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宇宙船地球号は、あと何回、まわれるだろうか?

掲載日:2026/06/12

 死ぬ前に一度、宇宙旅行に行ってみたい。

 そんな願いが、叶えられるようになった。




「それじゃあ、おじいちゃん、いってらっしゃい」

「おじいちゃん、お土産、楽しみにしてるね」

「こら、つつじ、そんなこと言うもんじゃないの」

「えー、どうしてー」

 

 可愛い娘と孫娘と、儂は見送られる。

 周囲を見回すと、儂と同じくらいの年の、爺さん婆さんが、家族と別れを惜しんでいる。


「おじいちゃん、これ」

 孫のつつじが、儂に紙袋を渡す。

 中身が詰まっていて、ずしりと思い。

「船内だと、あまり、甘いものが、出ないって言うから」

 娘のみそらが、儂に言う。

 紙袋の中には、ぎっしりと饅頭が詰められていた。

「薄皮で、あんこがぎっしりなんだよ、おじいちゃん」

「ありがとう、つつじ」

 左手で紙袋を、右手で孫娘を抱きしめる。

「それじゃあ、おじいちゃん、行ってくるよ」

 娘を抱きしめる。

 儂は、二人に別れを告げて、搭乗員待合室に向かった。


 搭乗員待合室は、とても静かだった。

 儂には価値が分からないが、高級であることは分かる調度品で、揃えられていた。

 ソファに腰掛けると、柔らかく包み、沈み込む。

 落ち着かない。

 儂は、立ち上がり、ぶらぶらと、待合室の壁際に飾られている、美術品をぼんやりと、眺めていると、

「おう、雨橋んとこの、爺さんじゃねえか」

 儂に話しかけてきたのは、枯野の爺さんだった。

「枯野。そうか、お前も、今年か」

「お鉢を回す、お鉢が回ってきたのさ」

 彼は、人差し指を八の字にくるくると回しながら、そう言って、儂の紙袋を指差した。

「それ、なんだ?」

「饅頭だ」

「葬式饅頭か?」

「おい、枯野」

「俺らは、人身御供だ」

「仕方、ないだろ」

「嫌な時代になったもんだ」

 彼は、言うやいなや、ひょいと、儂の饅頭を一つ取った。

「ここらで、一つ、お茶が怖い。それじゃあ、茶柱、人柱。アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」

 我が子のため、その赤子のため。

 回る、回るよ、次代に回る。

 生まれ変わって、恵み合う。




 リデュース・リユース・リサイクル。

 完璧な循環型社会が形成された。

 しかし、資源は無限ではない。

 宇宙船地球号は満員だった。

 増える、人の口。ならば、減らす口。

 口減しのための宙流し。

 必要のなくなったクルーに、与えられたのは、地球号に比べ、小さな小さな、小さな小舟。

 必要最低限の、資源と循環システムを搭載し、母船から、宇宙エレベーティングで、引き上げられる。

 衛星軌道上をしばらく周回した後、遠心カタパルトによって、地球と火星との周回軌道に乗る。

 火星を周回する際、地球への資源支援貨物を受け、舟は地球へと帰る。

 質量が大きくなった分、軌道離心率は小さくなる。

 舟は周回軌道から、少し内側に収縮する。

 つまり、地球への落下軌道をとる。

 舟は再利用されるが、荷とクルーは、その形状を問われない。

 地球の循環システムへ、還っていく。

 流れ星として、大気圏で、ちりぢりと。

 

 これを散回帰と呼び、その周期は約二年。



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