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勇者と奴隷(元魔王)の一日



ブログ開設一周年記念リクエスト企画より。


以前書いた「もし摂子が魔王で海藤が勇者だったら」の続きになります。


コメディ。







「おーい、魔王、ここ、まだホコリ残ってんぞー。どうなってんだその無能っぷりは。ったく、魔族の頂点にいやがったくせに爪先からてっぺんまで甘ちゃんだな、てめぇは」

「す、す、すみません!すぐ掃除しなおしますからぁ~~!」


シヅキ国のアキ姫をさらった魔王・セツコを倒した勇者・カイドウの二人は、その後、ひっそりとどこかで暮らし、物語はめでたしめでたし。


……で、終わったはずなのですが、今日は出歯亀して二人の一日の様子を見て見ることにしましょう。

二人はどうやら、シヅキ国から1000マイル離れたトキオ国という栄えた都の端っこの方に、小さな空き家を見つけて住み込んだようです。

その日も勇者カイドウは、元魔王で現奴隷のセツコを、顎でこき使っていました。


「おら、ここ終わったら次買い出しだ。これとそれとあれと、…これもか。さっさと行って来い」


カイドウが家の中を見回しながら簡単に書きつけたメモをセツコに渡しました。


「は、はい~」


へろへろの返事をして大きな籠を持つと、セツコは出かけて行きました。

以前はいかにもな黒っぽくてズルズルな感じの服を着ていたセツコも、今やそこらの町娘同様の恰好エプロンスカートをしており、もう誰が見ても彼女が元魔王だということを思い出しはしないはずです。

さらにそれを助長させているのは、カイドウに言いつけられ身の回りの世話をすることにより身に付けた「所帯くさい」というスキルです。

まだ若い身空であるはずが、セツコの周りには結婚20年目を過ぎた主婦と同等のくたびれた空気が取り巻いているのでした。


「…………」


そんなセツコの侘しい後ろ姿を、カイドウは新聞を読みながらちらりと横目で見送りました。











・勇者と奴隷(元魔王)の一日・











栄えた都でありながら街まで6マイルという場所に住むセツコは、いつも1時間以上歩いて買い出しに行かなければなりませんでした。

それというのも、すべてはカイドウが言いつけた制約のせいです。


『俺と生活する以上、緊急事態でもねぇ限り魔力を使うな』


これが、カイドウの奴隷になってはじめて言い渡された命令でした。

無理もないでしょう、カイドウは相当な経験を積んだ勇者には違いありませんが、セツコの方も腐っても元魔王です。

勇者を凌ぐチート設定のため、とてつもない魔力をいまだその体に宿しているのですから、共に生活をするとなれば命がいくつあっても足りないと考えるのは当然のなりゆきです。

セツコは、その命令に素直に従い、不満に思うこともそれほどありませんでしたが、生まれた時から自在に魔力を扱っていた身では、今になって一般人同様のスペックで生活することはそれなりに大変でした。


(人間って、みんなこんなに大変な思いをして生活してたんだ……。私って、本当に悪いことしてたんだな)


知恵をしぼって生活をする人間達の苦労を知れば知るほど、元魔王としての過去を嘆かずにはおれないセツコでした。


(……でも、こんなことでくよくよしてちゃいけない。これから、もっともっと苦労して、今まで迷惑かけた人たちの分も罪滅ぼししていかなくちゃいけないんだから)


魔族であるにも関わらず謙虚なセツコは、己をネガな方向へ奮い立たせると、いつもより早歩きで時間を短縮させ、一時間かからない程度で街につきました。


「よ、姉さん、オレンジ買って行かないかい?今日仕入れたのは甘くておいしいよ」

「あらセツコちゃん、今日はイキのいいソードフィッシュが入ってるよ!安くしとくから買って行きなって」


市場に着くと、顔なじみになった店主達が口々に声をかけていきます。


「ありがとうございます。でも、今日は買うものが決まっているんです」

「そりゃあ残念。次は寄ってっとくれよ」


外れの街とはいえ栄えている都の領内には違いないので、諸外国からのたくさんの珍しい物で溢れる市場は、見ているだけでも気分が高揚していきます。

普段はカイドウに怯えるばかりのセツコですが、こうした場面に出会うと感謝せずにはいられませんでした。


「やぁ、セツコちゃん、今日も買い出しかい?」

「あ、タニガワさん。こんにちは」


買い出しリストの中にあった「ワイン」を買いに酒屋へ顔を出したセツコに、常連客のタニガワが話しかけてきました。

彼はやたらセツコに親身になってくれる気のいい青年なのですが、親身過ぎるのがタマにキズです。


「セツコちゃん、なんだかまた一段とやつれたんじゃない?最初にここで会ったとき、あんなに輝いてたのに……。また、同居してるっていう例の男に無理難題でもいいつけられたんじゃないよね?いつも言ってるだろ、何か困ったことがあったら何でも言ってくれって。俺はいつでもセツコちゃんの味方だよ?言いづらいことも受け止める覚悟だってある。さ、相談に乗るから、言ってごらん」

「あ、あの、大丈夫です。いつも心配して下さってありがとうございます。確かに最近やることがいっぱいあって大変ですけど、これも私の仕事なので、お気になさらないでください。……本当に優しいんですね、タニガワさん」


控えめににこっと微笑むセツコに、タニガワは一瞬デレっと顔を崩しましたが、すぐにいつものきりっとした表情を取り戻して問い詰めました。


「いや、君のことだから無理をしているのに気づかないんだ。一体どんな仕事を任されてるんだ?」

「そんな、いたって普通の仕事です。掃除に洗濯に炊事、買い出し、家畜の世話、田畑の管理に、帳簿付け、剣の手入れや日曜大工、あとカイドウさんの気分によってクエストに同行することもあります」

「そ、それの一体どこが普通なんだ!?ほとんど奴隷じゃないか!」


ええ、その通りです、とはさすがに言えなかったので、セツコは苦笑いで誤魔化しました。


「酷い!君をそんな馬車馬のごとくこき使う男なんて、ロクなもんじゃない!一体君はそんな男のどこが良くて一緒にいるんだ!?」

「あの、ええと……」


元魔王と勇者という関係で、という馬鹿正直な話をしても、余計ややこしくなりそうなので、セツコはなんと言ったらいいものか答えあぐねてしまいます。

すると、タニガワはセツコが無理を強いられているのだと勘違いしてしまい、いきなりセツコの手を取ってこう言いました。


「セツコちゃん……俺と逃げよう!」

「はい?」

「君は優しいから、酷い男でも身捨てられずにいるんだろ?でも、そんなのは君のためにならない。このままじゃ君はその男に身も心もボロボロにされて取り返しのとかないことになる!」

「いえ、でも私は……」

「分かってる!君がその男を庇いたい気持ちはよく分かる!しかし、今が決断する時なんだ!君自身は自覚してないかもしれないが、こんなに憔悴している妙齢の女性を放っておくなんて俺にはできない!」


そんなにやつれてるかしら、とセツコは自分の容姿を気にも止めてこなかったことを後悔し始めました。


(もしかして、私今までそんなにヒドイ顔してたのかな!?は、恥ずかしい!)


魔力によって体調管理してきた今までと勝手が違うので、セツコには己の体力の限界というものがよく分かっていなかったのです。


「あの、でもタニガワさん、私の仕事は、実はカイドウさんも……」

「分かってる、分かってるよ、セツコちゃん。ヒドイ男に捕まった女ってのは、みんなそうやって相手を庇いたがるんだ。『分かっちゃいるけどやめられない』、俺にだって経験はある。だけど、このままズルズルやっていっても、得るものは何もないんだ。頼む、騙されたと思って、俺の手をとってくれ!俺なら君に後悔も苦労もさせない!」


何を言っても話しを遮って己の意見をぶつけてくるタニガワに辟易して、いい加減周りの客が助け舟を出そうと動き始めた、その時でした。


「へぇ。んじゃあ、お手並み拝見させてもらおうじゃねぇの」

「!?」


えらく低音のボイスが聞こえてきたかと思うと、今まで気配もなかったセツコたちの近くの壁に、カイドウが寄りかかっている姿がありました。


「カイドウさん……」

「え!?こ、こいつが例の……」


セツコは特別驚くこともありませんでしたが、タニガワは顔を蒼白にさせて一気に後ろに飛び退いていました。

カイドウの表情はパっと見いつも通りです。

が、どこがどうとは言いませんが、なにか不穏な気配がすることは否めません。

タニガワはその不穏さを敏感に察知したようでした。


「珍しいですね、街まで下りてくるなんて。何か伝え忘れたことでも?」


おずおずとセツコが聞くと、カイドウはちらと彼女に目を向けただけで、あとはタニガワの方に視線を定めたまま言いました。


「……緊急事態だ」

「え!?」

「魔力使っていーから、その辛気くせぇツラを元に戻せ」

「!」


セツコははっとして、やはりよほど自分の外見がみすぼらしかったのだと、恥じ入りながら「はいっ」と返事しました。

そして、慣れた手つきで呪文を唱えながら魔法陣を描くと、淡い光に包まれたセツコは、たちまち生気に溢れた若い女性に変貌していったのです。

もう、さきほどまでのくたびれた様子は微塵もありません。

そして、元魔王の成せるハイスペックな魔法ゆえか、チャームの魔法が自動的に付加され、いつもなら地味で一般人に紛れる程度の外見が、眩く輝く乙女のそれになり、周りを瞬時に釘づけにしてしまいました。


「せ、せ、セツコちゃんが、……ええ!?」


顔を真っ赤にしながら、タニガワは一瞬で魅惑的な女性にメタモルフォーゼしたセツコに驚きを隠せません。


「タニガワさん、心配してくれてありがとうございます。でも、こうして元気になれるので、大丈夫ですから」

「ったく。さっさと行くぞ」


カイドウはそう言って、セツコの腕を掴むと、茫然とするタニガワを置いて酒場を後にしようとしました。

「よっ」「ご両人」「熱いねぇ」などと口々に囃したてる周りなど知らぬふりで酒場を突っ切って行くカイドウに、しかし、横から待ったが入ります。


「よう、カイドウ。とっておきの情報、仕入れてるんだが、今聞かないと絶対損するぜぇ?」

「……今、ね」


酒場のマスターです。

カイドウはセツコに先に出るように促しました。


「大体のこと聞いてるつもりだけど、くだらねぇことだったら報酬割増してもらうぜ?マスター」

「大丈夫だ、それには及ばん。それっていうのもな……」


耳打ちして来たその内容に、カイドウの目が僅かに見開かれました。







「あ、カイドウさん。遅かったですね」


酒場から出て買い物を終わらせた二人でしたが、帰る間際になってカイドウが「待ってろ」と言って行方をくらましました。

珍しいことでもないので素直に待っていたセツコの元へ、カイドウが何かを持ってやってきたのはそれから間もなくのことです。

カイドウにしては急ぎ足で来たので不思議に思ってるセツコへ、


「これ、つけてろ」


と、カイドウがおもむろに持っていたものを首筋に身につけさせました。

それは、魔力の込められた宝玉がついたネックレスでした。


「これ……」

「お前の力はデカ過ぎて、使うといちいち目立つんだよ。俺たちゃ一応お尋ね者だからな。……それでちっとはマシになんだろ」

「カイドウさん……」


元魔王と勇者とはいえ、その名と容姿を知る者の中には彼らに恨みを抱くものが少なくありません。

カイドウはそのためにセツコへ魔力を使わないように言いつけたのでした。

セツコは、セツコのことを考えてカイドウが行動してくれていたこと、そして、セツコのためにわざわざこのネックレスを買ってきてくれたのだと知って、感動で胸が熱くなってきました。


「それと、……無理だって思ったら、言え」

「え?」

「俺も鬼じゃねーからな。労働基準を改正してやらんでもない」


そっぽを向いて少し頬を赤らめる勇者カイドウとは、天然記念物級に珍しいものを見た気になって、セツコは少し笑ってしまいました。


「カイドウさん、私、本当に無理だなんて思ったことはないんです」

「けっ。謙遜もそこまでいくと嫌みに聞こえんぜ」

「いいえ」


悪態をつくカイドウに、セツコは首を横に振って、静かに言いました。


「魔力を使わないで、掃除をしたり、洗濯をしたり、料理をしたり。いつも失敗ばかりだけど、それを、嫌だとは思わないんです。こうして買い出しに来て、街には色んなものが溢れてるんだってことを知って、私、本当にカイドウさんについてきて良かったなって思いました。人間たちは、こんなに苦労をして、こんなに美しい世界を作り出している。それを知らずに死んでしまっていたら、私は本当の意味で罪滅ぼしをすることができなかったのでしょうね……」

「………」

「だから、無理だなんて思いません。……私に生きる意味を与えてくれて、ありがとうございます。カイドウさん」


きらきらと輝く笑顔で、魔王が幸せそうにほほ笑むと、カイドウは、それをやはり横目で見やるだけで、後ろを向いてしまいました。

何か悪いことを言っただろうかとセツコが気にしていると、すぐにカイドウが振り向きました。

が、その顔には、やたら悪どい笑みが浮かんでいるのでした。

う、ヤな予感、とセツコが思ったときには、もう手遅れです。


「なるほどな、俺様がこれほど譲歩しても無理じゃねぇどころか感謝してます、と。それならこっちも心おきなく言いつけられんな、今までテメーがどれだけ言っても断り続けてきた『夜の奉仕』……」

「あーっ!」


思いっきり「ソレ」のことを忘れていたセツコは、顔を青ざめさせながら「しまった!」と口に手をあてました。


「俺様の優秀な遺伝子を残すっつう偉業を成し遂げてもらうときが来たようだなぁ」

「い、いや、その、あの、さっきの言葉はそういう意味では……っ」

「ああ?じゃどういう意味なんだよ?無理じゃねーんだろ?俺に感謝してんだろうが?じゃあそれを態度であらわしてもらおうってんだろ」

「でででででも~~~~~!!!」


ああ、美女が引きずられていく、と周りの人たちが思いましたが、話している内容が内容なだけに、痴話げんかか、と思って誰も声をかけたりはしませんでした。


「おら、さっそく今日からヤってもらうからな!さっさとしろ!」

「む、無理、やっぱ無理です~~~!!」


それでも、あまりの悲惨な光景に、何人か若い男が声をかけようとしていましたが、それへカイドウは片っ端から鋭い視線を投げて黙らせていきました。


―――『どうやら、最近セツコちゃんにプロポーズしようって輩がこの辺に急増してるらしいぜ。あんまり憔悴してるってんで、勘違いしたヤロウどもがのぼせ上がってるようだ。……兄ちゃん、恋人は大事にしとかねぇとな』


酒屋のマスターから耳打ちされたそのセリフがカイドウをかき立てかどうか、分かりませんが、その夜村のはずれの一軒家で熱い攻防が繰り広げられたことは、また別の話。


とりあえず、元魔王と勇者のその後は、めでたしめでたしで幕を閉じるといたしましょう。


「だから、無理ですって!」

「いいからさっさとしろ!」

「お、鬼ぃぃぃ!」


おあとがよろしいようで。








end






フラッシュピースでちらっと出した谷川さんが友情出演してます。

海藤が本編よりも若干頼もしい気がしなくもない。

そして摂子のスペックも本編より若干高めです。




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