第三部
いつもサブタイトルを考えるのが面倒くさくてこんなにしてます。
不精ですいません。
読んでいただければ幸いです。
この幸いっていう言葉が好きなんだよなぁ。なんかいい。
それでは短いですがお楽しみください。
僕に依頼しに来るお客さんの猫探しは特に大変でもない。近所のおばちゃん達の溜まり場に行ってどこそこの猫見かけませんでしたかなんて聞けば居場所はたちまちわかってしまう。おばちゃん達は何でも知っている。隣のお宅の冷蔵庫の中身から町内会会長の浮気相手の週末の予定まで。僕が探偵事務所を開き続けられる一因にはおばちゃんと仲が良いというのも挙げることができるだろう。飯代がなくなってくると届くカレーライスの差し入れは涙が出るくらいありがたい。ただ縁談だけは持ってきてもらっては困る。(半年に2、3件届く)猫探しもお金をそのまま渡すのは申し訳ないから頼んでくれていると思えてきた今日この頃だ。話がずいぶんそれてしまったが、もう一度猫探しに戻る。
猫を探すのが楽なら何が大変かという話になってくる。猫探しという仕事には3つの段階がある。一つ、猫を探しだし、二つ、猫を捕まえ、3つ、飼い主に引き渡す。という3つだ。一番の問題は第二行程の猫を捕まえるというところにある。おとなしくケージに入ってくれる猫は少ない。ほとんどの人は引っかかれたり、また逃げられたりしてしまう人がほとんどだろう。
まぁジェニファーちゃんを捕まえに行くとする。公園でだべっていた三人のおばちゃんを捕まえて聞いたところ一時間前三丁目の佐藤さんちの例にもよってまたブロック塀の上を歩いていたようだ。そして、右隣の田中さんの家に向かってということだった。肉じゃがを持ってきてくれるという約束をしつつ、一時間先に進んでいるとしたらと検討を付ける。相方はもうアイドリング中。彼女はいつでも対応できる。猫を入れるケージしかもジェニファーちゃんが入る特注サイズをぶら下げながらブロック塀と室外機などの間を見ていく。30分といったところで彼女はすぐに見つかった。まったくもって懲りない猫である。中華料理屋の室外機にはまっていた。油まみれでチリソースくさい。ケージのふたを開けこちらのスタンバイはOKだ。そしてここからが彼女の出番だ。ジェニファーちゃんは嵌るのが好きなくせにケージに入ることが大嫌いだ。そこで彼女はジェニファーちゃんの目の前を慎重に手の届かない距離を測りながら歩いて行くのだ。ジェニファーはまだ中華料理屋から出てくる空気に夢中になっているふりをしている。ジェニファーもまた距離を測っているのだ。二人の戦いは続く。40センチに近づいたところでジェニファーは体をベストポジションに持ってくる。マキはいつでもケージのほうに走りこめるように体勢を整える。後ずさりしながら誘いをかけるとジェニファーが折れた。手を出すには距離が遠いがたまらず出してしまう。手を掠めながらケージに逃げ込む。猫も負けじとケージに突っ込んでいく。猫のしっぽまで完全に入ったことを確認しつつ僕は扉を閉めた。戦いは長くても勝負が決まるのはあっという間だ。ケージに空いたマキ専用脱出口から素早く出ると、そこから無念そうに手が伸びてくる。その手に向かって長い尻尾をひらひらと振って勝利の宣言をした。
お分かりになったとは思うがマキはネズミ。何世代にもわたってわが一族が繁殖させているネズミである。わが探偵事務所のアイドル。老若男女から愛されるマスコットでもあり、僕の食卓を一品増やしてくれる女神でもあり、私の大切な、大切な相棒である。
読んでいただきありがとうございました。
続きで会えることを祈っています。