表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

仲野真奈美の誤算



ブログ開設一周年記念リクエスト企画より。


フラッシュ・ピースでちらっと登場した、海藤の上司「仲野真奈美」視点のお話です。


海藤が摂子と付き合う以前の彼女について心情を吐露してますので、ご注意を。









「こいつはチョロいな」、って。

正直思ってたワケ。


あたしの敗因ってば要するに、アイツに関して、すべてにおいて想定外だったってコトだ。











・仲野真奈美の誤算・











「あーら、まった今日はブルー入ってんねー、新人!」

「……髪崩れる」


わしゃわしゃ、っと硬い髪を撫でくり回すと、不機嫌な声が低く返ってきて思わずほくそ笑む。

この入社三年目になる新人は、とにかく他とは反応が違って面白いので、ついつい構ってしまう。

察しのいいアタシは、その行動がどんな感情から生まれるものかという答えに、すでに辿りついていた。

海藤久成。

五つは年下の男。

無愛想な返事に遠慮のないデカい態度、目つきの悪い三白眼、おまけに口も悪い。

社会人としてはあまりにお粗末な、そんな男に、アタシは目下惚れている。


「最近ずっと沈んでるね~。仕事のこと……じゃないね」

「なんで分かんだよ」

「だって君が仕事のことでこんなになるの、見たことないモン。ていうか、仕事関係だったら、なおさら顔に出さないでしょ」

「相変わらず人物観察冴えてんな……」

「まーねー。人生経験豊富ですから」

「はっ、年の功じゃ仕方ねーや」


このクッソ生意気な態度、どーゆんだろ。

まあ、アタシが初めて会った時に言った言葉「敬語やめろ」ってのを、こいつは律義に守ってるんだけどね。

しかし、普通いくら上司命令とはいえ、それを本気で続ける人間ってのは中々いないよ。こういう所からすでに、あたしの手に余る片鱗を見せつけてたんだよね~…

あ~あ、どこで読み間違えちゃったのかなー。

初対面なんて、「すぐ潰れるな」とか思ってたのにさ。


「もしかして、まーた彼女変わった?」

「あんたには関係ない」

「『私と仕事どっちが大事なの』とか『他に付き合ってる女いるんでしょ』とか言われて面倒くさくなって放りだしたんでしょ」

「見てきたように言うな」

「図星だ☆」


いえーい、とピースサインを掲げて見せる。

平日のオフィスの勤務中、はしゃいでるのは私達ぐらいのもんで、周りからジロッと睨まれてしまった。


「ほら、仕事中なんで、どっか行って」

「てへぺろで許してくれるってー」

「あんたってやつは…」


はーっと深いため息をついて項垂れるヒサ。

そうそう、こういう所も第一印象とは大いに違ったね。

意外と常識人なわけ。


「で、やっぱ彼女変えた?」

「あとで話す」

「これも図星、と」

「仲野サン」


いい加減キレそうになってるヒサの髪をかき混ぜて、アタシはようやくそこで退散してあげることにした。

久しぶりに会うんだから、こんぐらいは許してってば。







『この業界、きっついよー。サービス残業なんてザラ。それでもやってける?』

『上等』


ヤンキーがそのまま社会に出てしまったような面構えをした新人は、私が「上司命令」として下した敬語禁止を律義に守り、自信満々に言ってのけた。

アタシは正直、一か月で潰れるな、と目測をつけた。

こういう、高校デビューしてそこそこ悪い遊びもやってテキトーに大学入って、モテて、なんてーか、人生ナメてかかってきたようなヤツ、プライド高いから自滅してくのよね。

どこまで持つかなー、と、物凄く印象に残ったから、気にしてた。

そうしたら、意外や意外、粘る粘る。

もちろん、いっぱい失敗してたし、怒られてたし、辞めろって社長に怒鳴られてたこともあったけどね。

でも、社会人としてのスキルはそれなりに備えてて、目端がきくし、気遣いもできる。

デキるな、って思ったのと同時、こりゃーモテるわ、とも思った。

それも、軽いモテじゃなくて、重いモテのほう。

女に貢がれるタイプってやつね。

それから、ヒサを観察したりからかったりすることが多くなって、いつのまにか好きになってたことに気づいた。

飲みに行くことも多くなって、付き合いも長くなって、アタシん中でも好きがどんどんでっかくなってったけど、相手は全然だってことに気づいたのは、そんなに遅くでもなかった。


『なんか、女ってことごとく独占力強いし、ついてけねー…』

『そりゃヒサのワガママってもんでしょ。好きなら独占したいの当たり前だって』

『まぁ、そういうの、ちょっとは可愛いと思うけど』

『君は元々女泣かせな気質みたいね~。一人の女じゃ満足できないし、したいとも思ってない』

『…つーか俺、恋愛とか合ってねーのかも』

『はあ?女の子嫌いになっちゃったか?』

『いや、それは好きだけども。大好きだけども。付き合うとメンドくせー』

『クズだね、クズ』

『もういーわ、クズで』


なんて、酔いつぶれて饒舌になってるヒサと飲み屋で繰り広げた会話も記憶に新しい。

こういう男って、一生女に貢がれはするんだけど結婚はしないんだろうな~とか思ってたわけ。

けど、元カノに泣きつかれて弱ってる所を見た時、その予想もまた覆された。


『女ってわかんねぇ…』

『ていうかさ、君はどうしたいわけ?アタシも女だから、その元カノの気持ち分かっちゃうし、味方したくなっちゃうわ。本気で好きじゃないんなら突き放した方が優しいよ』

『……こっちだって、好きだって思ってるよ。でも、相手はもっと大量に色々欲しいって注文してくるんだよ。どんだけ返しゃいいのかわかんねーよ』

『君は中学生か!?』

『大切にしてると思っても、向こうには違うんだそーだ』

『あー、はいはい、そういうこと……』

『別れないで欲しいっていうから、じゃあ付き合うって言って、いざ付き合ったらもっと自分のこと考えろって言われて』

『……君には、君なりの好きがあったのにね』

『俺には、全部を誰かにやるなんてできねーわ……そういうのやれるヤツら、すげーよ』

『………』

『最初は、今度こそは大事にって思ってたのにな……』



軽い、って、アタシが本気で落とせば、こんな男チョロいって、思ってたわけ。


でもそんな男じゃやっぱり、このアタシが、好きだって分かってて何年も告白できないでいるなんてことに、なるワケなかったんだよね。


海藤久成。

五つは年下の男。

無愛想な返事に遠慮のないデカい態度、目つきの悪い三白眼、おまけに口も悪い。

でも、態度がデカイなりに努力してて、目つきが悪いけど根本的に気遣い屋で、口が悪いけど純情だったりする、やっぱどこを取ってもモテ男の条件満たしてる、そんな男。


―――誤算だったなぁ……


こりゃムリそうだな、って初めて思った。

こいつのハートを初めて射抜く女は、きっとアタシじゃない。

ていうか、現れないんじゃない?

こいつにハートを射抜かれる女は、多分ゴマンといるだろうけど。


―――そんで、アタシもその中の一人に入っちゃってる、なんて。


なんて出来の悪い冗談だろ。


こいつに、もし本命どストライクの奥さん候補が、もし、万が一現れたら、死にたくなるほどのからかい地獄をお見舞いしてやろう。


片思いの相手から延々恋愛のグチ聞かされたバツだ、バツ。

人の気も知らないでさ~。

まあ、言ってないんだから仕方ないけど。


…でもこの男のことだから、そんなアタシの想いにも、もしかしたら気づいてるのかもしんないな。


はーあ。

覚悟してなよ、ヒサ!







なんてことを心の中で決意したその数カ月後に、どー見ても本命っぽい彼女ができたので、部署移動でアタシの直属の部下になったヤツを日々からかうのが日課になっている。


「あー、ヒサがまたケータイ見てニヤニヤしてる。キモ~い」

「ニヤニヤなんかしてないっスよ」

「してたよね?」


周りの同僚達に聞くと、みんな生温かい目になって「さあ、どうかな」と言葉を濁してくれるので、本人はますます恥ずかしくなったらしい。


「べ、別に、ただ予定のチェックしてただけっスから」

「てことはやっぱ彼女からのメールだったワケね」

「う」

「うわ~~~~ヒサが赤くなった!ウケる!」

「パワハラ!岸田さん、マジこの人なんとかして下さいよ、パワハラっスよ!」


隣に座る岸田さんは、やっぱり生温かい目をして、ゆっくりと首を横に振った。

そして一言「諦めろ」。


「岸田さーん!」

「岸田さんいいこと言う~。何事も諦めがカンジンよ、ヒサ」


この部署でアタシに逆らえるヤツはまずいないんで、通常の反応ね。

とはいえ、パワハラなんて言ってるけど、ここ最近のヒサはほんとにキモいくらい上機嫌で、部内のみんなも驚いていると同時に、喜んでいる。

なんてーか、


(人間らしくなったなぁ)


とか日々思うワケ。


前に、例の彼女とのど修羅場に居合わせたことがあって、気を効かせてすぐその場を外したけど、あの頃のヒサは相当変だったし、参ってた。

まず、愚痴をまったく言わないし、世界の終わりのような顔をして出勤してたもんだから、みんなも心配してたのよ。


それが、どんだけイイ方向に転がったんだか知んないけど、今じゃデレッデレの顔してケータイ眺める有様。


こりゃ敵わないわ。

あのヒサが、アタシに敬語使うようになったのも、今の彼女のためらしいし。


あー、もう。

本当に、大誤算だわよ。

簡単にオチそうな軽そうな男が、実はこれほど時代錯誤な純情男だったとはね。

あたしも、人生経験豊富なつもりでまだまだだなー。


「よし、ヒサ。今度彼女に会わせろ」

「はぁ!?何言い出してんスか!」

「だってアタシのおかげで彼女と付き合えたんでしょ?」

「誰がんなこと言ったんスか、誰が」

「酒飲んだ時、君自身」

「う」

「はい、上司命令~。決定~」

「パワハラ、これパワハラ!岸田さん!」


岸田さんがにこにこしながら首を横に振る。


ふっふっふ…ヒサ、アタシは容赦なく鬼ほどからかってやるぞ。

あたしがイイ男捕まえるまでの間、彼女にデレデレな君を見るの辛い間は、うんと遊んであげるからね。


これが失恋のせめてもの意趣返しだって、……君のことだから、もしかしたら分かってるのかもしれないけどね。


「ヒサ、今日もハシゴするぞー!」

「あーもう、ハイハイ分かりましたっ」










end






こういうアーバンなかっこいい女の人、リアルでも好きですねー。

仲野サンはモデルがいて、女優の「小西真○美」さん。

名前すらそのまんまです。

「小池○子」さんでもいいかな~。

綺麗なお姉さんは大好きです!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ