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第13話: 黄金の聖女を呼ぶ声、不吉な使者

城の正門が、重々しい音を立てて開かれた。


 白銀の世界に突如として現れたのは、黄金の装飾が施された純白の馬車と、眩いばかりの魔力を放つ一団だった。

 中央教団――この国で「太陽」を信仰し、聖なる力を持つ者たちを管理する最高組織。


 広間に現れたその男を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。


「お初にお目にかかります。アイスベルク公爵閣下。……そして、美しき我が『太陽の残り火』よ」


 男は、燃えるような金髪と、慈愛に満ちた碧眼へきがんたたえていた。

 中央騎士団長、アーサー・グレイス。

 彼が纏う空気は、ジークフリート様の刺すような冷気とは対照的に、春の陽だまりのように穏やかで、そして――抗いようのないほどに明るかった。


「……気安く呼ぶな。……その口を凍らせる前に、用件を言え」


 ジークフリート様の声が、隣で低く響く。

 彼は私の肩を抱き寄せ、骨がきしむほどの力で私を自分の方へ引き寄せた。

 まるで、少しでも隙間を作れば、この光の騎士に奪われてしまうとでも思っているかのように。


「用件は一つ。リリアーナ・フォン・エルトマン……いえ、リリアーナ・アイスベルク夫人。貴女を、中央聖域へお迎えに上がりました」


 アーサーは優雅に一歩踏み出し、胸に手を当てて深く頭を下げた。


「貴女の持つその『熱』。それは伯爵家が蔑んだような無能な力ではありません。……失われたはずの、世界を浄化する『太陽の聖女』の魔力そのものなのです」


「聖女……? 私が……?」


 私は混乱して、ジークフリート様の服の袖をぎゅっと握りしめた。

 無能だと捨てられ、道具として送られた私の中に、そんな大層な力があるなんて。


「左様です。公爵閣下、貴方はご存じないかもしれないが……。氷の呪いを宿す貴方の隣にいては、リリアーナ様の聖なる力は次第に削り取られ、やがて彼女の命をむしばむことになる」


 アーサーの言葉が、鋭い氷柱のようにジークフリート様の胸に突き刺さったのが分かった。

 抱きしめられた腕が、微かに、けれど絶望的に震える。


「……黙れ。……デタラメを言うな」


「デタラメではありません。……見てください、彼女の肌を。公爵領に来てから、以前よりも青白くなっていませんか? それは、貴方の冷気が彼女の体温を奪い続けている証拠だ」


 アーサーが指し示した私の手首。

 確かに、そこにはジークフリート様が昨夜、愛おしそうに何度も口づけた跡があった。

 けれど、彼に触れられるたびに、私の体温が吸い取られているのもまた、事実だったのだ。


「リリアーナ様。……貴女は、光の中にいるべき方だ。……暗く凍てついたこの城で、誰かのための暖房器具として消費されるべき存在ではない」


「違います……っ! 私は、旦那様のそばにいたいから……!」


「……リリアーナ」


 ジークフリート様が、掠れた声で私の名前を呼んだ。

 私を見下ろす彼の瞳には、かつての傲慢さはなく、ただ「自分は彼女を不幸にしているのではないか」という、悲痛な自責の念が溢れていた。


 彼はゆっくりと、私の肩から手を離した。


「……旦那様?」


「…………。……ブリギッテ。……使者を、客間に案内しろ」


「閣下……!?」


 ブリギッテ様の驚愕の声を無視して、ジークフリート様は背を向けた。

 その背中は、どんな吹雪の日よりも寒々しく、孤独に見えた。


「……頭を冷やす。……一人にしてくれ」


 彼は一度も振り返ることなく、足早に去っていった。

 

 残されたのは、不敵な笑みを浮かべる黄金の騎士と。

 最愛の人に突き放され、冷え切った廊下で立ち尽くす、私だけだった。


(……温めてあげたい。……でも、私の熱が、あなたを苦しめているの?)


 氷の城に差し込んだ「救済」という名の光は。

 私たちがようやく見つけた小さな幸せを、残酷に切り裂こうとしていた。

ついに「聖女」としての宿命が明かされ、ジークフリート様が最大の弱み――「自分の冷気が彼女を害している」という事実に直面してしまいました。

不器用な愛ゆえに、身を引こうとしてしまう彼の切なさ……。


「閣下、行かないで! リリアーナを離さないで!」

「アーサー様、爽やかだけどやってることがエグい……!」

と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】で、二人を応援してください。


次回、第14話「『君を、光の中へ返すべきか』」

夜、一人で苦悩するジークフリート。そこへリリアーナが……。

切なさと執着が爆発する、深夜の寝室回です。

霧島 結衣でした。

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