嵌められた俺。
それはそうと、一人で残されてもな。
勝手に出歩けないし、つまらないぞ……。
あっ! そういえば……今更思い出した。
俺、姫様に酷いこと言ったきがする!
あとじいさんにもか……。
うわー……凄い気まずいぞ。
謝れば許してもらえるかな……いやぁ、結構言っちゃったもんなぁ……。
「おーい?」
「うわっ!」
びっくりした。いつの間にか帰ってきたソウジさんが、これまたいつの間にか俺の横に座っていた。
「おっ、やっと気がついたか。そんなに真剣に何を考えていたんだ?」
「いや、何でもないです!」
両手を最大限に横に振って否定する。
申し訳ないけど、さっきの話はリコさんとの秘密なんだ。
「ふーん、ならいいけど。ところでリコは?」
「えっ? どっか行っちゃいましたけど」
「マジか! 話し相手になってくれって言っておいたんだけどな」
そうだったんかい!
無責任すぎんだろ。まぁ、あのまま一緒にいたら約束しちゃうところだったかもしれないから助かったけど、それとこれとは話は別だ。
「エイタ、なんかリコを怒らす事でも言ったのか?」
なんでそうなる!?
あっ、そうか。このひとの前では超ぶりっこなんだ。
えっ? じゃあこの先、例えばリコさんが俺のせいにしたら、ソウジさんに睨まれるってことかよ?
マジか。ってことはソウジとリコの信頼関係を超える関係にならないと、リコさんのご機嫌を損ねる行動が死亡フラグ(周りからの評価的な意味で)ってこと?
リコさんの裏の顔を知ってしまってる、俺としては彼女は怒らせない方が良いだろう。
とは言え、年単位で差があるんだよな。過ごした時間。
小学校とかからの友達って、やっぱ高校からの友達よりも、なんか話しやすかったり、楽しかったりするもんな。
例外はあるけど長く付き合ってる分、相手の事も知っているし、知られてもいるから自分を出せるっていうか……。
いや、駄目だ駄目だ。考えるほど死亡フラグが決定的になっている気がする。
と言うか、待てよ。
二人が付き合ってたら終わりじゃね?
「もしかして、お二人付き合ってます?」
おそるおそる聞いてみる。
「そんなわけあるか! ただ、リコは凄い良い子だって知ってるからな。お前を一人にするなんて事するやつじゃないからお前が何かしたのかと思ったんだよ。お前の事はまだよくわからないしな」
そう言ってソウジさんは若干目を鋭くした。
ううっ。めっちゃ騙されてる。
本性を言いたいけど、言ったら殺されるし、どうしたものか。
「ぼっ、僕は何もしてないですよ」
とは言ってみたものの、ソウジさんの表情は変わることはない。
えっ、フラグ決定とかじゃなくて、詰み?
「本当ですよっ」
表情変化なし。
えーっと……。
やばい! もう既に俺の言葉なんて届かないぐらい疑われてる。
どうすんの? どうしよう。
誰か助けて! と声を大にして叫びたいが、助けてくれる人なんて誰もいない。
一番の敵対者が同じ日本人(小悪魔、いやむしろ悪魔)ってどういう事!?
針のむしろに座っている気分のまま、なにか逃げ道はないかと考えていると、突然ドアが開いた。
「あっ、ソウジくん帰ってきてたんだぁー」
現れたのは驚きの表情を上げているリコさん。
こちらの状況を知らずにのんきな声を上げている
本性を知ってしまった今では、それがすごくわざとらしく見えた。
「おっ、リコ。どうしたんだ? エイタを一人にして」
俺の時とは違い、爽やかな笑顔で出迎えるソウジさん。
このやろう、さっきまで泣く子も黙る形相で睨み付けてたくせに!
なんてことは口が割けても言えないけど。
「あっ、ごめーん。トイレ行きたくなっちゃってー」
「そうなのか?」
俺の方に振り返るソウジさん。
いや、俺も知らないよ。
「なんで言わなかったんだ?」
いや、だから知らないっての!
「私が何も言わずに出ちゃったから悪いんだよー。エイタくんは悪くないよー」
「そうだったのか。すまんなエイタ」
あっさり。濃厚な睨みの割にめちゃくちゃあっさりな謝罪かよ。
本当ならここで文句の一つでも言いたいところなんだけど。
今のやり取りで俺の立場がわかっちゃったから何も言えません。
「さて、誤解が解けたところで。飯を食べよう。俺は腹が減ったよ」
ソウジさんはそう言うと、おもむろに立ち上がった。
「エイタは腹減ったか?」
ちょっと前まで睨まれて萎縮してたから空腹かどうかなんてわからん。
けど、ここで断ったら今日のご飯食べれないかもしれないしなあ。
「はい。減ってます」
考えた末、お供することに。
まだ色々わからないことあるし、ここのご飯美味しいしね。
俺の返答に満足そうに頷くと、ソウジさんはリコさんにも同じことを聞き、足早に出ていった。
早いなっ。よっぽどお腹空いてるのか?
やばっ、そんなこと考えてたら置いていかれる。
そう思い、駆け足でソウジさんの後を追う。
そして、ドアの横に立っているリコさんの横を通り過ぎようとした時。
「これでわかったかしら?」
不意に声をかけられた。
これでわかった? どういう事だ?
「何がです?」
問われている事がわからず聞き返すと、リコさんは小さく舌打ちし、いかにも面倒臭そうに言った。
「だから、あんたの立場の事よ。あんたが私のことをソウジに言っても信用される要素はゼロ」
この人、まさかそのために席を外したのか?
俺に自分の立場を気づかせるために?
「そうよ。最初からこうなるためにやったの。思わぬ収穫もあったけどね」
俺の表情を見て愉快そうに笑うリコさん。
思わぬ収穫って、俺に不完全な翻訳呪文がかかっていたことか?
それにしたって、なんだってこんなことを……。
「これから先あんたが私以上にソウジに信頼されることはないわ」
「なんでこんなことを?」
答えてくれるとは思わなかったが、聞かずにいられなかった。
こんなことをする目的はなんなんだ?
「まあ、色々あるのよ」
やはりはぐらかされた。
まあ、すぐネタばらしするなら嵌める意味ないもんな。
「とにかく、これであんたは私の言うことを聞かなければいけないのがわかったでしょ?」
確かに、逆らえばまたソウジさんに睨まれる。いや、睨まれるだけならまだマシなのだろう。
最悪、ここから追放。または死刑……。
同じ日本人ではあるが、彼らはこの世界に多少は馴染んでいるはずだ。
死刑なんて考えられないけど……絶対ないとは言い切れない。
ここの世界と日本では文化が違うのだ。
言い方は悪いが、魔物達や魔王を倒したソウジさんが日本の心を忘れ、ここの世界に影響されている可能性は多分にある。
結論、聞かざるを得ない。
「そうですね」
彼女の意見を肯定したが、ただ黙って従うつもりはなかった。
先手をとられたが、これから挽回する機会はあるはずだ。
あの二人がまだ関係を築けていない人達を探して、味方に引き込めば……。
「そんな怖い顔しないでよ。あんたにとって悪い話ばかりではないんだからね」
言われて気がつく。
険しい顔してたのか。いや、それよりも何か聞き捨てならないことを言っていた気が。
「悪い話ばかりではない?」
話がよくわからないぞ?
「まっ、この話はおいおいね。空腹のソウジを待たせると後が面倒だから行くわよ」
「えっ、ちょっーー」
呼び止める間も無く、リコさんは部屋を出ていってしまった。
と、思ったのも束の間、ドアからひょっこりと顔だけ出してきた。
何故か満面の笑みで。
「というわけで、さっきのお楽しみはおあづけよ。私が驚く働きをしたら考えておくわ」
えっ、なんで?
全然話についていけない。
「だって、協力する事になったじゃないですか?」
口が動いてしまったので言ったが、俺必死だな。
まあ、年頃の高校生と言うことで目を瞑ろう。でなきゃなんか恥ずかしい。
「あんたねぇ。チャンスってやつはいつまでも転がってないって事よ」
「つまり、あの時即答しなければいけなかったと?」
「そう」
そう、じゃねえよ。
いたいけ……じゃなくて、多感なお年頃の男をたぶらかしやがって。
ここは引いちゃ駄目だ!
男として、約束は守らなければいけないと教えられてきた日本男児として!
決して、おいしいおもいがしたいわけじゃないぞ!
「そこをなんとか……」
したでになることで相手の気分を良くしてからが勝負だ。
下手に言い寄ればあっさり断られる。
慎重に、慎重に……。
「無理。これ以上言うならソウジに『実はさっきエイタに酷いこと言われたから退室した』っていう」
駄目でした。
いや、ちょっと待て。
誘ってきたのはそっちじゃねえの?
なんで、俺が頼んでんの?
「そんなのずるいですよ!」
俺が怒鳴り気味に放った言葉を聞くと、リコさんは不敵な笑みを浮かべた。
やべっ……ついムキになった。
「良いの? これ以上言えば、もうそんなチャンスすらなくなるわけだけど?」
そう言って、リコさんはゆっくりと前屈みになる。
胸の開いた服だから、中の胸がゆっくり見えてきてーー
「どうする?」
勝利を確信した笑み。
くそっ。男心を嘲笑うかのような仕打ち。
こんなことで俺はーー
「すいませんでした。もうくちごたえしませんので、チャンスをください」
うん。敗北&下僕宣言。
これはしょうがない。だって、そんな可能性が転がっていたら、手放したくないもん。
それを転がす人の事が好きじゃなくてもさ。
「わかれば良いのよ」
満悦した顔でリコさんは今度こそ先に行ってしまった。
ふう……なんとか終わった。
まさか、仲間である人達とのやり取りでこれほど疲れてしまうとは。
緊張と疲労感で、結局良い具合に腹が減った。
うーん……ご飯食べよう。