指を絡めて、寄り添って
「なあ」
呼ばれて振り向くと、仏頂面でこっちを見る海藤がいた。
私は「なあ」っていう名前じゃないのに、条件反射で振り向いてしまうのが悔しい。
「何?」
「…………」
何事かと尋ねると、どうしてか相手は更に苦い顔になった。
私は、そこまで苦い顔をされるほどの何をしただろうかと思い起こすけれど、さっき豚丼を作って「しょっぱい」と文句を言われたこと以外には特別怒られる様なことをした覚えがない。
「なんでもねーよ」
そんなはずはない。
逞しい背中をこちらに向けて、全身から不機嫌オーラを感じる。
え?え?
なに、本当になにが言いたいんだ、コイツ。
私は、片づけようとしていた贈り物の山をとりあえず置いておき、なんだかよく分からない怒りを放っている相手の元へ向かった。
この人といると本当に気の休まる時がないんだけど、私はなんでこいつと付き合ってるんだろうとか、たまに自分でも分からなくなる。
「あの……何か怒ってる?……よね」
「お前アホなの?なんつー無神経な聞き方……」
ムカつくほど呆れた声が返ってきた。
確かに自分でも直球だったなって思うけど、分からないんだからしょうがないじゃないか!
「だって、怒ってる」
「怒ってねー」
「怒ってるじゃん」
「怒ってねえっつーの!」
「怒ってるってば!」
なんだか不毛な喧嘩に発展しそうな雰囲気になってきたな……。
でもでも、絶対怒ってるもん、こいつ!
「うるせー、怒ってねーもんは怒ってねー!つーか、お前はもう少し怒れよ!!」
「はあ!?」
いや、怒ってるし!!
ていうか、逆ギレ!?い、いや、最初から怒ってたっぽいから逆じゃない、か…
ていうか……
私に怒れってなんなのよ、もー!
「お前、あれ見てなんか思うとこないわけ?何を素直に感心してんだよ」
「あれ?って……」
海藤が指差した先には、さっき私が片づけようとしていた贈り物のひと山があった。
贈り物、それは、バレンタインという日がもたらしたもの。
今日は、2月14日なのであって。
仕事から帰ってきた海藤を部屋で出迎えた私は、紙袋いっぱいのチョコを抱えた姿を見て、開口一番にこう言ったのだ。
『わー、さすがだね!すごい量!』
海藤がモテるらしいことは知っていたが、実際目に見えて実感する機会がなかったため、改めてその凄さを見せつけられて素直にそう称賛しちゃったのである。
もしかして、それが気に食わなかった、とか……?
………まさか、まさか。
そんなはずは……
………。
「あのさ…」
「なんだよ、あれが何か分かんねーとか言い出すなよ。キレるぞ」
すでにキレてるんだが、そこは突っ込まないでおいた。
「あの……海藤、もしかして、私に怒ってほしかったの?」
「……………。」
すると、海藤は、ものすごーーーく疲れた、それはそれは気の抜けたような顔になってしまった。
「なんか……宇宙人と会話すんのってこういう感じかって今思ったわ」
「えっと、それって褒めてる?」
私は冷や汗を垂らしながら笑顔で聞いてみたが、海藤はじろっと睨みつけるだけだった。
「なわけないよね~……」
「ったくよ……なんでお前はそう、ことごとく特殊な反応してくるわけ?もう少し世間一般の女の態度を学べよ、情緒とか、駆け引きとか!」
海藤はもう、完全にへそを曲げてしまったようだった。
そんでもって私も、海藤の言葉に少なからずショックをガーンと受けてしまった。
自分が女らしくないのなんて、自分が一番分かってる。
経験の豊富な海藤を呆れさせてきたことは、今まで何度もあるし、それでも頑張って勉強して、昨日だって………
私は、エプロンのポケットに入れていた、小さなプレゼントを手に取った。
海藤がチョコレートをそんなに好きじゃないのは知っていたし、私もお菓子作りなんてそんなにしたことがないから、必死に海藤が好きな物が何かを考えた。
その悩んだ末のプレゼントだった。
(怒らないことで、怒られるなんてな……しかも、こんな日に)
女子力には、我がままに振る舞うことが必須らしい。
思い知らされた気分。
なんだかみじめな気分になって、謝ろうと口を開いた。
「ごめ…」
「おい」
その丁度いいタイミングで、海藤の声がかかった。
「こっち来て、俺の機嫌をとれたら、許してやらんでもない」
いつのまにか横になって不貞寝していた海藤が、背中を向けたまま言った。
「そんなの……」
私はますます混乱してしまった。
また怒られたらどうしよう。
なんで私はこういうとき、女らしい機転が働いてくれないんだろう。
何も考え付かずに戸惑っていると、しびれを切らしたのか、海藤はとうとう振り返ってこっちを向いた。
「なんつー顔してんの。……とりあえず、こっち来いって」
ったく、しょうがねえなあ、とこぼしながらも、海藤は腕を差し出してくれた。
私がおずおずと手を重ねると、ぎゅっと握って引き寄せられる。
「あの、ごめんね?」
「……あるんだろ?」
「え?」
「俺の」
そこまで察しが悪いわけではなかったので、私は即座に、握られていない手に持っていた小さな包みを海藤に渡した。
「さっさと渡してりゃ良かったんだよ」
割と満足そうな表情に見えるが、機嫌がとれたかどうかは分からなかった。
「あの」
「あ?」
「どうやったら、機嫌とれる?」
「そうだな、とりあえず」
『指を絡めて、寄り添って』
バレンタイン企画ものでした~。
別名はどんどん砂を吐かせよう企画。
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