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コスプレイヤー?

 部屋を出ると、石造りの通路に出た。


 レンガぐらいの大きさの石が積み重なっている壁はダンジョンを思わせる。


 部屋とは違って寒く、思わず両腕をこする。

 そこでようやく気付いた。俺は寝巻のままだ。

 上は半そでのTシャツ、下はジャージのズボンである。

 俺はこの姿のまま、王女様と話していたのか。恥ずかしっ! まあ自称王女だけど。

 そんな事より脱出しなきゃな。延々と続くかと思われた石造りの通路は案外早く終わりが見えた。窓もあまりないし、暗がりだったからさっさと抜けたいという想いが通じたようだ。

 目の前にある立派な扉の先は恐らく外だろう。しかし、すべてがうまくいくわけではない。そこには二人の門番らしき者がいた。

 その門番は中世の兵士ですか? と思わず突っ込みたくなる格好だった。

 屋内だから槍こそ持っていなかったが、槍をもっていたら立派な兵士だ。RPGの。

「お待ちください」

 無視すれば案外大丈夫かな? と思って目線を合わせず通り過ぎようとしたが、駄目だった。

「帰って良いと言われました」

 間髪いれずに嘘をつく。嘘だろうがなんだろうが信じこませれば、相手にとってそれが真実だ。

「しかし……」

 だが、思ったよりそううまくはいかなかった。兵士と思われる男達は困った顔をしているが、外に出す気はないようで、何気なく扉の前に移動している。

「本当ですって。外を見せてくださいと言ったら許されました」

 超適当。誘拐だった場合、外へ出したらそのまま逃げる可能性があるから普通は絶対許さないだろう。まあ、可能性が0ではないだろうから言ってみただけだった。

 なにせ、エムナイル達と同じで、兵士と思われる男達の言葉遣いは誘拐犯とは思えないのだから。

 そんな事より、怒りのせいか嘘も簡単につける。さっきどもったのはなんだったのだろうか。これから嘘をつく時は怒ってからにしようと思う。

「それなら……」

 適当に言った事だったが、兵士達は何故か納得してくれた。意味わからないがありがたく通らせてもらおう。

「悲観しないでくださいね。帰る術はいつかきっと見つかりますから」

 しかも、端に退いた兵士達の前を通り過ぎようとした時、変な慰めまで受けた。エムナイルと自称王女様だけではなく、兵士までおかしいとは……。二度とこの辺りには近付かないようにしよう。


 外は快晴だった。石造りの通路の窓から差し込んできていた光を見て、晴れているとは思っていたが、雲ひとつない快晴である。こんな天気のいい日に、あんな暗い場所に閉じ込められていたのかと思うと、出られて本当に良かった。

 こんな場所さっさとおさらばだ。閉じ込められて建物に別れを告げようと振り返る。そこには思ったより大きい建物の姿があった。

 見渡せば、この建物がRPGによく出てくる城と似ている事がわかった。しかも相当な大きさだ。ここまでの建物を造るのにどれだけの費用がかかるのだろうか。学校を造るのにも億を超えると聞いた事がある。十億ぐらいでこの城は造られたのだろうか。

 もしかしたら、エムナイルや兵士達は熱狂的な中世ファンかRPGファンなのかもしれない。

 その時代を再現する為に命をかけた狂信者なのだろう。

 確かな信念があり、あんな事をやっているのだ、きっと。どうでも良いけど。

 さて、さっさと帰らなければ。普段俺に厳しい姉ちゃんだが、今回の事にはさすがに涙無しでは出迎えられないだろう。

 携帯も通じない(家にある)から連絡も取れない。

 何も言わずに消えた弟が恋しくてたまらないはずだ。

 もしかしたら抱きしめられるかもしれない。

 そう思うと足取りが軽くなった。しかし、城を抜けて大分歩いているが、その間見える景色にはびっくりしてばかりだ。

 テレビで見た外国の街並とすごく似ている。やはり中世ヨーロッパか、RPGを題材にしているのだろうが、城下町まで昔を再現しているのには驚きだった。

 しかも町人達まで完備してあるとは。狂信者恐るべしである。

 それにしてもここはもしかしたら本当に海外なのだろうか。

 俺の格好を見町人が凝視してヒソヒソ話している。

 いくら寝巻とはいえ、日本だったらそこまで変な格好ではないはずだ。

 中世時代の思考すらも再現しているのだとしたら、その行動はおかしくないのだろうが、そこまで徹底しているのだとしたら凄いというか、若干引いてしまう。

 まるで俺が異常者の様に思えてしまい、居心地が悪くなってきた頃、ようやく、出口らしき城門にたどり着く事ができた。

 へえー、中世ヨーロッパの時代では、国を壁で囲って敵からの侵略に備える、いわゆる城壁都市があったと聞いた事があったが、城壁まで作っているとは驚きである。侵攻される事があるかどうかは別にして。

 城門にはまた、最早お決まりと言っていい、兵士コスプレの男がいた。しかも総勢四人。しかし、さっきも楽に出る事ができたのだ。今回も楽勝だろう。

 二度目で気持ちに余裕が生まれた俺は「お疲れ様ー」と彼らの上官の真似事をしながら外に出ようとした。

 しかし、あっさりと止められてしまった。四人掛かりで。

 まあ、ここまでは当たり前だ。なにせこの兵士コスプレレイヤー達には話が通っていないのだから。

「外を見せてくださいって言ったら許されました」

 この言葉に絶大な力があった事はさっき証明された。さあ、俺を掴んでいるその汚い手を離すがよい! あう……ちょっと感染してきてるな。

「そんな許しが出るはずがありません! 御戻りください!」

 しかし、返ってきた言葉は完全な拒否である。敬語を使う辺り、俺が誰だかはわかっているようだが。

 そもそも俺ってなんなのだろうか。エムナイルや、自称とはいえこの国では王女である女の子から敬語を使われる俺は一体……。

「外は危険です! お戻りください!」

 どうでもいい事に注意がいってしまい、黙っていた俺に再度注意の言葉が投げかけられる。そうだ、今は余計な事を考えている場合ではない。

 早くこの狂信者達から逃れ、家に帰らなければいけない。

 しかし、この状況は圧倒的に不利だ。こいつら、ただのコスプレイヤーじゃない。

 俺を止める力の入りようが凄い。いくら相手に数の利があるとしても、俺が押してもびくともしないのはびっくりだ。

 服や鎧に隠れて体を見る事はできないが、相当筋肉があると思う。くそっ、そこまでやるとは……真のコスプレイヤーか!?

 このままでは折角ここまで逃げて来たのに、城へ戻されてしまうかもしれない。……考えろ! 何も出ない!

 ちくしょう、ここまでなのか……あっ! あれって結構勝算高いよな。漫画とかだと。他に何も思いつかないし、やってみよう。

 俺は覚悟を決め、もみくちゃにされながらもなんとか、城(がある方向)を指差し、大きな声で言った。

「あっ! エムナイル!」

 言う途中にエムナイルに敬称をつけるか一瞬迷ったが、あえて呼び捨てにしてやった。

 偉そうな老人だから大臣かもしれないエムナイルを呼び捨てにすることで、名誉を少しでも傷つけてやろうという算段である。まあ、俺みたいなガキが言ったって何の効果もないだろうけど。と、いうか気づきもしないだろう。

 現に、兵士達はそんな俺のこすい考えに気付かずに、皆、俺が指差した方向へ振り返っている。やはりエムナイルは偉い奴なんだろうか、中には姿勢を正す奴もいる。いや、見てる場合ではない。

 俺は解放された瞬間、一気に門へ走った。どんどん速度を上げ、トップスピードになった時、後ろを振り返ると、大きな声でなにやら叫んでいる兵士達が走って追いかけてきている。俺より大分遅いが。

 所詮、コスプレイヤーはコスプレイヤーだったと言う事か。

 いくら全身鎧ではなくても、多少の重みはあるんだな。

 ざまあみろ! これからはちゃんと鍛えるんだな!

 コスプレイヤー達が豆粒ほどの大きさに見えるまで走って、ようやく俺は脚を止めた。

 ぜえー、ぜえー……久しぶりにこんなに走った。ポタポタと垂れる汗が気持ちいい。たまには体動かさないと駄目だな。

 さて、これからどうやって家に帰ろうか。今、自分がいる場所がわかるといいのだけど。

 辺りを見回しても草原しかない。遠く離れた先に森らしき物が見えるが、森に入ったら余計迷う気がする。うーん。どうしよう。

 もう一度後ろを向き、まだコスプレイヤー達が豆粒なのを確認して、とりあえず休憩しようと草原に佇む座るのにちょうどいい石に腰かけようとした時、背中に寒気がした。今までに感じた事がない、体が縮みあがりそうな、気持ち悪さを伴う物だ。

 素早く後ろを振り返ると、そこには今まで見た事ないような獣が立っていた。

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