第十九部
僕はあと何冊本を読めばいいんだ?
教えてくれ。僕はあとゼミのための本と勉強用の本と資料の本を読めばいい?
パソコンは何も教えてくれない。
ただただ遅れまくってすいませんでした。
あー、授業をこんなに減らしているのに僕の時間はどこに消えて行っているのだ?
精神と時の部屋に籠りたい・・・。
完結できるよう頑張ります。
「これからどうするんです?」
「まぁ色々と情報収集してみるしかない。」
「実に探偵らしいお答えですね」
「君はどうする?ここの部屋にいてもいいが、結局は相手の手中だしな」
「あなたが不安なのでついていきます。また、コーヒー飲んで呑気にお昼寝されても困ります。」
「とりあえず人の話を聞きに行かないとね。このフロアには僕たちみたいな宿泊者がほかにもいるんじゃないかな」
隣の部屋を訪ねてみる。
人から話を聞くのはなかなか大変ではあるのだが、すんなりと部屋の中に招き入れてくれた。
聞いたところ、そのように話がついていたようだ。
フロア全体に語尾の狂った手紙が届いているようだ。
まったくあの兎は細かいところまで用意周到である。
二、三人に話を聞いたのでとりあえず名前を伏せてテープに記録したものを起こしておく。
彼はスマートだった。話す言葉は完結だったし、破綻もなかった。
流石作家ということだろう。
イスに深く腰掛けティーカップを片手に足を組みながら我々の話に答えてくれた。
なんというかインタビューのようだった。彼の後ろにはパソコンのモニターが青白く光っている。
ホテルのような一室の床には10冊くらい洋書のように仰々しく装填された本が投げ出されている。
「自分がここに来たのは?えーと、二か月前ぐらいかなぁ。急に招待状が届いたんだよ。そう、あのへんな兎からね。なかなかユニークだ。今ではあの語尾にだって慣れたよ。最近じゃ移ってきそうなのが怖いね。こんにちワオーンって。
まぁ要するにどうでもいいんだけどね。
ここはいい環境だ。やりたいことが何でもできる。そりゃ文を書くことさ。今まで様々な障害があって書けなかった。作家が一番に書かなくてはならないもの。それは自分の人生設計さ。文を書いて生きていくためには読者が必要不可欠だ。それ故に書きたいものを書くときの一番の障害はその読者となる。自分は読者が読みたいものを書きたいんじゃない。自分が書きたいものを書きたいんだ。それが書けないなんて死んだのと同じだ。そもそも作家なんて文章でしか自分を表現しえない不自由な人種だっていうのに、文章に自分が写らないなんてどうかしている。
今では満足しているよ。ああ、この部屋は散らかっているね。床に本が放り投げられている。それ全部自分の本だよ。ああ、ここ二か月で書いたんだ。自分が自分のためだけに書いた自分専用の自分にとって特別な本たちだ。え?ほかの人たちに読ませるわけないだろ。本というのは本来読ませたい人なんて言うのはごく限られているんだ。自分にとってそれは自分一人だ。他人に読ませたらそれは自分だけの特別な本ではなくなってしまうだろ?まぁいいさ。理解できなくても。とりあえず自分にとって今の環境がベストだ。これ以上の環境は要らない。自分は自分だけのために書くし、そのための環境を整えてくれるのならば喜んでここにいるだろう。でもね。正直驚いたよ。こんな部屋一つだけでいいなんてね。昔は世界を見て回らないと小説は書けない、なんて嘘八百を教え込まれてそれを馬鹿正直に実行していた自分は本当に馬鹿だったよ。
え、なんでって小説を書くのに広い世界は要らないんだよ。自分の世界だけが必要なだけだし、人間はそれしかかけない。
ここの支配人?あったことはないな。自分が会ったことがあるのは兎だけだよ。まぁ正直どうでもいいけどね。でもさ金持ちの道楽じゃないかなここにきてお金を払った覚えがない。まぁそれも意味がない。
今意味があるのは自分がここに満足していて、ここにいさせてくれるなら自分に望みはないね。
君は探偵なんだって?ああ、兎からの手紙に書いてあった。人探しだったっけね。でもねー。その人もここに満足していると思うよ。引きはがしたらかわいそうだからそっとしておいてあげてよっとだけが自分からの言葉だね。
あー気にしないで。ここにいると人と話をしないからね。久々に人と話ができて自分も楽しかったよ。また気が向いたら訪ねてきてくれ。自分にできることがあったら協力するよ。君の幸せのためにね。
それじゃ、また会うことがあったらまた話をしよう」