憂鬱は金平糖に
ブログのリクエスト企画。
またも甘いです、甘々。
お菓子を買い込んだ私たちは、さっそく行きつけのダムに面した公園へレンタカーで乗り込んだ。
忙しい日常を助長させるようなビル群の町並みと違って緑が爽やかなここは、国指定の天然記念物が見られる貴重なスポットでもある。
「毎回思うけどよ、いっっっつもここ来てっけど、飽きねぇの?」
「飽きないよ、空気はいいし、眺めもいいし、水もたっぷり見れるし」
「水をたっぷり見れるってなんだよ。ダムだぞここ。ダムおたくだったのお前」
滝とか川なら分かるけどさ~、とぼやいている海藤も、文句言いつつ付き合ってくれるあたり、気に入っているに違いない場所なんだよね。
ダムの岸辺を目指して、道の駅を過ぎて道なりに行くとだんだん人気が無くなるけれど、辺りにはゲートボール場や芝生と適度な草木が生い茂っていて寂しい風景にはならない。
ようやく岸辺近くの駐車場に着くと、それなりに車が停まっている。
やっぱり家族連れで訪れている人も多いようだ。
「今日はけっこう人いるな」
「そうだね。晴れてるし、外に出るのにちょうどいいしね~」
うへぇ、という顔をしている海藤は、別に人が嫌いなわけではなく、子供のはしゃぐ声が苦手なんだそうだ。
ずっとアパート暮らしをしてきて、子供の声が年がら年中聞こえるような環境で育ったため、その声を微笑ましいとは思えないらしい。
「子供とか絶対作らねぇ。迷惑なだけだあんなもん」
少子高齢化を憂う社会に正面からタンカ切るようなセリフを聞き流して、私はトランクから荷物を降ろした。
「とりあえずお腹満たそうよ。カリカリしてるとみんなが逃げてっちゃうよ」
「おーおー逃げろ逃げろ存分に。俺は静かに寝てっからお前遊んでろ」
「もー」
二人分のレジャーシートを岸辺近くの芝生にバフっと敷いて、バスケットに入っているお弁当を広げる。
作ったはいいが、手間のかからないサンドウィッチがメインなのはご愛敬だ。
あとは鶏の唐揚げ、フライドポテト(冷凍のをあっためたやつ)、にんじんシリシリやピクルス、ポテトサラダ。
これだけあれば足りるでしょうと作るおかずも、海藤の胃袋にかかっては瞬く間になくなっていくのでお菓子を買い込んだのだけど、それでも足りるかなぁ。
ちょっと不安になる。
「取り分けるねー」
「おー」
持ってきた黄色地に青い花柄のメラミン素材の食器にそれぞれおかずを盛り付ける。
これまた行きつけの北欧雑貨店で買ったこの食器は、家の中でもけっこう重宝している。
強く落としても割れないのがいい。
「あーやべー。もう入んねぇ」
「ポテチ食べながら言うことかな、それ」
お菓子は別腹なのか、鶏からとポテトサラダは少し余った。
でも私も同じ気分だった。
主食は夜のおかずに回して、心地いい風の中、ぱりぱりとポテチを食べる。
「これ食ったらあっちの方見てみるか」
「うん」
にこっと笑って頷くと、海藤が何かに気づいて不意に顔を近づけてきた。何、と聞く前に舌でぺろっと口の端を舐められる。
「ぎゃっ……!」
「菓子ついてた」
叫ぼうとしたけど口を大きな手で塞がれて「誰も見てねぇよ」と辺りを見回した。
同じく私も周りを見回すと、確かに子供連れが多い中、公園の遊具がたくさん置いてあって親御さんたちは子供の面倒を見るのに夢中だった。
それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
かああっと赤い顔の私の頭をポンポン撫でると海藤は「ひひ」といたずらが成功した子供のように笑って立ち上がり、後片付けを全部一人でこなしてくれた。
「私もやるのに」
「駄賃貰ったからな」
にやっと笑って手を引いてくれるその後ろ姿はイケメン以外の何者でもない。
最近は特に私を甘やかすのが上手になって来た海藤に、惚れ直すのはこれで何度目だろうか。
(悔しいなぁ)
そうは思うのに、それはあまりにも幸せに過ぎる不満で、私の心の隅にコロンと転がっている金平糖みたいなしこりでしかないのだ。
要するに、熱くなればすぐに溶けてしまう。
*
「やっぱここ絶景だね」
「ああ」
川を挟んで巨大な石柱が100m以上続く天然記念物の造形に圧倒され、思わずほうっとため息をつく。水の流れが激しい場所から、川の道なりに段々と静かな場所へ移動していってその眺めを十分に堪能した。
近くには、古くからある文化財の木造建築を見学できるところがあって、おばあちゃんが囲炉裏で可愛い紙細工の女の子のキーホルダーを作っていた。
私は赤い子と青い子を買って、赤いのを海藤に渡した。
「なんでだよ」
色について文句を言ってきたから「私だと思って」と言い訳しておいた。
2人とも青色が好きなのを知っていてそうした。
ちょっとした悪戯のようなものだ。
「そろそろ帰るか」
「そうだね、暗くなってきたし」
色んな所を見学しているうちに日は沈み、帰りに二人でソフトクリームを買って食べた。
ここのソフトクリームは絶品で、どうしてもまた来たくなるのは、じつはそういう理由でもあったのだ。
「また来ようね」
「ああ。それよか、今日泊まるよな」
デートの間中、ずっとそれらしき視線は感じていたが、実際言葉にされると抜群の破壊力がある。
「ガキの声我慢してちゃんとおりこうにしてたご褒美貰わねぇとな」
「駄賃はもう無効?」
「あんなのお通しみたいなもんだろ。メインディッシュが無いんじゃデートの意味ねぇからな」
私はそれなりに楽しんでいたんだけど、もしかしたら海藤にはただの暇つぶしだったのか、そう不安になっていたら、
「お前が楽しそうにしてんの見てたらさ。もっと可愛がってやりたくなった」
耳元に吹き込んできたので、
「な、ななな何言ってんの!?」
どもりながら大声で言って後ずさったら、狭い車中のこと、「イテっ」と頭をぶつけてしまった。いた~、と摩っているところを大きな手が重なって、また心臓が脈を大きく動かす。
「じゃ、帰るか、摂子」
本日初めての名前呼び、しかも耳元サービスを受けた私は「はい」と為すすべなくしおらしさを取り戻すしかなかった。
休日のお出かけは、まあでも、こんな感じ。
ケンカもあったりイタズラもするけど、二人の幸せな思い出を作るために必要なそんな場面は、たくさんあった方がいい。
甘い場面は……
心臓に悪いから、少しくらいは遠慮してもらおうかな。
私は、そんな幸せで贅沢な悩みを、また心の隅っこにコロン、と金平糖にしておくことにした。
どうせすぐ溶けるのだから、デート中に金平糖がいくら増えたって、構やしないのだ。
(は~あ、これって世にいうバカップルだよね)
コロンと金平糖を転がしながら赤い夕焼けが見える山裾に輝き始めた星を眺める。
私と海藤は手を繋ぎながら素晴らしい眺めの帰り道を辿った。
憂鬱は金平糖に・了
私の書く甘いの、これで大丈夫でしょうか。
不安になって来た。
難しいっす。




