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両片思い


ブログ6周年企画のリクエスト小説。「両片思い」というお題が素敵過ぎてそのままタイトルにしちゃいました。

摂子と海藤が年の差ある設定でとのことで、はりきって書かせていただきました!

文野さとさん、ありがとうございます!




両片思い






大きい上背の体格の良い男子生徒が通り過ぎた時、少女は上げていた顔をぱっと下へ俯かせてしまった。

(またやっちゃった……)

今日こそは、と手にした手紙を、杉田摂子はまたもスカートのポケットへ無造作に入れてしまい、それはすでに日常の動作へと移行しつつある。

制服の備え付けのポケットは広いけれど、急いでしまったため手紙の封筒はくしゃっと形を変えてしまったことだろう。

はーっとため息をついて、隣で歩いていた親友の麻衣子から「また~」と呆れられてさらに落ち込んでしまった。


「もう、何度目よ、海藤先輩に手紙渡し損ねるの」

「数えたくない」

「でしょうね。ていうかさ、本当に海藤先輩でいいわけ?金沢先輩じゃなくて?なんであんな怖い先輩好きなの?」

「そんなに……」


言うほど怖くないよ、という言葉を摂子はすんでで飲み込む。

約3カ月前までは自分も怖い先輩だと思っていたからだった。







緑化委員会という、極めて集まりの悪い委員会を選んだのは、部活動で手芸部を本格的に頑張りたいと選んでいたからだ。

片手間になるだろう委員会は、なるべく手間のかからない、もっと言えば責任をそれほど追わずに済むものを選びたかった。

大半が真面目そうな、いかにも日課に花の水やりをしていそうな大人しいメンバーだったが、一人、まるでその場にそぐわないような生徒が一人混じっていて、そいつは大いに目立っていたのを覚えている。


ひそひそ……

(あれ、3年の海藤先輩じゃない?なんで緑化なんかに……)

(多分サボろうとしてるんじゃないかなぁ)

(全然会話に加わろうとしないし……)


みなが声を潜めて噂しているのを聞いているのかいないのか、やけに目立つ大柄な男子生徒は、サッカー部で活躍中の非常に目立つ男子生徒で有名な海藤久成だ。

噂に疎い摂子ですら彼が浮名を流すのを耳にするくらいだから、学校中で知らない者はいないのではないだろうかと摂子は思っている。

なるべく関わらないようにしよう、そう思って、委員会中は絶対に海藤久成の方を見ないようにしていた。

だが、その次の委員会のことである。


「はい、じゃあ、北花壇の今週の水やり当番は海藤さんと杉田さんに決まりましたー」


パチパチパチ……


みなが、売られていく子牛を見るような目で摂子を見て拍手している中、摂子は涙を浮かべそうになりながら組まされてしまった相手を見ていた。


「ど、ど、ど、ど、どうぞ、よろしくお願いします」

「あ?」

「よ、よろしく、お、お……」


花壇の水やりは当番制で、しかも小学校のように縦割り式に違う学年と組まされるものだから、いつかはこんな日が来るだろうと分かっていた。

そう、頭では分かっていても、まさか自分の人生に一ミリも関係なさそうな人が自分と一緒に水やりをするというイベントが来るとは、摂子は少しも思い至らずにいたのだった。


「ああ、よろしくぅ」


摂子の弱弱しい挨拶がようやく届いたのか、おそらくその声を変換したら「四露死苦」と表記されそうな低温で海藤は返した。

こうして二人はその日、花壇の水やりをすることになった。




北側の花壇は校舎の影になって日当たりがあまり良くないため、少し花たちの元気がない。

それを用務員の人が主に土の肥料を良くしたりして手をかけているため、枯れずに済んでいた。


「じゃあ俺こっちやるから、お前そっちな」

「え、でも」


さっそく緑のジョウロを用意して花壇に立ったはいいが、海藤は4つに分けてある北花壇の内、ほぼ3つを海藤の分と差してそう言った。

これではあまりに申し訳ないような気がした摂子は、ぶんぶん、と首を振って海藤に詰め寄った。


「それじゃ、先輩が大変になるんで、私も二区間やります」

「水けっこう重いぞ?舐めてたら腕やられるってのに、女じゃ」


じっと見降ろされると高い上背のせいでかなり怖かったが、睨まれているというより怪しまれているという雰囲気を察した摂子は「大丈夫です、がんばります」と言ってその視線から逃れた。


「甘えとけばいいのによー。こういう時は」


呆れた声が後ろから掛かったが、摂子はもう黙々と水やりを始めていて、海藤もそれを見届けたら自分も同じように別の花壇に水をまき始めた。

確かにやり始めると、割りと大きい面積で道沿いに咲いている花壇は労力を随分と吸い取られた。だが根を上げずに黙々とやっていたら、後ろに急に気配を感じて振り向こうとした途端に、


「貸してみろ」


ジョウロをいきなり取り上げられた。


「何を……!」


するんですか、という言葉は即座に飲み込まれた。

思いっきり睨まれたからだ。


(こ、怖い……!)


「効率悪すぎだからもう帰ってろ。あと、水まくの軽すぎ。もっとちゃんと土に染み込ませねぇとダメんなるぞ、この時期」


照り返しの強い太陽が幅を利かせるこの時期の水の撒き方が甘いと、まさか海藤久成から聞かされるとは思わなかった。

「帰ってていいぞ」という声をぼ~っと聞き流して、精悍な輪郭を流れるこめかみから顎にかけての汗のしずくを見ていたら、帰るタイミングを失ってしまった。

それで、ジョウロをムリヤリ取られたときの手の力強さや熱さや湿り具合が思い出され、摂子はいつの間にやらこんな風に思って海藤久成を見つめるようになってしまったのだ。


(かっこ……いい……。海藤先輩)







部活動と運動部を兼任しなければ内申に響くというのでテキトーに選んだ緑化委員会は、海藤にとって今や「アタリ」の部類に属していた。


(まっさか俺がこんな女好きになるなんてな~……)


2コ下の後輩にあたる、同じ委員に属する杉田摂子は、地味に輪をかけた地味の部類に当たる人物だった。自分が今まで付き合ってきた女子からするとかなり見劣りするのだが、


(ちくしょう、可愛いんだよなぁ)


どうしても彼女が可愛く思えて仕方なかった。

そもそもそう思うようになったきっかけは水やり当番が一緒になった時だったが、なんという不幸の星の下に生まれてしまったのか、自分の部活や彼女の用事が重なることが多く、今だ2回目の水やり当番の相手に選ばれたことはない。

だが、一度目のときに優しくしたのが効果があったのか、廊下ですれ違う時いつも目が合う。それだけのことが、今の海藤の幸せの要素の一つになっている。

一見、とても大人しそうに見えるが、水やり当番や、普段の委員の会議でも、彼女はこうと決めたことならテコでも動かずやり通す信念を持っている。

そんなとこに惚れてしまったのかもしれないと、摂子を見ながら委員会の席であくびを噛み殺していたら、ふと彼女もこちらを向いた。

すると、真っ赤になってすぐに俯いて、必死に何かをノートに書いているのを見て、海藤は可愛さが心臓を貫いたかと思った。


(誰にでも『ああ』なんじゃねぇ、よな……もしそうだったら望み薄だわ)


こちらも熱くなってきた首筋をふと仰いで汗を拭った海藤は、秋晴れの空を窓から見つめる。

校庭で赤く染まっている街路樹の実の様に、この恋も実ってはくれないだろうか。

間違っても、若干枯れてしまっているあの北側の、彩りのなくなった花壇のようにはならないでくれ、と願う、珍しく引きの一手で通している海藤の恋心など、どれだけ天が高くなって馬が肥えても、摂子に伝わる様子はなかった。

だから、知らない。

彼女がいつも、ノートに隠した手紙を封筒に入れては人知れず捨てていることを、海藤久成が知る由もない。

その封筒のあて名がいつも「海藤久成様」であるということも。


「ふう……」

「はあ……」


そんな風に、席の離れた場所でため息をついて空想に耽る二人の想いを知らぬのは、実は緑化委員会の中では当人同士だけだったという。








両片思い・了








海藤は先輩だったらイイ奴なんじゃないだろうかとの妄想if話。

摂子に反発心を抱いていない彼は普通にイケメンなんじゃないか?説。



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