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約束〜父親の会社が倒産したので家事代行のバイトを始めたら、アイドルとお近づきになりました。  作者: 蓮太郎


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7/19

7.会えない時間は。

「お騒がせして、申し訳ありません。」

カチカチカチカチ。

テレビの向こう、シャッター音が鳴り響く記者会見の様子を健人はバイトの休憩室で眺めていた。


「俺のせいで・・・忙しいだろうに、余計な仕事を増やしてしまった。不甲斐ない。」

健人は、詩音の疲れた顔をテレビ越しに見ながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


詩音の事務所は、ありのまま、家事代行の会社の人に案内を頼み、お世話になっていた杏子のお見舞いに行ったと公表した。

もちろん、男である健人が、詩音の家の家事代行をしているのは伏せられたが。


健人と詩音の写真を撮ったのは、お金目当ての素人だった事もあり、しばらくは詩音のマンションをはっていた記者らしき人達も、何も無いと分かったのだろう、1ヶ月も経つ頃には、いなくなっていた。

ワイドショーで取り上げられる事もなくなり、熱愛はデマ報道であったと、世間の認識は落ち着いていった。


「おはようございます!」

健人は、今日もやる気満々で、会社のドアを開けた。

「おー!健人くん!今日の予定変更ね!」

店長がご機嫌で健人に近いてくる。


「えっ?はい。でも、今日は指名の現場じゃ?」


「先方には、急用がはいったと伝えたよ。健人くんがいいらしいから、明日にしてもらった。」


「そ、そうですか。

で、今日はどこに行けば?」


「詩音ちゃんのとこだ!」

店長はニヤニヤしている。


「えっ!?大丈夫でしょうか?」

健人は心配そうにする。


「あぁ、まぁ、心配ではあるが、事務所の判断だそうだ。」


「そうですか。それなら。」

健人は、少しドキドキとしている心臓に気付いて、胸元を押さえる。


・・・俺、何で?緊張?罪悪感とかかな?

健人は、胸の高鳴りの意味が分からず、少し困惑した。


「先方には、迷惑もかけてしまったし、最優先案件だ!頼むよ、健人くん!」

店長は、健人の肩を軽く叩くと、店長室に入って行った。


「よし!今日も頑張るぞ!」

健人は、切り替えようとばかりに、頬ををパチンと叩くと、準備を整え、詩音の家へと向かった。



ピンポーン。

ウィーン。


健人がエントランスのインターホンを押すと、応答無く、自動ドアが開いた。


「警戒してるのかな?」

健人は、小さく呟くと、詩音の部屋へ向かい、インターホンを押す。

またまた、応答無く、ドアのガキが自動で開く音がする。


「入っていいのか?」

健人は、恐る恐る、ドアを開けた。

ガサガサッ。

何かが崩れる音がする。

「・・・詩音・・・やったな〜。」

崩れ落ちるようにに部屋から溢れ出してきたのは、ゴミ袋だった。

「お〜ぃ。詩音?」

健人は、崩れたゴミを部屋に押し込みながら玄関に入り、ドアを閉めた。

ガサガサ、ガサガサ。


「健人く〜ん!遅いよ〜!」

待ちかねた様子の詩音は、ゴミを避けながら、玄関に向かってくる。

「キャッ!」

詩音は、ゴミに足を取られて倒れそうになった。

「危ない!」

健人は、抱きかかえる様に、詩音を受け止めた。

「大丈夫か?」

健人は、また突き飛ばれる覚悟で、詩音に呼びかけた。

「大丈夫じゃないよ〜。」

詩音は、泣きそうな声で健人にしがみつく様に、抱きしめる。


「お、おぃ、詩音。」

健人は、顔を赤くして、天井を見上げた。


「だって〜。待ってたんだもん!やっと救世主が来てくれた。」

詩音は、健人の胸に顔を埋める。


「分かったから、とりあえず離れろ。」

健人は、焦った様子で、詩音の両肩を持ち、貼り付いた詩音を離す。


「む〜。スーパーアイドルが抱きついてるんだよ〜?」

詩音は不服そうに健人を睨んだ。


「あのな〜、俺、男だぞ?

今、二人きりなんだから、少しは考えてくれよ。」

健人も不服そうに詩音を見つめる。


健人に見つめられ、顔を赤くした詩音は、髪の毛を指でクルクルしながら見つめ返した。

「そ、それは・・・私が、襲っちゃいそうなくらい魅力的って事?」


「あぁ、そうだよ。」

健人は、今度は廊下を見る様に目を反らした。


「そ、そう。」

何やら満足気な詩音は、健人に背を向けた。

「じゃぁ、よろしく。」


「はぃはぃ。頑張りますよ〜。

こりゃあ、残業だな。」

健人は、廊下を見渡し、肩を落とす。


・・・あぁ、リビングはどんな状態なんだろうか。

考えるだけで恐ろしい仕事量だな。


健人は、覚悟を決め、片付けを始めた。


「ねぇ。健人くん。」


「何だ?」


「ごめんね。私・・・頑張ろうと思ってたんだよ?でも、ダメだった。」


「仕方ないよ。忙し上に、記者会見とか色々な仕事まで増えたんだし。俺も責任感じてたから、気にするな。

・・・今日、これて良かった。

ずっと、詩音の事が心配だったから。」


「ありがとう。

でも、健人くんは悪くないから、責任とか感じないでね。」


「ありがとう。

・・・そう言えばさ、言いたい事って何だったんだ?」


「・・・もう、諦めた。」


「何を?」


「そ、その・・・下着。

杏子さんのお見舞いに行った日、帰ったらお風呂のに大量の下着が干してあって、びっくりした。

・・・でも、もぅ、無理。

クタクタで、毎日泣きそうで・・・もぅ何でもいいから、お願い。」

弱った詩音は、涙目で訴えてくる。


「なら杏子さん呼べば良かったんじゃ?」

健人は、不思議そうに言った。


「そ、その・・・そこを我慢するとしても・・・その・・・来て欲しいと思ったの。健人くんに。」


「ん?まぁ、分かったよ。」

不思議そうに答えると、

心配そうに、健人は詩音を見つめる。

「詩音、寝たら?」


「もう少しお話したい。」


「いいけど、大丈夫なのか?休める時に休まないと。」


「ふふっ。杏子さんみたい。」

詩音は力無く笑う。


「そこはお母さんじゃないんだな。」


「お母さんか・・・。」

意味ありげに詩音は俯く。


「と言うか、今の詩音の事見てたら、誰でもそう言うだろ。いいから言う事を聞け!」


「キャッ!」

健人は、聞き分けの無い子供にする様に、詩音をお姫様抱っこすると、寝室に運ぶ。

「ちょ、ちょっと!寝るから!降ろしてー!」


「おっ、おい!暴れるな!」

詩音がバタバタと暴れると、健人はバランスを崩した。


ドスッ。

詩音はベッドに勢い良く落ち、健人は、ギリギリ腕で耐えたが、詩音に覆いかぶさる様に倒れた。


「ご、ごめん!怪我は無い?」

健人は焦っている。

「あはははっ!大丈夫!」

詩音は、楽しそうに笑い終わると、健人の首に腕を回した。

「おい!詩音!?」

健人は焦っている。

「ねぇ、終わったら添い寝してよ?」


「はぁーー!!!」

健人は驚いて体を起こす。

「あはははっ!冗談だよー!本気にしたー?」

詩音は悪戯に笑う。


「あのなー!さっき言ったとこだろ!」

健人は不機嫌そうにそっぽを向く。


「ねぇ。」


「なんだよ?」


「重い。」

健人は、詩音に馬乗りになっていた。


「あっ、悪い!」

健人は焦ってベッドから降りる。

「はぁ・・・バカなのかよ。いいから、少し寝ろ。」


「うん。誰でもいいわけじゃないんだけど・・・少し疲れた。だから、添い寝して欲しかったのは本当なんだ。」


「えっ?」


「気にしないで!おやすみなさい。」

詩音は、布団を被り顔を隠した。


「頑張って、早く終われたら、してやる。」


「えっ?」

詩音は、顔まで被った布団を避けて顔を出した。

嬉しそうな表情をしている。


「その気持ち、分からんでもないし、俺でいいなら・・・まぁ、この状況だし、約束はできんが。」


「あぁーぁ。もう少し頑張って、片付けておけば良かった。じゃぁ・・・頑張ってね。」

詩音は少し残念そうに目を閉じた。


健人は、寝室のドアを閉めると、必死に頑張った。



「ふぅ。何とか終わった。

残業無しでここまで出来るなんて、我ながら、スーパー家政婦の仲間入りか?」

健人は、満足気に詩音の寝室のドアを叩く。

「起きてるか?」


「うん。入ってきて。」

健人は、ドアを開け、詩音を見つめる。

「寝れたか?」


「少し。でも、目が冷めた。最近ね、眠れないの。」

布団を目の下辺りまで被った詩音は、悲しそうな様子に見える。


「心配事でもあるのか?」


「多分、ストレス的な物だと思う。」


「そうか。」

心配そうにしながらも、健人は立ちつくしている。


「健人くん。」


「何だ?」


「してくれるんでしょ?」


「えっ?」


「えっ?って。さっき言ったよね?

残業申請してもいいから、私が眠るまで横にいて欲しい。」


「本気か?」


「はい。」


健人は、仕方無さそうに、ベッドの横に膝をついてしゃがみ込む。


「早くきてよ。あっ、その、服脱いで。」


「はい?!」

健人は、体を守る様に両腕を体の前で組む。


「あはははっ!取って食べたりしたいわよ。」


「いや、それは男の俺の台詞なんだが?何で脱ぐんだよ?」


「だって、きっと、温かいし、安心できそう。」


「・・・上だけだぞ。」

健人は、背を向ける詩音を見て、照れながら服を脱ぐと、布団の中に入り、詩音を優しく抱きしめた。

「こ、これでいいのか?」


「うん・・・やっぱり。すごい落ち着くよ。」


「なぁ、詩音さんや。」 


「なんでしょうか?」


「服、何で脱いでんの?」


「ふふっ。気勢を上げる健人さんを期待しておりましたが、以外と落ち着いてらっしゃいますね。」


「はぁ。俺、ちょっとマズイかも。」


「疲れて眠るのも悪く無いかもね。」

詩音は、体をクルリと回し、健人の胸に顔を押しつけた。

「冗談じゃすまないぞ。

大人しく早く寝ろ。」


「うん。」


健人は、詩音を抱きしめたまま、ただ耐えた。


スー、スー、スー。

数分後、詩音の寝息が聞こえる。


「疲れてたんだろうな。

眠れて良かった。」

健人は、詩音の上に回した方の手で、頭を優しく撫でた。

「お疲れ様。」


・・・しまったーーー!!!

腕が抜けねーーー!!!


詩音は、健人の腕の上に頭を置いて眠り、

詩音の片腕は、しっかりと健人をホールドしている。


・・・せっかく眠れたんだ。

起こしたら可哀想だよな。

仕方無い。

しばらくこのままやり過ごすか。


健人は、気持ち良さそに眠る詩音をしばらく見つめていたが、全力で頑張った疲れからか、まぶたが重くなって、目を閉じた。



「う、う〜ん。」

健人は、意識が放浪とする中、目をゆっくりと開ける。


「おはよ。」


「・・・?えっ?詩音?

えっ?!俺寝たのか!?」

我に返った健人は、焦った表情で目を覚ました。


「健人くんのおかげで、久しぶりにちゃんと寝た気がする。」

詩音は、嬉しそうに、健人を上目遣いで見つめる。


「良かったよ。

・・・と、言うか、今何時?」


「夜の9時だね〜。」


「やっべーー!!!」

健人は、布団と共に飛び起きた。


「ちょっと!」

詩音は、焦って体を隠そうとする。

「あっ!ごめん!」

健人は、裸の詩音を見てパニックになり、自分の手で詩音の体を隠す。


「ちょっと!どこ触ってんのよ!」

詩音は、顔を赤くする。


健人は、自分の手が、詩音の胸を隠しているという事は、触っているという事に気づく。


「あーーー!!!ごめん!!!」

健人はパニックになり、部屋を飛び出した。


「バカッ。」

詩音は、小さく呟くと、服を着て、寝室のドアを開けた。

健人は、怯えた子犬の様に、ドアに背を向けて正座している。

「ふふっ。反省してるみたいね。」

詩音は、健人の背中に、寝室に脱ぎ捨てられていた健人のシャツを掛けた。


「はい。反省致しました。」

健人は、正座のまま背中を丸めている。


「健人くん。」


「何でしょう?」


「ありがとう。」


「う、うん。」


「会社に電話しなくていいの?」


「あーー!!!」

健人は、焦って、カバンからスマホを取り出した。

「着信5件!ヤバい。」

すぐに連絡しようとする健人の手に、詩音は手を重ねる。

「えっ?何?」

健人は、ようやく詩音の顔を見た。


「言い訳。」


「ん?」


「言い訳考えないと。私と寝てたなんていったら、健人くん、もう来れないでしょ?」


「・・・また、来ていいの?あんなことしたのに?」

健人は、詩音が怒っているんだろうと思っている様だ。


「別に減るものじゃないし、もう来るなってくらい怒るくらいなら、添い寝とか頼まないよ。」


「お、男前。」


「あはははっ!何それ〜。

理由は、私が急用で出ないといけないから、家で待機して、宅配を受け取る様に頼まれて、気づいたら寝てたとかで良くない?」


「宅配ボックスあるよな?」


「荷物が大きいから、入らないとか言えば?」


「あ〜。賢いな。」


「ふふっ。さっ!じゃぁ電話!」


「うん。」


健人は、スマホを手に握ると、会社に電話をかけた。

少し手が震えている。


健人くん!何かあったのか!?

待ち構えていたように電話に出たのは店長だった。


「あっ!店長!すいません!その、荷物が大きくくくて!」


ん?何の話だ?


「ふふっ。」

テンパっている健人を見て、詩音は笑うのを堪えている。


「あっ、すいません、その!」

「あーもう!代わって!」


「すいません、詩音です!」


あー、詩音ちゃん、いつもごひいきにしてもらってありがとうございます。

・・・健人くんは、まだ仕事中ですか?


「いぇ、私が急用で出ないといけなくなったので、宅配ボックスに入らない大きい荷物の受け取りを頼んだんです。」


そうでしたか。


「健人くん、寝てしまったみたいで、怒られるーって、テンパってるんですよ〜!怒らないであげてくださいね。」


まぁ、ほどほどにしておきますよーワハハハ!


店長は安堵からか、ご機嫌の様だ。


「荷物も無事受け取ってくれたんで、もう少ししたらこちらを出ますね〜。

なので、残業は請求して下さいね。」


分かりました。

わざわざありがとうございます!

だだ、残業代はサービスしておきます。

色々ご迷惑をおかけしましたしね。


「あら、ありがとうございます。

これからもお願いします!」


こちらこそ!

ありがとうございます!


プープー。


「はい。」

詩音は、電話をきると、ニコッと笑いながら、健人にスマホを返した。


「あ、ありがとう。」


「真面目すぎ。嘘の一つも付けないなんて〜。」


「まぁ、そう言う所好きかも。」

詩音は小さく呟く。


「えっ?なんて?」


「何でもない!」

詩音は、照れて表情で俯いた。


詩音と健人は、しばらく会えなかった時間、お互いを気にしていた。

久しぶりに会えた二人の距離は、急接近したのだった。

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