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そうだ、温泉行こう。


なかゆん氏との共同企画だったもの。


温泉行っていちゃいちゃする話。




気がつけば、デートと名のつく行為が、買い物、散歩、買い物、買い物、食べに出る、そして買い物。


これはいけない!

と何らかの脅迫観念にかられた私は、こう決意した。













・そうだ、温泉行こう。・













そんなこんなで、なんやかやで近場の「とわの湯」に宿泊することになった私たちは、サービスが良いと評判の温泉ホテルでさっそく湯船に浸かっていた。


「うおーん、気持ちー!」


あんまりいい温泉なので、思わず独り言が漏れた。

「温泉行こう」と言い出したらあっさりと「いいけど」と言ってくれた海藤にはびっくりしちゃったなー。

意外と、温泉に行きたいとか思ってた、のかな?


(そうだった……)


山間の木々に囲まれた、最高の眺めの露天風呂を満喫していたというのに、途端にいらないほどの緊張が押し寄せる。


(彼氏とお泊り、なんだ。今日は)


だからなんだとお思いのことだろう。

が、長年、男の人とそんな経験を持つことがなかった私にとって、それはド緊張の不安要素になろうとしていた。

わくわくが半分、どきどきが少し、うじうじが、少々。


「えーい!」


のぼせそうになった頭を冷やすため、勢いよくお湯から立ち上がると、周りにいたお客さんがじろっと睨んできた。


「あ、すいません……」


状況を見て頭を冷やそう、私。







洗い髪を乾かして着替えを済ませた頃には、けっこうな時間が経っていた。

男子風呂では、着いて早々に温泉に入りたいと言った私に付き合って、海藤も湯船に浸かってるはずだ。


(もう部屋に戻ってるかな?)


大浴場に加え、様々な種類の露天風呂や温泉があるので、ついテンションが上がって長風呂になってしまった。

まさか待ってはいないだろうと、ドリンクでも買って行ってあげようかなと考えていた私の予想を裏切り、ガタイのいい浴衣姿の見慣れた男が、自販機のある休憩室で所在なげに立っているのを見つける。


「海藤!」

「ん?」


驚いて大きな声を出してしまった私を振り返って、海藤は不思議そうに眼をすがめた。


(うわ…!浴衣、似合うじゃん…)


とわの湯、というロゴが印字された渋い抹茶色の浴衣は、私とお揃いのはずなのに、着る人が違うとこうも違って見えるのか!

低い腰の位置で焦げ茶色の帯を締めた海藤は、なんか偉く男前っぷりが上がっていた。

体大きいくせに浴衣が似合うなんて、なんか卑怯だなぁ…


「なんか、お前……」

「え?」


逆に、私はどう思われているんだろうと意識した所で海藤が話しかけてきたもんで、妙に声が上ずった。

どうせ、百パー文句つけられるに決まっているけど、それでも乙女心は忙しい。

どきどきしていたら、海藤が近付いてきてさらに心拍数があがる。

ゆ、浴衣の効果は絶大だ!

首筋と鎖骨、なんかいつもよりエロい!

海藤の手が、私の胸元に伸びてくる。


え?え?何する気!?


まさかナニをする気ではないだろうなと気が気じゃなくなった私をよそに、海藤はしれっとこう言って布地をつかんだ。


「お前着つけへったくそだなー。大体、合わせ目逆だよ、逆。あと帯締める位置も間違ってる」


一瞬ぽかんとして、次の瞬間には怒鳴っていた。


「いいの、個人の自由だよ!」

「なに怒ってんの?」


不思議そうに後からついてくる海藤を置き去りにするかの如く速足で廊下をつっきった。


(私のドキドキ返せこのヤロー!!!!)


見惚れるどころかお説教を食らうというのが私の浴衣姿のスペックかと思うと、どっと疲れが湧いてもう一回温泉に入りたくなってきた。







部屋についてからもムスっとしていた私だけど、考えてみれば、私の長風呂につきあって文句も言わず待っててくれたなんて、海藤にすればかなり特別サービスに含まれるくらいの優しさを見せてくれたのに、ちょっと悪かったかなと思い始める。

怒りが持続しないのは私の性分だった。

豪勢なお膳が運ばれてきて、さっそく海藤がお酒に手を伸ばした時、すっと酒瓶を奪って言った。


「お酌してあげる」

「おお…」


私のつっけんどんな態度には特に何も言わず、海藤も言葉少なだった。

気まずいということはないんだけど、初めての温泉旅行を果たしたカップルとは思えない程度には、なんだか自然体すぎる。


(けどまあ、それが私たちか)


別に無理して自然を装っているわけじゃない。

冷めているんでもない。

ロマンスがないわけじゃない。

たまにこうして、変化を望んで一緒に楽しめるくらいに。

それを楽しめる相手が海藤だっていうのが、私にとっては本当に嬉しい。

海藤もそう思ってくれてんのかな。

…そうだといいな。


「すごい美味しいね」

「あー。やっぱ食いもんは産地のもんに限るな」


山菜や川魚を中心にした地味目のお品書きだったけれど、それがまたすごく美味しいんだからなんの問題もない。

特に好き嫌いもない私たちは、あまり会話もせずパクパクと食べることに集中した。







もう一度、お互い別に温泉へ行って帰ってくると、とうとう夜を迎えることになる。

初めに部屋に帰ってきて並んで敷かれた布団を見た時、少し生々しくてまた心拍数が上がってきた。

少し遅れて戻った海藤は目立った反応を見せなかった。


「じゃ、じゃあ、先に寝るね。おやすみ」


その、平静な海藤に、動揺した自分を見られるのがいやで、先に布団の中に入ってしまう。

明日の予定を立ててチェックアウトを早めにしてるから、早寝は変じゃない、変じゃない…

言い聞かせるけど、やっぱり変に見えたようだった。


「じゃ、俺も寝る」

「え」


少し笑いが混じった声でそう言って、海藤が同じ布団に入ってきた。


「布団そっち!」

「ばーか、ここまで来たらやるこた一つだろ」

「そうなの?」

「そうなの」


にっといたずらっぽく笑ってる海藤は、ふざけて見える割にはけっこう強引だった。


「あの、あの、海藤…っ」

「ん?」


私の言葉に返事はするけど、手は止めない。


「するの?」

「する」


即答だ。


「なんのために今まで我慢してきたと思ってんだよ。こっちはだいぶ前から……」

「何?」


よく意味の分からないことを言って会話を途切れさせたけど、そのあとはどう食い下がっても教えてくれなかった。

散々体を暴かれて、明日の旅程に支障が出ないだろうか、と、まどろみながら懸念していたとき。


「ま、据え膳に手をつけないで待つってのは大変だってこと」

「はあ?」


人の頭をぽんぽん叩きながらそう言ったので、ますます意味不明になった。


よく分からないけど、男の人は色々大変なのかな、ということで片づけることにした。


でもまあ、なにはともあれ、温泉はたっぷりと堪能して、特にケンカらしいケンカもなく終わったそのデートは大成功。



―――海藤も温泉はまんざらじゃないみたいだし、日々のデートが単調になってきたらまた計画しよう。



そうしっかりと書き残して、日記帳をぱたりと閉じた。









end








着つけがどうこう言ってますが海藤さんはものっそ興奮してました、というお話。


とわの湯は近所にあります(笑)


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