CD談議
「ねぇ、このアルバム、好きなの?」
「あ?どれ」
摂子が持っているCDを覗き込んだ海藤は、手にとってから二、三度頷いた。
「ああ、ああ、これな。なに、好きなの」
「こっちが聞いてるのに…」
そうは言ったが、その様子で海藤がそのCDを気に入っていることを摂子は悟っていた。
二人の間は緩い空気で繋がっていて、よほどのことがない限り崩れる気配はない。
「じゃあ、こっちは?これは私も好き」
「ふーん。…これはやっぱ、『KATANA』だよなー」
海藤が曲名を言いさした。
そこへ摂子が反論の声を上げる。
「私は『レモンティー』だな」
「げ、まじかよ。馬鹿だなー」
「馬鹿とか関係ない、好みだもん」
やや不機嫌になった摂子はさらにもう一枚ラックから取り出した。
「じゃ、これは?」
「決まってんだろ、ぜってー『PARADOX』」
「『ClapYourHands!』」
二人同時に曲名を言いさすも、合わず。
緩やかだった空気が、少しだけずれていく。
「なんでそうなるかな」
「自分のセンスを疑え」
「む」
む、という口の形のまま、摂子はそれなら、と、自分も持っているCDを持ち出す。
「これは?」と聞いたそのすぐ後に、
「「『WalkAlong』!」」
と間髪いれず同時に言い放ったら、今度はぴたりと重なった。
「………」
「………」
二人は揃って毒気を抜かれたように見つめあって、それからお互いにそっぽを向いた。
どちらも、むきになった自分と、声の合ってしまった事実に照れているのだった。
合うも合わぬも、好きも嫌いも、とかくこの世はままならない。
「…あのさー、今日、うどんでいい?」
「…いいよ」
拗ねたような摂子の声に、今度は素直に答える海藤だった。
end
しょーもない二人のしょーもないケンカ。
日常です。