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とある家族の12/24


クリスマス企画より、「海藤と摂子の子供のお話」というリクエストのもと、「お母さんは心配性」の地続きの話で書かせていただきました。

突然ですが急場しのぎで長男「成一せいいち」長女「小鳥ことり」という名前になってます。あしからず












「母さん、ここにあるオーナメントもうつけていい?」

「うん、成一に全部任せるよ」

「お母さん、私はー?」

「はい、小鳥もお兄ちゃん手伝って」

「はーい!」


母に渡された金色の星型オーナメントを両手にたくさん抱えて、娘の小鳥は兄の元へ頼りなく駆けてゆく。

兄妹が待ちわびていた日はあと一週間後に控えており、その焦燥も心地よい海藤家に今年もクリスマスが訪れる。

不安なことはといえば、家長である海藤久成が不在かもしれない、ということぐらいだった。


「小鳥、そこじゃない、こっち。一番大きい星はさきっちょのやつだからな、まだだぞ」

「うん。ねぇねぇ兄ちゃん。サンタさんってね、煙突からお家に入ってくるんだって。ウチには煙突ないけど、大丈夫なのかな?来てくれるかな?」

「最近のサンタは有能だから、煙突なんかなくても入ってこれるんだよ。それよりお前は良い子にできるかどうか心配してな。サンタは悪い子の家には来ないから」

「わたし良い子にしてるよ!だから絶対サンタさん来るもん!プレゼント、持ってきてくれるもん!」


夕飯を作りながら、ツリーを飾り付ける子供たちの微笑ましい会話を流し聞きしていた摂子は、そこではた、と気がついた。


(あら?そういえば、今年の小鳥の欲しいものってまだちゃんと聞いてなかったな)










・とある家族の12/24・









しっかりした成一は事前に「新しいサッカーのスパイクが欲しい」と頼んできていたが、この時期にはアレが欲しいコレが欲しいと煩くなるはずの妹の情報が、どういうわけか今年に限ってはさっぱり入ってこなかった。

忙しさにかまけてうっかりしていたと、摂子は居間に移動して、不自然にならないように細心の注意を払い兄妹の会話に混ざる。

聞くなら今しかなかった。


「小鳥はこのところちゃんとお手伝いしてくれるから、大丈夫だよね?」

「うん!お母さんのお手伝い、がんばってるもんね」

「ふーん。その割には後かたづけとか俺がやったりしてるし、風呂だって俺がしつこく言わないと入ろうとしないし、あと……」

「(もう、成一よけいなこと言わない!)で、でも小鳥、去年に比べたらすごく色々できるようになってて、お母さんびっくりしちゃったよ。サンタさんもきっとその頑張りを見てくれてるよ。プレゼント、何頼んでも持ってきてくれると思うなぁ~」

「本当、お母さん!?じゃあ、私が一番欲しい、お……あっ!」


早速摂子の拙い誘導作戦に引っかかってくれたかと思いきや、小鳥は何かを口にしかけ、しかしその口をすぐに小さな手で塞いでしまった。


「ど、どうしたの、小鳥?」


小鳥は口に手をあてがったまま、もごもごと話しだした。


「あのね、エリちゃんがね、とっても大事な願い事をするときは誰にも言っちゃだめだって言ってたの。だから私、サンタさんが来る時まで絶対に言わないようにしてるの」


(え、ええ!?)


それじゃ困る、と大いに焦った摂子があの手この手で説得したが、


「ダメ。お母さんでも、言っちゃだめだもん。一番に欲しいもの、もらえなくなるって」


の一点張りだ。

これは困った、と弱り切った顔の摂子を見て何かを察したのか、成一が「母さん」と台所へ連れ出す。


「なんか変な話に影響されてるっぽいから、俺がなんとかするよ。あいつの欲しいモン、まだ聞いてなかったんだろ」

「さ、さすがは成ちゃん(泣)。その通りなんだ~。なんとかできそう?」

「その成ちゃんってのはやめろっていつも言ってんだろ!」


大体は摂子よりもしっかりしている成一だが「成ちゃん」呼びには我慢ならないらしく、このときばかりは年相応に顔を赤くしてムキになる。

これはまずいとすぐに謝り、摂子は頼みの綱の長男に望みを託すことにした。


「分かんないけど、どうにかするよ」

「お願いね、成一」







かくして母に大事を頼まれた成一は、二人部屋に行ってから直球で聞いてみることにした。


「それで、お前が欲しいのって何なんだよ」

「だめ。兄ちゃんでも教えちゃダメなんだもん」

「あっそ。つーかなんでそのエリちゃんだかが言ったことをそこまで信じてんだ?兄ちゃん、そんな話聞いたことないぞ」

「だって、エリちゃんサンタさんの国に行ったことあるって。その国では、願い事は人に言わないで、紙に書いて靴下に入れておくんだって。それまでに人に見られちゃったら、サンタさんが来てくれなくなるって。ニホンジンはみんな知らないけど、私は仲良しだからってこっそりエリちゃんが教えてくれたんだもん……」


(はーん、なるほど)


ということは、どこかの靴下にその願いが書いてある紙が入ってるわけだ、と成一はアタリをつけた。


「まあ、よく分かんないけど分かったよ」

「うん」


ここで「馬鹿だな」と貶めないのが彼の父親との違いで、成一が年の割に落ち着いている所以ともいえる。


「ところで小鳥。俺がこの前買ってやったキュアキュアのキラカードってどこにしまってんだ?ちゃんと持ってるだろうな」

「持ってるよー!兄ちゃんから貰ったの、全部『宝箱』に仕舞ってあるもん!小鳥もしっかりしてるでしょ?」

「うん。偉い偉い」


珍しくにっこり笑った兄に褒められ、さらに頭を撫でられたのがよほど嬉しかったのか、小鳥は「エヘヘ~」とふにゃふにゃしながら抱きついてきた。

兄は、「やっぱちょろいな」と母にも果たせなかった大役の荷が下りたも同然だったので、やりかけのゲームのラインナップを頭に浮かべ、どれから攻略しようかと頭を巡らせ始めた。


ところが、その夜のことである。

小鳥が眠ったことを確認してから起き出した成一は、さっそく聞き出したヒントを元に願い事の在り処を探り始めた。


「よっしゃ、アタリ」


案の定、小鳥の「宝箱」なる○ィズニーのクッキー缶から小さなピンクの靴下を見つけ出すことができた。

それはいいのだが、中に入っていた二つ折りの紙に拙い文字列を見た時、成一は思わず「げ」と漏らしていた。


「小鳥の願い事って……」


とりあえず摂子には今すぐ用意できようもない、ましてや小学五年生の一般的男子でしかない成一には途方に暮れるしかない類の願い事を見て、思わず我が妹の寝顔を見つめてしまう。


「ったく、欲張りなヤツだな~」


恨めしい言葉が漏れても、小鳥は天使の様な寝顔で「むにゃむにゃ」と寝言を返すだけだった。







きたる12月24日。

摂子は焦っていた。


(あああ~やっぱり海藤は帰ってこないのかなぁ)


昨夜クタクタになって帰って来たダンナは、モノも言わずベッドに入ってきて、夜が明けると朝食もとらずに出て行った。

世間で言う「メシ・風呂・寝る」だけの旦那よりも会話のない状態の海藤は、クリスマスを半ば恨んでいた。

彼が言うには、クリスマスのせいで自分がこれほど働かされるハメになる、というのだ。

そんな殺伐とした旦那に「娘のプレゼント何がいいかな?」などという禁句に近い会話を持ちかけられるはずもなく、摂子は成一になんとなく有耶無耶にされたままの小鳥のプレゼントを、結局用意できないままイブの日を迎えていたのだった。


(でもあの成一が口を濁すくらいだから、今回はよっぽどなんだな、小鳥ってば)


しっかり者の兄でも妹の頑固さには敵わなかったのだと思うと、長男の子供らしい面に少しだけ微笑ましくなった摂子である。


(って、微笑ましくなっちゃダメなんだって!ケーキも料理も用意したのにプレゼントだけ分からず終いなんて~~!!……でも、成一は多分大丈夫なんて言ってたしなぁ)


妙に確信を持った口ぶりで「用意しなくても大丈夫だと思う」などと最近は言うので、摂子もしつこく成一に聞くことをしなくなっていた。


(それに今の時代、コンビニもスーパーも24時間だし、いざとなればなんとかなるよね)


なんとなれば6歳の女児を満足させられる物などたくさんあるだろうとたかを括っていた摂子だった。

プレゼントを用意できないならせめて、料理とケーキくらいは力を入れようと、今年初めて手作りに挑戦したメニューの数々を確認していると、なんと肝心のシャンメリー(子供用)がないことに気づく。


「いけない!シャンメリー買うの忘れてた!成一、お母さんちょっとそこまで買いに行ってくるから、留守番お願いね?」

「分かった。転ぶなよ、母さん」

「いってらっしゃ~い」


それぞれ学校と幼稚園から帰って来た兄妹は仲良くテレビを見ていて、摂子のそそっかしさには慣れっこなこともあり、すんなりと送りだした。


(成一もいるし、大丈夫だよね)


5分とかからないコンビニで大丈夫だろうと安易に考え、鍵をかけないまま摂子は急いで外へ出た。

しかしそうはうまくいかないのが世間の仕組みというものだ。


(ぜ、全然大丈夫じゃなかったんだけど~……。クリスマスイブってこんなにモノがないものなの!?)


摂子のような粗忽者がたくさんいたというわけでもないだろうが、向かった先の店にはことごとくクリスマス関連のものが売り切れていて、思わず頭を抱えたくなった摂子だった。

なんとか目当てのものを見つけられたのは3件ほどハシゴした先の大型スーパーで、家を出てからすでに1時間近くは経っていた。


(いけない!鍵をかけないで来たんだった!)


辺りは暗くなっているし、万が一のことがあってはいけないと、摂子はシャンメリーを抱えて一目散に帰路を駆け出す。

焦っている時の常で、頭の中には最悪の結末が浮かんでは消え、不安に拍車をかけてきた。


(成一、小鳥、無事で待ってて!)







「あ、あれ……?」


ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をしながら家に無事到着した摂子は、どういうわけか明かりのついていない真っ暗な窓を見て不安を覚えた。


(確かさっきまで二人ともリビングでテレビ見てたから、電気つけてるはずなのに……。2階の電気も付けてないなんて絶対おかしい!ま、まさか……成一、小鳥!)


家に着くまで脳裏に浮かべていた最悪の予想が一気に頭を埋め尽くして、居ても立っても居られなくなった摂子は、せっかく買ったシャンメリーを放って家の中に入った。


「成一、小鳥!?」


真っ暗な玄関に入って呼んでも、二人からの返事はない。


(まさか、まさか……!?)


本当に強盗か何かに襲われてしまったのでは、と、武器を探し始めた時。


―――ッパーン!ッパーン!ッパーン!


「きゃああああああああああ!?」


盛大な破裂音が近くから聞こえて、摂子は悲鳴を上げて腰を抜かし、どしんと尻もちをついてしまった。


(てっててて鉄砲!?)


痛みはいつからやってくるのだろうときつく目をつぶって身構えていると、ふわりとした何かが頭に落ちてきて、ぱっと明かりが玄関を照らす。


「「「メリークリスマース、母さん!」」」


「……。へ……?」


怖々と目を開くと、そこには不在のはずの旦那と、愛しの息子と娘がニコニコ……いや、にやにやとしたイヤラシイ顔で見下ろしてくるという、なんとも気の抜ける光景があった。


「いや~~まさかここまでビビるとはな。なんかごめんな」

「父さん、やっぱ母さんにはやり過ぎじゃない?なんかものすごいカッコだけど」

「お母さん、びっくりした?びっくりした?」


三者三様に言って来る家族に対し、摂子は魂を抜きとられた様な顔で口を開け、それを閉じると、みるみるうちに顔が赤くなり、やがてボロボロと大粒の涙を流し始める。

ようやく状況が飲み込めたのだった。


「母さん!」

「お母さん?」

「お、お、おい!?摂子!?」

「ばか~!な、なんでここに、海藤がいるのよ~!もう、良かった……ぐすっ、心配したのに、ばかっ……ううぅ~~~」


そうして大泣きし始めてしまった妻にたじたじの海藤は、「安心するか怒るか泣くか、どれかにしろよ」と言って宥めた。

しっかりと成一に目配せをして席を外させることを、もちろん忘れずに。







「もう、大体、今日は帰れそうにないって昨日言ってたじゃん。それなのになんでこんなに早く帰って来たのよ」

「はあ?お前それが、仕事早く終わらして家族のためにプレゼント買って来たヤサシイ旦那様に言う言葉かよ」


ようやく泣きやんだ摂子は、落ち着いて怒りがぶり返してきたのか、不機嫌をあらわにして海藤にぶつけてきた。

もちろん早く帰ってきてくれたことには感謝しているが、こちらの気も知らないで昨日までの緊張感など嘘のようにふるまう海藤が癪だったのだ。


「あっそ、分かった、帰ってこない方が良かったみてーだな」

「誰もそんなこと言ってないよ!ただ、一言電話なりメールなりくれたっていいじゃない!私、シャンメリー買いに出て行って、子供たちだけ残してきちゃって、すごくすごく心配してて、それなのにあんな……」

「お前が取り乱し過ぎなんだろ?記念日を楽しく演出してやろうっていう俺のお茶目心を無碍にしやがって。大体、忘れたお前が悪いんだろうが。成一がしっかりしてるとはいえ、子供たちだけで一時間近く家空けるとか、危機管理が無さ過ぎなんだよ。鍵も開いてたし」

「それは……そうだけど……」

「お前はいっつもそうなんだよ。成一の方がまだ大人だ。この前だって……」


さあここから弾丸論破の始まりだと海藤は大きく口を開けたが、しかしそれはすぐに閉じられてしまう。


「摂子?」


摂子が、今度はひっそりと、顔を俯けて泣きだしたのだ。

長年の勘でこれは言い過ぎたとすぐに察した海藤は、「寂しかった……」と意外な言葉を漏らした摂子の顔を覗き込んだ。


「どうした?」

「寂しくて、不安で……だって、やっぱり海藤がいないとダメだよ。小鳥のプレゼントも聞き出せない、不甲斐ないお母さんだけじゃ……」


完全に自己嫌悪モードに入ってしまった摂子だが、海藤はそんな摂子の言葉に不覚にも萌えてしまった。

寂しかった、海藤が居ないとだめ、などという甘えワードは、普段の摂子からはめったに聞き出せないのでご褒美に等しい。

当然、折れるしかなくなる。


「バカ……。ああもう、悪かったよ。悪かった、俺が全面的に悪い!でもプレゼント買ってきてやったんだから帳消しだろ?な?」


と言って無理やりに抱きしめると、摂子は嬉しそうに笑って殺し文句をお見舞いしてきた。


「そんなの……。私、やっぱり海藤がいてくれる方が嬉しいよ。帰ってきてくれてありがとね」


それと、怒ってごめん、と言っておでこにキスしてきた妻に、こ、こいつ……と言葉もなく悶絶した海藤が衝動に任せたのは、まだまだ新婚のつもりでいるらしい年甲斐の無い夫婦では致し方ない展開と言えよう。


(あ、やべ……ゴムねぇけど、まいっか)


そんな心配しか頭に浮かばない燃え上がった海藤は、その時子供たちの存在などは完全に忘れ去っていた。







「兄ちゃん、いつになったらお家に入っていいの?」

「んー……。小鳥、遊具で思いっきり遊びたいって言ってたろ?この時間なら誰もいないし、好きなだけ遊べるぞ」

「えー?ほんと、兄ちゃん?」

「うん」

「わーい!ブランコ乗り放題だ~!」

「暗いから気をつけろよ」

「はーい」


近くの公園でしばらく時間つぶしをしようと思ったのは、抱き合っている父と母をちらりと見た成一の機転だった。

父に目配せを送られて一度は二階の子供部屋に行った成一だったが、小鳥のクリスマスプレゼントについて海藤には耳に入れておいてもらった方がいいかと二人の元へ行ったのだが……


(あの調子だと、すんなりプレゼントもらえるかもよ、小鳥)


何も言わずとも、世の中はうまく出来ているらしいと、11歳にして悟った成一だった。

だがもちろん、ラブシーンなどには免疫のない子供らしさも持ち合わせている彼は、いまだに熱くなったままの顔を持て余して、冷えた空気に冴え渡る月を見上げることで気を反らそうとした。


「兄ちゃん兄ちゃん、お家帰ったら、サンタさんやってくるかな?プレゼントもらえるかなー?」


ブランコを漕ぎながら楽しそうに聞いてくる小鳥に、成一は月を見上げたままで返す。


「さあ。それよりお前、弟と妹どっちがいいんだ?」


なぜか一番の願い事を知っていた兄に、小鳥が驚いて駆け寄るのは、そのすぐあとのこと。


青ざめて我に帰った両親が迎えに来るのは、それから30分ほどあとのことだった。












終わり






成一は将来有望過ぎますね。

妹は兄離れできるだろうか。



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