(9)どこか知らない世界(電脳世界)
その夜。とある某掲示板。
1:名無しのクリエイター 【驚愕】とんでもないクオリティの神映像見つけたんだがwww
[URL:https:*********************] 『2026年2月18日_商人ギルド』
これ見て。タイトルも地味だし、投稿者も無名なんだけど、クオリティが次元違ってて草も生えない。
2:名無しさん
また釣りかと思ったら……。 え、何これ。光の反射がおかしくない? 窓から入る光の粒子まで見えてるんだけど。
3:名無しさん
どうせ最新のAI動画だろ。今流行のやつの進化版じゃないの?
4:名無しさん
いや、AI特有の「揺らぎ」が一切ないぞ。特にあの毛むくじゃらの給仕?みたいなやつ。耳の動きとか、毛の一本一本の物理演算が完璧すぎる。これ手作業でやってたら製作費何億かかるんだよ。
5:名無しさん
中の人が着ぐるみ着てる実写じゃないの?
6:名無しさん
小道具の質感がやばい。革のソファのひび割れとか、絨毯の沈み込み方とか。これ、どこかの超大手スタジオが極秘で進めてる映画のテスト映像とかじゃないか?
12:名無しさん
投稿者の「ケント」って誰だよ。他にも動画上がってないか確認したけど、これ一本だけ。設定ミスで流出した本物のやつだろこれ……。
25:名無しさん
「フルCGです(嘘)」みたいなタグつけようぜwwマジで実写にしか見えん。
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ネットの喧騒など届かぬ異世界の、マホガニーの香りが漂う個室。
支部長のマリリンは、深くソファに身を沈めながら、戻ってきた給仕のベルを静かに見つめていた。
「……で? 見失ったの?」
その声に刺すような冷たさはなかったが、ベルは耳を伏せ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「……申し訳ございません、支部長。表通りを抜けた後の狭い路地裏……袋小路に入った直後、煙のように姿が消えていました」
「姿が、消えた?」
「はい。周辺の建物に飛び込んだ形跡も、地下道もありません。ただ、不自然なほど綺麗に気配が断たれたのです。……おそらく、こちらの尾行に気づいていて、転移系の魔法か、強力な隠蔽具を使ったものかと」
マリリンは扇子でトントンと顎を叩き、思考を巡らせた。
あの「ケント」と名乗った青年。
身なりは不相応に地味だったが、持っていた魔道具や靴の質は間違いなく一級品だった。
そして、尾行のスペシャリストであるベルを撒くほどの手練れ。
「ふふ、面白いわねぇ。あの慌てぶりや、こちらの常識を知らないような振る舞い……すべて『演技』だったのかしら?」
「どうされますか? ギルドの権限を使って、市内の宿を徹底的に洗わせますが」
「いいえ。深追いは厳禁よ」
マリリンは扇子をぱちんと閉じた。
「もし彼がどこか遠い大国の密偵や、隠れ住む高位の魔術師の弟子だった場合、下手に刺激するのはギルドにとって不利益だわ。……でも、個人的には興味が尽きないわね。あの不思議な魔道具、もっとじっくり見せてもらいたかったわ」
マリリンは窓の外、夕闇に包まれ始めたアラストリアの街並みを見やった。
「いいわ、泳がせておきましょう。またどこかで会える。……そんな気がするのよね」
異世界の商人の鋭い視線が、まだ見ぬ「金の卵」を追っていた。




