
少年は最初は少し驚いていたが、やがてプリントをしまって小さく笑って頷いた。
「ああ」
少年の名前は河村良介。学校内でも有名なのろま少年。でも、頭はいいらしい。
今の時間はちょうど十二時十分。
遅かれ早かれ、二人のランチタイムはスタートした。
そして、二人の友情もここからスタートした・・・らしい。