ここはどこ?あんたは誰?
息抜きに書いている物ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
眩しい。確か寝る前に電気は消したはずなんだけどな……。誰か中に入ろうとしてるのか? 姉ちゃんか?
仕方なく、重い瞼を開く。寝起きだからか見える景色にはまだ靄の様なものがかかっている。見えにくいが天井に付いているシャンデリアが点いている事を確認する。……シャンデリア? おかしいな。うちはいつからシャンデリアなんて洒落たインテリアを?
「姉ちゃん……いつの間にシャンデリアなんて――」
つけたんだよ、とベッドから起き上がって言おうとした。が、最後まで言う事はできなかった。シャンデリアだけの問題じゃなかったのだ。部屋全体が変わっている……いや、違う。俺が寝ていたいつもの自分の部屋じゃない。
「どういう事だ……?」
俺はベッドから降り、何度も目をこすった。そう、きっと幻覚を見ているんだ俺は。そう願って瞼が痛くなるほどこすり、もう一度部屋を眺める。……うん、変わらない。いやいやいやいや! 何? どうなってんだ!?
「姉ちゃ――」
いや、待て。自分の家かもわからないし、朝か夜かもわからない。夜だったらこの家の人に迷惑をかけてしまう。じゃなくて、他人の家だったらそれはそれで問題である。確かに俺は家で寝ていたのだから。もしかしたら寝ている間に誘拐された? その割には拘束もされてないし、誘拐される側よりも高級そうな部屋っておかしいよな。
部屋を見渡しても現状がわかりそうにない。だってベッドとテーブルとイスしかねえし。その割に十畳くらいの広い部屋。これが本当に俺の部屋だったら嬉しいんだけど。俺の部屋四畳半だし。
「いやいや、そんな事考えている場合じゃないから」
声に出し、雑念を振り払い、真剣に考える。昔から余計な事を考える癖があるからな俺……ってまた余計な事を考えてるし。それは置いといて、まずは……この部屋に鍵が掛かっているか確かめよう。それをすれば招待されたのか(人が寝ている時に無断で運ぶなんて失礼だけどね!)、誘拐されたのかわかるもんな。よし、確認だ!
俺はゆっくりとこの部屋にあるたった一つのドアに向かった。確認だ! と意気込んでみたものの、鍵がかかっていた時の事を考えると、足取りがおもくなったのだ。どうか誘拐の線はなくなってくれという願いを込めてドアノブに手を掛ける。そして、ゆっくり回す。ドアノブが回らなくなった事を確認し、目を瞑る。深呼吸をしてドアノブを握っている手に力を込めた。ええい! お願いします! 誘拐だけは勘弁してください!
「えいっ!」
掛け声と共に思い切りドアノブを引っ張った。ドアは反発する事なく簡単に開いた。やった! 誘拐じゃない! しかし、目の前の光景に体が固まる。そりゃもう色んな意味で。
まず、目の前に人がいた事。ちょうどドアを開けようとしていたようで、右手がドアノブが本来あるべき場所の辺りで固まっている。次にそのドアを開けようとしていた【人】がおかしな格好をしている事。よくRPGで見る魔術師が着てるローブを羽織っている老人なのだ。茶色のローブは実に年齢にマッチしていて、どんな服装よりも似合っている事だろう。どうでもいいが。そして最後にして、一番の驚きはその茶老人(勝手に命名)の後ろにいる、一人の女の子だ。これ程まで綺麗な金髪は見た事がないし、普通にしていても大きそうな瞳が俺を見た事でさらに大きくなっている。顔は今は可愛い印象が強いが数年後には月並みな言葉だが、絶世の美女になるのではないのだろうか。恐れ多くも一目ぼれしてしまった。勝算ないけど。
「こ……これはこれは。目覚めておりましたか」
女の子に釘付けだった俺に、茶老人がそう言って、軽く会釈をした。この糞爺は運命の出会いにしゃがれた声で邪魔しやがって。しかし、俺はこの二人を知らない。さっき、消え去ったはずの誘拐の線がまた薄らと姿を現してきた。やはり誘拐なのだろうか? その割に俺に会釈をするのもおかしな話だが。
「あっ……はい。あなたは……誰ですか?」
こちらも軽い会釈と共にそう返した。言葉を選びながら喋ったのだが、失敗したらしい。茶老人が目を大きく見開いたのだ。
「いやはや……まさか声まで似ているとは……しかし、翻訳呪文は失敗してしもうたか」
似ている? 翻訳呪文? 全然わからない。あんたの言葉は理解しているつもりだが、俺の言葉が意味わからないってことか? 一応俺も都会の方に住んでいる。自慢じゃないが標準語しか使った事はない。あんたらの言葉同様標準語で話しかけているのに通じないってどういう事だ?
「いや……あなたの話している事はわかっているのですが? それより似ているとか翻訳呪文とか、どういう事ですか?」
さすがにムッときたので若干喧嘩腰になってしまった。言葉が通じていないフリがここまで苛立つとは知らなかった。頭が良いやつに何言ってるかわからないんだけど? って言われたぐらいむかつく!
「またまた失礼をしました。まずは翻訳呪文をかけましょう」
しかし、またしても相手に伝わらなかったようだ。さらに俺の表情を見て勘違いしたらしく、茶老人は慌てて謝罪をした後、体の前に両手を出し、なにやらブツブツ唱え始めた。唱えて行くうちに両手から微かに光が放たれていく。手品?
「はっ!」
茶老人の掛け声と共に両手の光が真っすぐ俺に飛んできた。
「うわっ」
とっさに目を閉じて腕を出したが、痛みはなかった。やっぱ手品なのだろうか? あれか? 迷子になってずっと泣いている子供に手品を見せて泣き止ませる作戦みたいなものか? 高校二年生にもなってそんな扱いをされるとは……!
「どうじゃ? これで言葉がわかったのではないかの?」
「へっ?」
「おおっ。無事成功したようじゃ」
成功ってどういう事だ。俺は泣いてなんかないぞ! 不安がってはいたけどこの年になって迷子ぐらいで……というかあんた等が誘拐したんじゃねえか!
「改めまして、私はエムナイル=ウォーゲンと申します」
あの手品で俺の不安を吹き飛ばしたつもりなのか、自己紹介なんぞしてきた。悪意のない笑みが逆に不気味だ。俺が子供だったら「おじちゃん凄い! 今のどうやったの!?」なんてはしゃぐ所だが、生憎子供ではない。ぶっきらぼうに返す事にした。
「いや、だから名前言われても困るんですけど?」
茶老人、いや、エムナイルは苦笑した。
「そうですね。あなたからしてみたら何もわからない状況でしょう。しかし、私が名前を告げた事で誘拐ではない事をわかってくださりませんかな?」
こいつ……! 誘拐犯が誘拐ではないって言って信憑性に欠けるだろうが! 仕方ない。ここは俺が大人になるべきだ。さっさと話を聞いて帰らせてもらおう。
「そうですね。それでここは? 誘拐ではないのなら、家に帰して欲しいのですが」
「それは無理ですね。理由は色々あるので説明が長くなりますが、よろしいですかな? とは言ってもこの世界であなたが生き残るには、聞かざるを得ないのですがね」
なんて事だ。この爺、誘拐だけでなく、俺の言う事を聞かないと死ぬ事になるぞ、と脅して来たぞ。とうとう本性をだしやがったか。
「それはどういう意味――」
不意に体を突き飛ばされる。いや、誰かに抱きつかれたのだ。今まで固まったままだった美女がレスリング部所属ですか? って質問したくなるような思い切りの良いタックルをしてきたのだ。
「お兄様!」
お兄様? その意味を考えようとしたが後頭部を思い切り床にぶつけ、邪魔された。目の前が霞んで行く。茶老人と美女が俺になにやら叫んではいるが耳に入ってこない。そのまま目の前は真っ暗になった。