第十七部
はてさて激しく興味をひかれたためお化け屋敷へ行ってみることにする。
元来大きく心を動かすことの嫌いな私にとってお化け屋敷とは初体験だ。
怖がるために見るホラー映画やお化け屋敷を人々がどのように活用しているのかを知るのは私の人生の命題ではあるのだが、リアルに怖い目にあいやすい人間にはまったく理解できないことだろう。
慮るに刺激といったものに違いないのだろうが、私にとって刺激とはお金を払う前に押しかけてくる厄介な代物だ。朝一番の電話が何よりの心の毒である。それがなくては食べていけないのではあるが。
はてさてお化けにもきちんとシフトがあり時給があり休憩があるようだ。
先ほどの光景を見たためにわかっていたこととはいえ、お化け役が仮装のまま客と同じ通路で出入りをしてはいけないように思われる。彼らはお化けらしからぬ胸を張り決意を新たに意気揚々と屋敷内へ入っていった。
これでようやくお化け屋敷となったようだ。
客も戻ってきてずいぶんと長い列となった。それから五分経たずに開館となる。
黒い幕をくぐると想像通り薄暗い空間が前に伸びていた。
傍らに立つ小男が声をかけてくる。
「屋敷内は暗く足元が大変危険ですので案内を務めさせていただきます」
早速違和感が。その説明は映画館じゃあるまいに、しかもお化け屋敷に案内係とは。これではカップルで入った男女がきゃっきゃうふふといった遊びができぬではないか。怪しからん。
その後も案内は続く。
「こちらは日本古来から伝わる妖怪、ろくろ首です。ろくろ首には首が抜けるタイプと伸びるタイプがありますが首を実際の人間が演じようとした場合前者は見せ方がとても大変なため当お化け屋敷では首が抜けるタイプを展示しております。あらかじめ注意しておきますが実際に首が抜け落ちているわけではありませんのでご安心ください」
「こちらのダゴンは古代パレスチナで信仰されていた海または農耕の神です。魚の顔をしているのがわかると思います。クトゥルフなどで有名になり、ダゴンを信仰している人々で魚に似た顔のことをインスマウス面などと言います。そのような顔を近所で見かけたら地域にダゴン秘密教団があるかもしれませんね」
エトセトラ、エトセトラ・・・。(これ以上は読者の皆様方のSAN値に影響があると思われるため非常に残念ではあるが割愛しておく。)
「最後までお付き合いありがとうございました。こちらにお茶の準備が整っております。古今東西失われた大陸から集められた妖怪たちから無事生還できたことを心よりお喜びください」
紅茶のよい香りが漂っている。
クッキーが添えてありこの気配りはうれしい。
途中から、いや最初からお化け屋敷というよりお化け博覧会といったほうがよかろう。それにしてもボリュームは大きかった。お化け側が本気で驚かそうとしつつも、案内係の解説によってすべてが見世物に代わっていったのは正直涙を禁じ得ない。
結構な長さを歩かされた。紅茶の温かさが眠気を誘う。クッキーをつまんだ気もするが、うまく掴みきれず落としてしまった気もする。
お化け屋敷のなかで不覚にも眠りのベールに包まれていった・・・。