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暴言姫VS性悪娘

 覚えが悪い俺でも、鬼教師(リコさん)のしごきで少しずつ、着実に成長していった。

 今思い出しても、それはもう酷い修行だった。主に精神をえぐる口撃が。

 なんとか、石の壁を百発百中出せるようになった。俺の心と引き換えに。

 ただ、場所指定はいまだにできていないんだけどね。

 それに結局、なぜ元の世界の言葉で魔法を出せるのかも解明できず、この問題は保留と言う事になった。

 エムナイルやソウジさんが来た時は休憩する事に決めて、なんとか誤魔化せてはいたがいつまで続く事やら。

 そして、今日もリコさんの慈悲の無いしごきをうけている時だった。

 それは姫様の一言で始まった。

「そんなに無理をなさっては体がもちませんわ。今日は休養日にいたしませんか?」

 修行が始まって一時間が経った頃だ。どうせなら、もうすこし早く言ってほしかったのは内緒だ。

「そんな時間はありません。覚えが悪すぎるものですから」

 リコさんはきっぱり却下した。しかも、明らかに俺が悪いと主張している。

 なんか、オブラート的な包み紙が欲しいところだ。

 俺だって好きでこんな頭しているわけじゃないんですけど……ね。

「一度環境を変えて気分をリフレッシュするのは良い事ですわ。鬼婆にいびり倒されていては委縮しっぱなしですわ」

 おっ、鬼ばばあ……。姫様お口が悪い。ってか、これはまずい展開では……?

「鬼婆ぁ!? あなたと大して歳は変わらないんですけど?」

 案の定、リコさんのこめかみに一筋浮かび上がる。俺は見ているだけだ。

 二人の会話に入り込む度胸も無い。虎と獅子の殺し合いの間に入ることなんて誰もしないだろ?

「あら? 十代と二十代では凄い違いがあるってソウジ様がおっしゃってましたわ」

「ソウジが? あの筋肉馬鹿……!」

 リコさんは暴言ともとれる言葉と一緒に溜息を一つ零し、うなだれた。

 なんか、最近は本性が姫様にバレたからか、益々過激になっている気がする。

「姫様、良いですか? 彼がモノになってもらわなければ私達が困るの。貴重な防御系魔法の使い手なのだから、ちょっとでも早く一人前になってほしいのよ」

「だから、言っているのです。飴と鞭ですわ」

 苛立つリコさんに一歩も引かないお姫様。しかしおかしいな。なんか姫様も酷い事言ってないか?

「鞭? 鞭はこれからよ。今はせいぜい木の棒ぐらいね」

 木の棒もかなり痛い気がするのだが、聞くに聞けない。

「随分暴力的なのですね。それでは殿方にモテませんわよ」

「モテなくて結構です。こいつに惚れてほしくもないし」

 こいつ呼ばわり!?

 というか、なんか二人とも段々ヒートアップしてないか?

「はあ、鉄頭のリコ様と話していても、いつまで経っても平行線ですわ」

「あら。初めて意見が合ったわね。私もこんな強情な世間知らずの姫様とは話がつかないと思っていたの」

 舌戦を繰り広げていた二人の視線から火花が飛び散っているように見えるのは錯覚だろうか。

 そして何故か、二人が突然俺を睨みつける。なんで姫様まで。

「エイタ、どっちの意見に賛成するの?」

「エイタ様は勿論私に賛成に決まってます」

 えええっ? なんだこれは。

 リコさんに賛成すればお姫様が傷つくし、お姫様に賛成すれば明日から俺がより傷つく。

 さっきのリコさんの言葉ではないが、木の棒から鞭に変わるだろう。しかも棘付きの。

 二人の顔を交互に見るが、眼力が強すぎる。視線が痛い。

 まるで極太の針が何本も体に刺さっていく感じだ。

 だけど、言葉通り針のむしろ状態になっても、俺は答えが出せない。

 だって、どっちも結果が怖いんだよ。

「どうしたのエイタ? 早く答えなさいよ」

「エイタ様、リコ様に気を使わずに言ってくださいな。あの人は強い方ですから。でなければ、今まで本性を隠して人を騙すなんて真似できませんわ」

 しかし、最悪な事に、俺が答えを先延ばしにする程、二人の言い争いが激化していく。

 この激化が一番厄介だ。怒りが溜まれば溜まるほど、選ばれなかった方から与えられる俺への仕打ちが酷くなる事を意味しているのだから。

 かと言って、俺が選ぶのは絶対に嫌だ。こんな究極の選択はお断りだ。

 ……一か八か言ってみるか。

 俺は、この状況を打開すべく、一つの提案をした。

「じゃんけんはどうかな?」

 場が凍った。あれ? もしかしなくても失敗?

「いいでしょう」

「それでいいわ」

 えっ? あっさり通った。

 すぐさま、二人は準備に入る。

 気のせいだろうか。オーラ的な何かが見える気がした。どす黒いやつ。

 じゃんけんをするだけなのに、物凄く殺気のこもった空間で俺の命運がかかったじゃんけんが始まる。

「じゃーん! けーん!」

「ぽん!」

 二人が繰り出した手を見て、勝負がついた事を理解したが、それでも俺はどんな顔をすればわからなかった。

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