9.幽霊の仮説。
「ただいま〜。」
健人は、フラつきながら、誰もいない部屋に向かって声をかける。
「おかえりなさい。」
「・・・はい!?」
健人は、誰かの返事に驚きながら部屋を見た。
ソファーに誰かが座っている。
健人は、暗闇の中、目を凝らした。
「詩音・・・か?」
「そうだよ。」
「久しぶりに現れたな。」
健人は、無意識に部屋の照明のスイッチに手を伸ばしている事に気づき、手を引っ込める。
「危ねえ〜、また消えさせてしまうとこだったわ。」
健人は、暗闇の中、壁をつたいながら、部屋にたどり着いた。
目を凝らして詩音を見ると、泣いている様だ。
「・・・詩音。」
「何?」
健人は、詩音に話しかけながら、隣りに座った。
「何で泣いてんだ?」
「・・・分からない。何故か涙がこぼれるの。」
「そっか。」
・・・詩音の幽霊。
何で今日現れたんだ?
・・・今日、詩音に起こった出来事は・・・。
健人は、詩音を見つめながら、思い出す。
「ま、まさか!あの女のせいか?」
「あの女?」
詩音の幽霊は不思議そうにしている。
「母親だよ。」
「ゔ〜。」
健人が、母親と言うワードを口にすると、詩音の幽霊は苦しそうに胸元を押さえた。
「だ、大丈夫か?」
健人は焦って背中をさすろうとするが、手がすり抜けた。
「ご、ごめん。どうしよう!」
健人はパニックになり、スマホを手に取ると、詩音に電話をかける。
「詩音、もう寝たのか?」
なかなか出ない詩音に、焦りはピークに達する。
もしもし〜?もう私の声が聞きたくなった〜?
「あっ!ごめん詩音!詩音の幽霊が苦しそうで!・・・あれっ?」
健人の目の前から詩音の幽霊は消えていた。
何〜?困った時の幽霊ネタ〜?
別に普通に電話してくれても大丈夫だよ〜?
詩音は、少し寝ぼけている様だ。
「ブツブツ、ブツブツ、ブツブツ。」
お〜ぃ。健人く〜ん。何ブツブツ言ってんの?
母親の現れた日に、詩音の幽霊は現れるとしたら・・・
健人は、詩音を無視して考え込んでいる。
健人く〜ん。電話くれたのは嬉しいけど、私、明日早いから寝ていい?
「あー!ごめん!待って!
詩音の母親が来たのって、俺が杏子さんと、詩音の家に初めて行った日と、その前の日か?」
えっ?何で知ってんの?
健人が詩音の母親の来た日を言い当てた事に、詩音は驚いて目を覚ました様だ。
「幽霊が現れた日なんだ!詩音の幽霊が!しかも、今!幽霊は、詩音が目を覚ましたら消えたんだ!」
それはどういう事?
「それだけ・・・だ。ちょっと考える!」
健人は疲れも吹っ飛んだ様子で、興奮している。
そっ。何か分かったら教えてね。
「うん。寝れてたのにごめん。」
健人は我に返って、申し訳ない気持ちがこみ上げた。
「大丈夫。健人くんのお陰で、今日は眠れそうです〜。」
詩音は、また睡魔に襲われ始めた様だ。
「そっか。おやすみ。」
おやすみなさ〜い。
電話をきると、暗闇の中、健人は考えこんだ。
「・・・いかん!明日は授業にバイト、ハードな1日だ、考えるのは明日にしよう。」
健人は、倒れ込む様にソファーに横になり、そのまま眠った。
次の日、健人は休み時間や、バイトの移動時間に、幽霊について調べていた。
「幽霊はいる?信じられないが・・・そもそも、幽霊なんて・・・でも、3回も見てるんだ、否定のしようがない。」
健人は、プラズマがどうとか、科学的な面からの調査ばかりで、特に幽霊調査に進展は無かった。
そして、バイト中も幽霊の事が頭から離れず、ブツブツと言いながら、家事代行の作業を進める。
「健人くん、どうしたんだい?」
気のいい三十代後半のお客さんが、ダイニングテーブルでパソコンをいじりながら、健人を見ている。
「あ、すいません。ブツブツうるさかったですね。」
「いや、いいんだが、何か悩み事かい?」
「・・・その、幽霊っていると思いますか?」
「あはははっ。幽霊か。健人くんの口からまさか幽霊という単語が出るとは思わなかったよ。」
「あはは。やっぱりいないですよね。」
「まぁ、絶対いないとは言えないんじゃないかな?見えている物が全てだとは限らないしね。」
「ですかね。」
「幽霊見たのかい?」
「えぇ。3回見たので、もう信じるしかないと言いますか。」
少し恥ずかしそうに、後頭部に手を当てながら、健人はいう。
「それはすごいね!どんな幽霊?」
「知人の幽霊なんですよ。」
カチカチ。
「成る程。」
お客さんは、パソコンで検索して、検索結果に目を通している。
「いや〜、健人くんが嘘をつくとは思えないし、本当にいるのかもね〜。
ネット情報だと、生きている人の幽霊は、現れる場所に関係があるとか書いてあるね〜。強い思いとか、幽体離脱とか・・・なかなか興味深い。」
「あーーー!!!!」
健人は叫ぶ。
「ど、どうしたんだい?」
健人の叫び声にお客さんは驚いている。
「繋がりました!ありがとうございます!」
健人は、興奮した様子だ。
「解決したなら良かったよ。」
「はい!騒がしくしてすいません。
作業、完了しました!」
「そっか。」
お客さんは立ち上がり、部屋を確認して回り、冷蔵庫を開けた。
「いや〜相変わらず完璧な上に、美味そうな料理だ!」
「あ、ありがとうございます!」
「それでは失礼します!」
「ありがとう、また頼むよ。」
「はい!よろしくお願いします!」
健人は、マンションのエントランスを出ると、すぐにスマホを取り、詩音に電話をかけた。
ただいま電波の届かない所にいるか電源が入っていないため・・・
「まだ仕事中か。」
健人は、早く伝えたい、そう思いながら帰路についた。
コツコツコツ。
健人は、家に戻ると、スマホをチラチラ見ながら、シャーペンを時折コツコツしながら、勉強に励んでいた。
「あーー!!集中できん!詩音はこんな時間まで働いてんのか!働きすぎだー!」
健人は、早く話したいと思いながら、詩音の事を心配している。
「ダメだ!詩音も頑張ってんだ!俺も頑張らんと!」
パチン。
健人は、頬を叩くと、集中力を取り戻した。
カチカチカチカチ。
シャカシャカ。
時計の音と字を書くシャーペンの音だけが鳴り響く。
「あー!目標達成!」
健人は、眠気も限界にきていた。
「もしかすると、詩音、もう疲れ果てて寝てるのかもな。」
健人は、諦めてベッドに横になると、眠りについた。
ブー、ブー、ブー。
「う、う〜ん。」
寝ぼけた健人は、目覚ましが鳴ったのかと、スマホに手を伸ばす。
「う〜。まだ5時じゃんか・・・ん?」
スマホの画面を良く見ると詩音からの着信だった。
「もしもし〜。」
健人くん!ごめん!昨日、疲れ過ぎて、スマホの電源入れるの忘れたまま寝ちゃった!朝早くて悪いと思ったんだけど、声聞きたくて!
「あ、うん。俺も電話待って・・・」
もぅ!起きてよー!
「う〜ん。今度、時間があったら家にきて欲しいんだ。」
えっ?行きたい!
「うん。じゃぁ、また来れる日・・・教え・・・グ〜グ〜グ〜。」
寝たか。チェ〜。ごめんね、朝早く。
いってきます。
プープー。
詩音は、朝から健人の声を聞けて、嬉しそうに電話をきった。
「やった!次いつ休めるかなー!?」
詩音は休みを近々取れるように、マネージャーに交渉しようと心に決めた。




