第十三話
更新遅れてすいません。
ここからバベルの塔に乗り込んでいきます。
がちゃ、チリーン
入口のベルが鳴る。
いらっしゃいと口を開きかけた女将は口をふさいだ。
あからさまに嫌悪感が見て取れる。
後ろを振り向いて確認するとそこには背が高く身の引き締まった男が子供を連れて立っていた。
見るからに高そうなスーツを着ている男と対照的に子供はみすぼらしい恰好をしていた。
女将が耳元にそっと囁いてくる。
「さっき見たのはあの子だろ。あんた気を付けなよ」
それだけ言うとカウンターの中に引っ込んだ。
男はいかにも朗らかに話しかけてきた。
「君がうちの息子がこの町の男どもに絡まれていたところを助けてくれたそうだねぇ。世話になったお礼をぜひしたいと思ってここまでやってきた次第なんだ。」
「僕は何もできませんでした。むしろ彼のおかげでこのありさまですよ」
「それはすまない。実にすまない。息子はやんちゃでねぇ。うむむ、この怪我はひどいねぇ。せっかくの男前がもったいない。さてどうすればいいか。こんなしけたバーでしっかりとした治療が受けられるとは思えないしこれはどうすればいいだろう。息子ならこんなときどうする?いやはや私は何をすればいいだろう。だからといって人に聞いてでは誠意がないねぇ」
「気にしなくていい。あそこで息子さんが私を蹴ってくれたからこそあの程度で済んだともいえなくともない。まぁどうしても気が済まないと言うなら酒の一杯でもおごってくれたなら水に流すよ」
「いやいや、それだけではねぇ。そうだ。君はあそこに興味はないのかい?それ以外でわざわざここに来ている意味はないからねぇ。ちんけな街、しけたバー、まずい酒。この町には君が求めるものは何一つないからね」
「一応聞くけれども、あそことは?」
耳元に不自然に口角のつりあがった口を寄せてくる。
「ここまできて、ここまで話してあげたのに、まだしらばっくれるのかい。バベルだよ。バベルの塔。全てから解放され、願を手に入れることができる。夢の王国、魔法の世界」
「まるでネズミの世界だね。僕はネズミは好きだが、耳が皿ほどもある赤いズボンをはいたネズミは嫌いなんだけどね」
「あそこの夢は一時。バベルは永遠。そうだ、そうだ。これをあげよう。これが一番。さあて、さてさてこの魔法のチケットを君の懐に仕舞いたまえ。それでは私は失礼しよう。そうそう息子よ、しっかりと頭を地面にこすり付け心の広いのり君に許しを請うのだよ。そうだ、いいぞ。それでは行くとしよう」
手に残るは仰々しい煽り文句がこれでもかと書かれたバベルの塔行のチケット。
崩れゆく未来が私の前になければいいのだが、それは難しい話かもしれない。