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RPG風 もしも海藤が勇者で摂子が魔王だったら



ギャグです。







とある中世っぽい世界の北の方の大陸の真ん中の方に、シヅキ国というたいそう平穏豊かな国がありました。

平穏豊かな国の住人はそれはもう幸せに暮らしており、王様とお妃様もたいへん出来たお人柄で立派な治世で国を治めていらっしゃいました。


ところが。


ある日、世界を未曾有の危機に陥れようと画策している魔王・セツコによって、シヅキ国のアキ姫がさらわれてしまったのです。


「きゃ~~~、お父様、お母様、私スイートルームのダブルベッド・ジャグジー・貸切露天風呂付きの部屋でないと暮らせない~~!」

「ア、アキや~~!」

「アキをお返しなさい!!」

「か、か、返してほしくば、姫に見合う女を国中から集めてくるんだな!!わ、わかっ…いて!!わかったら…い、いた、いたたたた、あ、暴れるな~~」

「気安くあたしに触んないでよ、変態!!痴漢!!」

「いてて、いて、わかったな~~~!!いてっ」


魔王の手下キムラが決まらない捨て台詞を吐くと、かよわい姫はまともな抵抗も出来ずに連れ去られて行きました。


「困ったことになったのう…」

「一体どうすれば…」


心優しい王様とお妃様は娘の代わりに民を差しだすこともできず、途方にくれます。


ですが、そんなときでした。

シヅキ国に、一つの朗報が舞い込んできたのです。


「なんと、泣く子も黙る、べらぼうに強い勇者様、とな!?それは本当か、魔道士リョウよ!」

「ええ、国王陛下。近頃、この北の大陸に現れ、魔王配下の強力なモンスターをばったばったと倒して歩いていると評判の、非常に力を持った勇者とのことです」


進言してきたのは、イケメン王宮魔道士のリョウでした。

リョウの説明を聞いた王様はすぐに言いました。


「その者、すぐに探し出してまいれ!」

「はは、仰せのままに」


魔道の力を色々駆使して、リョウはやっとその勇者の居所を探しだしました。

すると……


「ぎゃあああああ!!く、くそう、ゆ、勇者、カイドウ、めぇぇ……」


さっそく勇者はその強大な力をもって人助けをしておりました。

ところが。


「フゥー。こんなもんか」

「あ、ありがとうございますだ~勇者様~~!おかげで村娘たちも、皆無事に取り戻せましただ~~!!」

「ああ、そう。良かったな。………で?」

「?……は、はい。で?とは……?」

「おーいおい、あんたらまさか、ただでこの俺様に助けてもらおうってんじゃねぇだろうな?」

「な、なっ…!?ただ…とは!?」

「あのさあ、世の中なめてんの?頭お花畑状態?この怪物倒すのに俺がどんだけいい道具と装備揃えたと思ってるワケ?人件費に雑費に保険代、しめてこんくらいは心づけとして当然だよなぁ?村長さん」

「な、7000ゴールド……!!!!???」

「ああ、まあいいよ。別に出せないってんなら、こっちの美人な姉ちゃんに来てもらうから」

「そ、そんな……!」


リョウはその一部始終を見てしばらく唖然とし、本当にあれが噂の勇者なのかと我が目を疑いました。

ですがいくら目を凝らして見ても、やはり彼が魔道の導いた勇者であることに間違いありません。

リョウは頭を抱えました。

はたして、あの魔族のごとく酷い人格の持ち主である勇者に、姫の救出を任せて良いのかどうか……。


……が、ちょっと考えて思いなおしました。

考えてみればシヅキ国は潤沢な資源が豊富にありましたし、たとえこの魔王より非道かもしれない勇者にいくらふっかけられようとも、それなりの報酬は用意できるだろうという結論を瞬時にはじき出したのです。


リョウはとりあえず手持ちのゴールドを勇者・カイドウに渡して、シヅキ国の王様の元に連れてきました。


「おお、あなたが勇者・カイドウ殿か。お噂はかねがね聞いておりますぞ。早速だが、どうかこの国の姫であるワシの娘、アキを、魔王のもとから連れ戻して下さらんか。あなたほどの強さを誇る勇者であれば、きっと魔王を倒してもらえると見込んでのこと。この通りじゃ」


王様は、その身分をかなぐり捨てて王座から下り、勇者・カイドウの前にひざまづきました。

それを見ていた者は皆、涙を流して王の心意気に感服し、カイドウも快く引き受けるだろうと見守っていたのですが、カイドウは一言こう言いました。


「それで、見返りは?」

「は?」

「魔王倒して、俺に得することがあんのかって聞いてんだよ、王様」


一瞬、その場はしんとなりました。

ただ一人、魔道士リョウだけはヒヤヒヤと見守りながら。


「そ、そうじゃったな。大業を果たすのに、報酬はつきもの。…よかろう、わが姫をあなたに授けましょうぞ」


おお、とどよめきが起こりました。

姫はたいそう美人でしたが、あまりの理想の高さに、誰も伴侶にはなれなかったからです。

さすがにこれで勇者も快く引き受けるだろうと皆は思いましたが、カイドウはためらうことなく「イラネー」と吐き捨てて、手のひらを前にかざしました。


「それより、こんぐらいくれりゃー満足すっから」

「ご、5…?なんじゃ金か……50000ゴールドか?」

「ずいぶん低く見られたもんだ」

「な、なに?それでは、5000000ゴールドじゃと?」

「あのさー王様。いくらあんたの姫を助けんのが目的とはいえ、最終的に俺は魔王を倒すことになるわけ。分かる?魔王倒すっつったら、あんたの国どころか、この大陸中………いや、もしかしたら世界中を助けることと同義になるってことなんだよ。これがどういうことか、さすがに分かるよな、え?シヅキ国の お う さ ま」


その場にいた者は、みな開いた口がふさがらないどころか、アゴが床に着きそうなほど落ちていました。

カイドウが王様にふっかけた金額は、王様が予測した金額の、さらに十倍だったからです。


「な、な、な、なんじゃと!!そ、それは国家予算と同額じゃ!!!ふざけるな!!!」

「そっちこそふざけたこと言ってんじゃねーよオッサン。人一人の命が金で買えるんだぜ?安いモンだろ?それともなに、アンタ自分の娘がもしや金以下ってんじゃねーだろうな?人格者で通ってるごリッパな王様がまあ、よく言ったもんだな」

「………!!」


王様はぐうの音もでませんでした。

カイドウの言っていることは、すべて本当のことだったからです。

仕方なしに、勇者の提案を承諾しなくてはならなくなりました。

勇者・カイドウは王様に誓約書を作らせ、決して契約を翻すことのないよう誓文までも用意したところで、ようやっと快諾しました。

青ざめた顔でそれを見守っていた者たちは、落ちたアゴをそのままに、みな一様にこう思ったそうです。


(外道……!!)


と。




そんなこんなで、前置きが長くなりましたが、勇者・カイドウはアキ姫を助けに魔王の城へ冒険の旅に出ることになりました。

一人ではさすがに魔王は倒せないということで、嫌がるイケメン魔道士のリョウをパーティーに加え、支度金をたっぷりと懐に収めて一行は出発しました。

噂通りべらぼうな強さで敵を切った張ったしていくカイドウは見る間に旅程の半分を消化し、途中、ギャルっぽい僧侶のマイコを仲間にすると、さらにその足並みは早くなっていきました。


そして、ザコを倒していくこと半年。

あっという間に東の大陸の魔王城へ着いてしまったのです。


「こ、こらー!お前ら、もう少しファンタジーっぽい描写を入れろ!」


中ボスのキムラが出てきて言いました。


「う、うわ、しゃべってるときに攻撃するなよ!」


面倒になったカイドウがさっさと倒そうとしましたが、あまりの殺気で慄いたキムラはすぐに城の中へ引っ込んで行きました。


「お前ら、一応敵の罠ん中に飛び込むようなモンなんだから、気をつけとけよ。怪我したらMP気にせずどんどん回復魔法使っちまえ」


信頼した者には多少(本当に多少ですが)優しいカイドウの言葉に、リョウとマイコは思わずじーんとしました。

ですが二人は同時に、

(まあ、魔王より怖いヤツが仲間にいたら、その心配はいらないかな……)

とも思っていました。

なぜなら、今までの経験から言うと、カイドウ一行が相手にしてきたモンスターたちは強さといい作戦といい、カイドウに比べれば余りにもお粗末だったからです。

これでは、どちらが倒す方で倒される方なのか分かりません。

魔王城の中に入ると、案の定、リョウとマイコの予想は的中しました。

杜撰な魔王側の作戦は、カイドウにはすべてお見通しだったようで、ものの一時間もかからず、あっという間に魔王のいる最上階へついてしまいました。

一体、今まで魔王に圧政を強いられてきた各国は何をしていたというんでしょう。

ともあれ、一行は重厚な作りの扉を開き、いよいよ姫の救出をかけたラスボス戦に突入しようとしました。

そして、その扉の向こうにあった光景とは……


「あー、こっちの方がいいかも、ねーねー魔王ちゃん、これ買って~?」

「え……で、でも、このドレス、前に買ったものと似てませんか?」

「え~~~~~!!ぜーんっぜん違うよー!!もう、本当に魔王ちゃんってこういうのにウトいよねー。本当に魔王なの?」

「いえ、魔王であることとファッションセンスは関係ないと思う……けど…」

「なんでもいいけど、私、これ買ってくれなくちゃまたホームシックになっちゃいそう……最近、なんだか寝つきが悪くて、気がつけば優しかったお父様とお母様、それとキープしてた…じゃなかった、優しい婚約者だったあの人を思いだして胸が痛くなるんだ……でも、このドレスを着たら、そんな気分もぱーっと晴れて、辛い毎日も生きていけるような気がして…」

「あ、アキ姫………。ごめんなさい。わたし、ぜんぜん気がつかなくて……」

「ううん、いいんだ。魔王ちゃんのせいじゃないって。私が我慢すればいいことなんだもんね」

「アキ姫……。…………この、ダイヤのついた赤いドレスだったよね?」

「魔王ちゃん、もしかして…!いいの?」

「うん、アキ姫には本当に悪いと思ってるし、これくらい、私の貯金で買えるものだもの」

「やった~~~!!だから魔王ちゃんって大好き!!」


なんということでしょう。

脱力した勇者一行がそこで目にしたのは、魔王城で繰り広げられているアキ姫の遊興三昧でした。

気が弱いのかなんなのか、魔王・セツコはアキ姫が幽閉生活に疲れてホームシックにならないよう、至れり尽くせりの超・VIP待遇を提供していたのです。

まったく助けようという気力が湧いてこなくなった一行は、とりあえず魔王に事情を聞きました。


「おい、てめぇ。一体何考えてんのか知らねーけどな、姫をさらったと思えば、こっちによこす敵は虫けらみてーなのばっかだわ、おまけに頭悪い作戦のオンパレードだわ、本気で人さらいする気あんのかコラ」

「す、すみません……。ですが、これが魔王の仕事なものでして……」

「あのなー、仕事だってんならもっと徹底的に、突き詰めて、無駄なく完璧に仕上げてこい!!!俺がここの部下だったらまずまっさきにてめーをぶっ倒して覇権握ってるわ!!全てにおいて雑、中途半端、おまけにお粗末なんだよボケ!!」

「も、申し訳ありません……」

「大体、圧政を強いるってんならもっと各地に拠点を置いてだなあ………!!」

「ひ、ひぃ……!!」


魔王のあまりの頼りなさに見かねたカイドウの説教は、その後1時間ほど続きました。

そして、説教のさなかに垣間見えた魔王の事情をつなぎ合わせていくと、どうやら、大本の原因は中ボスだったキムラにあったのだということが分かってきました。


魔王・セツコは、世襲制で魔王になったものの、仕事の内容が嫌で圧政を強いてきた国々に和睦を持ちかけようとしていたというのです。

しかし、それを阻止したのがキムラでした。

魔王の次に強い権力を握っていたキムラは、摂子を言いくるめて思う様好き勝手やっていたようでした。


「なるほどな。まあ、もう倒したから関係ねーけど」

「そうだね。これでアキ姫を国へ返せば、すべて万事解決!!」

「平和的に話がまとまりそうじゃん!」


魔王はもともとアキ姫をさらうことには反対だったようですし、これですべてが解決と思った一行は、笑ってアキ姫を連れ出そうとしました。

しかし、そこへ魔王が声をかけました。


「みなさん、お待ちください。行くのなら、私を倒してから行って下さい」


皆、驚いて振り返りました。

ただ一人、カイドウだけは無表情のまま。


「今までの非道を、姫をお返しすることだけではお詫びしきれないということ、いくらバカな私でも分かってます。ですからどうぞ、私を倒して、すべての憂いを絶って下さい。……それでみなさんが安心して暮らせるなら」


セツコの言葉に、リョウ、マイコ、そしてアキ姫は、もちろん反対しました。

すべてが魔王の名のもとに行われていたとはいえ、実際に手を下していたのはキムラだったのですから、魔王には直接的な非がありません。

そんなことをする必要がない、と皆が訴えますが、無表情なカイドウが、「わかった」とそれを承諾してしまいました。


「カイドウ、お前…!!」

「見損なったよ、勇者様!!魔王はキムラに騙されてただけなんだよ!?」

「そうよ!!あなたみたいなひどい勇者、信じられない!!」


皆が口ぐちに責め立てましたが、勇者はにべもありません。


「うるせーな。てめぇらは納得しても、今まで好き勝手やられてきた国のやつらはそうはいかねーだろうが」

「それは……っ!」


揺るがぬ瞳で、魔王・セツコはこくりと頷き、カイドウの言葉を受け入れていました。


「さあ、私を倒してください」


カイドウは身長ほどもある大剣をとると、魔王の首に切っ先を向けました。

そして、きつく眼をつぶって覚悟を決めたセツコに一言、こういったのです。


「………だが、死、なんてもんじゃ、てめぇの罪は生ぬるい」

「え?」

「決めた。お前、これから俺様の奴隷になれ。一生、な」


セツコは一瞬、キョトンとした目になりましたが、カイドウが「お前が俺の奴隷になりゃあ、今まで苦しんできたヤツらも納得すんだろ」と説明するとなにやら思案顔になって押し黙りました。



(それだけはやめとけ…!!)



この時、リョウ、マイコ、アキ姫の思いは一つだったそうです。

三人は、あるいは死の方が優しいだろうとすら思っていました。

ですが、その三人の心配もむなしく、魔王・セツコは「はい」と承諾してしまいました。


「そんなことで、私の罪が晴れるなら……」


あ~あ、知らない……という三人の心の声など知ることなく、魔王…いえ、元・魔王となった勇者の奴隷・セツコは、アキ姫を連れてシヅキ国の城へ着くと、熱心に勇者の言うことをメモっていました。

それを見たシヅキ国の皆は、どうやら本当に魔王には敵意がないということを知り、同時に、あの勇者の奴隷となったことへの同情の念を込め、憐みの視線で痛ましそうに見守っていました。



「とりあえず三食飯炊き、掃除はもちろん、身の回りのことは全部やってもらう。それと俺様の素晴らしい遺伝子を残すことにも協力しろ。てめーも腐っても魔族だ、それくらいできんだろ」

「飯炊き、掃除、家事全般、いでんし、と。……………ん?」


いでんし?と引っかかったセツコをずるずると引っ張って、勇者は意気揚々と城を出ようとしました。


「じゃあな。あとは頑張って政治を立て直してくれや、王様」

「あ、ゆ、勇者殿~~!本当に、金も、そして姫もいらんのかね~~~!?」


驚くことに、あれほどがめつかった勇者・カイドウは、労働力を得たから金は要らないと申し出たのでした。

姫をさらわれた身でありながら、奴隷となった魔王に一抹の憐憫を抱いた王様が、配慮で魔王を助けてあげようとして声をかけたのですが、カイドウは迷いなく一蹴しました。


「いらね~」

「あ、あ、あ、あの、やっぱり私ちょっとムリかな~~、な~んて…!!……あの、ご厚意は受け取っておいた方がいいんじゃ……!?あっちのアキ姫さんのほうがものすごい美人で可愛いですし!!」


なにやら唐突にものすごい不安に襲われたらしい魔王、いえ、元魔王で勇者の奴隷・セツコが必死に説得を試みるも、「労働力に顔はどうでもいいんだよ」などと理屈で丸めこまれ、その様はまるで人買いに買われていく哀れな娘のようであったそうな。


その後、二人の行方は案として知れず、誰もその姿を見た者はありません。

ただ、どこかでひっそりと暮らしたということが、伝記の片隅に小さく残されたということです。


こうして、世界に平和が訪れ、人間と魔族は時々衝突と和睦を繰り返しながら、末長く幸せに暮らしましたとさ。




「ぜんぜんしあわせじゃないいいいいいいぃぃぃぃ!!!!」byセツコ




ちゃんちゃん♪








おしまい








完全なる配役ミスです。

ハーメルンか!っていう。


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