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一日目、総括。

 二人の人となりを少し知ってしまったせいか、食事での会話はあまり楽しめなかった。

 だって、片や悪魔娘で、片や悪魔娘の虜同然単純イケメンだ。

 さらに下僕決定の俺。

 三人揃えば悪魔娘と従順なしもべ達の愉快な晩餐。あっはっは。笑えるかっ!

 そんなわけで。食事を終えた俺は今ようやく一人になる事ができた。

 ベッドに寝転んでゆっくり落ち着き……たい所なんだけど。

 否が応にも、今日起きた出来事達が頭の中を駆け巡る。そのせいで、落ち着くことなんてできやしない。

 仕方ない。頭の要求通り、今日起きた出来事の整理をしようではないか。

 諦めた俺はベッドにダイブした後、上半身を起こし、順々に今日起きた出来事を思い出す。


 まず、目が覚めたら別世界だった。そして、綺麗なお姫様に気を失わされた。

 食事が物凄い美味かった。逃げた。魔物に出会った。城に戻る事になった。

 同じ日本人の先輩達がいた。一人は単純馬鹿イケメンだった。一人は悪魔のような女だった。


 それで、次はこの世界の事。

 まず、魔王は五年毎に無限繁殖(おそらく)

 魔王は魔王の卵から生みだされる。

 ソウジさん達は今回魔王の卵を倒す事を目標にしている。

 魔王の卵を倒せば元の世界に帰れる。


 それで、俺。

 この世界では何故か魔法が使える俺達。

 そこで防御系魔法の特性があれば、地獄一直線、魔王の卵討伐メンバーに就任。

 もし、防御系魔法の特性がなければ、めでたくお留守番。


 で、俺が出した結論。

 同じ世界の日本人ではあるが、あの二人とは距離を置きたいのが正直な気持ち。

 リコさんはなんか怖いし、ソウジさんはなんか一緒に居ると疲れそうだし。

 ただ、リコさんには既に嵌められて命令を聞かないといけないのでそうはいかない。

 ソウジさんにしても、無視する事はできない。一応先輩だし、この世界を知っている人でもあるし。

 何せ、俺はこの世界に来て一日の超ド新人。右も左もわからないので、彼らについていくしかないのだ。

 もっと、新参者に優しい先輩達がよかったー!

 さらに、リコさんとはソウジさんにも話せない秘密を共有してしまっている。

 俺が、翻訳呪文が正確に施されていない事。

 何故か、俺の言葉は変換されていなくて、あちらの言葉はちゃんと変換されているんだよな。

 この状態を隠して、リコさんは何かを企てようとしているらしいのだけど――

 あっ、ちょっと待てよ?

 そういえば、もう既に茶老人エムナイルに翻訳呪文かけてもらっちゃったんですけど?

 あっちゃー……すっかり忘れてた。

 明日リコさんに言わないと……文句言われるだろうなあ……やだなあ。

 まっ、まあ、それは置いておいて。

 俺が求める最高のシナリオは、防御系魔法の特性がない→リコさんに無理難題をいわれず平和に過ごす→ソウジさん達が無事魔王の卵討伐成功→元の世界に帰還。

 こうなる為にも……明日行われるであろう、その魔法の特性を調べる儀式みたいなもので防御系魔法の特性が無いとわかるのが絶対条件である。

 心配はしていない。だって魔法なんて使えるわけがない。だけど……前例が二件あるので油断は禁物だ。気を引き締めていればなんとかなるわけでもないけど。


 と、まあこんなところだろうか。後はエムナイルとお姫様に悪い事したからその謝罪したい。そのぐらいか。

 なんだ。考えてみれば、防御系魔法の特性がなければ安全第一シナリオで過ごせる可能性がぐんと高まるわけだ。

 仮に特性があったとしても。俺が使いこなせなければ連れていく必要もない。

 五年間もこの世界にいて魔王を倒す為に修行をしていたソウジさん達が認める程の才能なんて俺にはない。断言できる。

 つまり、こんなこと気にする必要もなかったのだ。あー、考えて損した。


 すっきりしたので、寝よう。色々あり過ぎて疲れたし。

 そう思って、ベッドに上半身を預けたのと同時。

 コンコンッ。

 ドアをノックする音。

 こんな時間に誰だよ?

 再び上半身を起こす。

「はい?」

 少しの間があり。

「あの……シルヴァリナです」

 控えめな声が聞こえた。

 えっ? お姫様?

 こんな時間に何の用だ? あっ、謝るチャンスかも。いやいや、あの無礼な態度に怒って来たのかも。えっ、どうすれば良いんだ?

「あの……入ってもよろしいですか?」

 痺れを切らしたのか、こちらが声をかけるよりも先に、お姫様は言った。

「ひゃっ、ひゃい! どうぞ!」

 落ち着いたお姫様の声とは反対に、俺は心の底からあがってますって思われそうな情けない声。

 元の世界なら、なにこいつ? と不審者と思われるか、心中を見破られて笑われそうだったが、お姫様は特に気にした様子もなく入って来た。

 やっぱ、綺麗。それでいて可愛い。なんだろ。見た目も十分なんだけど、それ以外の物も凄い。気品というか、心の綺麗さが外に出ていると言うか。

 直視できない神聖さがあるのに、目を離す事ができない魅力があるんだ。うーん。絶世の美女と出会った時の事を考えた事がなかったからうまい言葉が見つからない。

「こんばんは」

 見惚れていると言われても反論できない程見つめている俺に、照れくさそうに挨拶するお姫様。うーん。鼻血出たらどうしよう。

「あの……エイタ様?」

「あっ、ああ、こんばんは!」

 そうだ。俺に話しかけてるんだよな。しっかりしろ、俺。

 自分への叱咤で思い出したけど。謝らなきゃな。

「あのっ――」

「座っても良いですか?」

「あっ、どっ、どうぞ!」

 なんと間の悪い俺。しかも、さっきからどもりすぎだ。こんなお姫様を目の前にして緊張するのもわかるけど、本当しっかりしようぜ、俺。

「どわっ!」

 平常心を保つ決意をしたのにも関わらず、俺は声を上げた。お姫様が肌が触れるか触れないか、の距離に腰を下ろしたからだ。

「ちょっちょっちょっ、ええっ?」

「あっ、ごめんなさい」

 俺が変な声をあげたせいで、お姫様は若干ビクビクしながら離れてしまった。

 くそう、俺の馬鹿野郎。けど、正直助かった。

 あんな近くに居られたら、心臓が十個あっても平常心を保つ事はできない。心臓の多さで決まる事なのかは知らないけど。

 それは置いておいて。しかし、お姫様、何の用だろうか。

 年頃の女の子が、男一人の部屋に来るなんて結構な恋愛イベントなんだけど、この世界の女の子の考えなんて元の世界の女の子以上にわからないから、今の状況がどんな状況なのか全然わからない。

 とりあえず、彼女の言葉を待つ。……が。なにやら恥ずかしそうにしているが、特に話を切り出す様には見えない。

 俺時計一分後。変わらず。

 俺時計三分後。変わらず。

 俺時計五分後。あっ、ちょっとこっち見た。

 いやいや。何だこれは?

 えっ、マジでわからないよ! 助けてこの世界の恋愛の熟練者!

 なんて心の中で叫んだって誰も助けてくれやしない。

 彼女がこの部屋に来た意図はまったくわからない。

 はあ……。困ったな。どうしようか。

 あっ、そうだ。謝るって決めたんじゃん、俺。

 まだ何か話そうとする素振りもないし、用事があってきた(はず)のお姫様には悪いけど、こちらから先に話させてもらおう。

「あの……ちょっと良いですか?」

「はいっ。どうぞっ!」

 声をかけられてびっくりしたのも束の間、すぐに嬉しそうに笑うお姫様。……よくわからん。

「えっと……昼間の事を謝りたいんですけど」

「昼間? 何かありましたか?」

 えっ、結構酷い事言ったつもりだったけど、忘れたの?

「えっと……お姫様に悪い事言った……と思うんですが」

 お姫様は首をかしげてちょっと悩んだ後、思い出したのか、嬉しそうに手をポンと叩いた。

「あの事でしたら、全然気にしないでください。来たばっかりで仕方が無いのですから」

 寛大なのはありがたいけど、何故嬉しそうなんだろうか?

 とりあえず、許してもらえた……でいいんだよな?

「そう言ってもらえて助かります。ありがとうございます」

 彼女の様子を見ても怒っているようには見えなかったので、この話は終わらせることにした。

 普通なら、次は彼女が用件を言うんだけど。

 俺時計一分後。変わらず。

 俺時計三分後。こっちちょっと見た。

 俺時計五分後。あっ、ちょっとこっくりした。

 えっ、喋らないどころか、ちょっと眠くなってない?

「あの、ちょっと……」

 びくっと、体を揺らすお姫様。目がトロンとしかかっている。絶対これは眠い。

「何か御用があったのでは?」

 彼女の意味不明な行動に、俺はついに自分から用件を聞きだした。

「えーっと、何を言っておられるのですか?」

 えーっと、それはこちらの台詞ですよ?

「だから、何かご用件があって部屋に来たんじゃないのですか?」

 瞼を重そうにしながら、お姫様は首をかしげる。

「それは、そちらの言葉ですか? 解けちゃったみたいですね」

「えっ? どういう事ですか?」

 悲しそうに笑みを浮かべるお姫様。解けちゃったってどういう事だ?

「少しでしたけど、お話できて嬉しかったです。また、明日もお話してくださると嬉しいです……なんて、言ってもわからないですよね」

 いやいや、おーい。わかってるよー?

 あれっ、この展開前にもあったような……?

「あのっ、もしかして?」

「おやすみなさい、エイタ様。また明日、エムナイルから翻訳呪文を掛けてもらう事を忘れないでくださいね。……とソウジ様にお伝えしておきますね」

 そう言って、お姫様は頭を下げ、足を引きずるようにして部屋から出て行った。

 足を上げる事すら億劫な程眠いのか。いや、ちょっと待て。

「明日また翻訳呪文をかけてもらう?」

 お姫様の言葉とその前の反応。……まさか。

「翻訳呪文って、期限付きなの?」

 俺の疑問の声は、お姫様がいなくなって妙に殺風景に見える部屋にむなしく響いたのだった。

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