第一部
朝から気分が悪い。まぁ朝と言う時間でもないのだが、、
昨日飲んだ酒のせいだろう。決してたくさん飲んだと言うわけではない。コップ一杯すら飲んでいない。一口目からろくでもないアルコールの味がした。酔えば気になるまいと二口目を口に入れ、三口目で飲みきることをあきらめた。決して、僕のプライドにかけて言うが酒が飲めないわけではない。きっと、いやむしろ強い方だと自負している。ただ昨日飲んだ酒は明らかに異質な味がした。地方にある町だからきっとどぶろくのようなものだったに違いない。それも何かの動物の母乳から作ったような。独特な甘味と酸味を兼ね備えていた。今でも胃袋から味が這い上がってきている。こんなことになるんだったら悪手ではあるがもっと飲んでおけばよかったとも思う。なんせ三口ぶんの水分を吐き出すことは僕にとって難しい。吐けば楽になるぞなんて今じゃ刑事ドラマの常套句になっていると言うのに、、、。
硬いベットから体を起こす。どこでも寝られると言うのが僕の特技である。まぁいつでも寝てしまうと言うのが短所ではあるが、それはこの際どうでもいい。今の僕に必要なのは冷たい水流にぼんやりとして微かに疼く頭を叩き込むことであった。机さえないような安い宿であったが風呂はないが幸い手洗いができる位の小さな流しが付いていた。
最初の一、二秒は赤い鉄錆色の水が出てきたが山の雪解け水と銘を打たれているただ勢いと冷たさだけは十分な水が出てきた。目的からすると十分ではあるのだがちと頭を突っ込む空間が狭い。覚悟していたがたまらず頭をあげたところ当たり前だが蛇口を下から突き上げることとなった。たんこぶができただけならよかった。本当にそれだけなら財布にも優しく、店の人から怒られることもなかったのだが。この世の中は僕のような疲れた男に冷たいものだ。察してもらえるだろうが蛇口が外れれば水を塞き止めるものは何もない。一張羅の疲れきった俺の相棒はずぶ濡れになり寒中水泳ばりの苦行に体は飛び上がった。その間水は流れ続け下の階で寝ていた女主人の顔に滴ったとのことだった。幸いな点はそこであり、他の客や荷物がなくてよかったと胸をホッと撫で下ろした。鉱山の落盤事故で旦那を早く亡くしたとのことではあったが、綺麗な女性ではなく体格の素晴らしい男よりも男らしい、喧嘩など彼女の一叫びで四散させてしまいそうなほどのおばちゃんだった。
そして床にこぼれた水を雑巾とバケツで駆逐している惨めなネズミのような男がその後出来上がっていた。