6.家事代行は自粛。
「おはようございます!」
健人は、次の日も授業が無いのでシフトを入れていた。
会社のドアを開けると、何やらガヤガヤと騒がしい。
「健人くーん!!大変だ!大変だ!」
「店長、今度はどうされました?」
「あれだよ!あれ!」
店長は、休憩所に置かれたテレビを指さす。
「ん?・・・はぁーーー!!!!」
健人は驚愕の叫びを上げる。
テレビのワイドショーでは、スーパーアイドル中條詩音。熱愛報道!
の見出しが大きく標示され、コメンテーターが興奮気味に話ている。
それだけなら健人は温かく見守れただろう。
ただ、証拠の写真と言うのが問題だった。
「こ、こ、こ、この、男の方、健人くんだよね?」
店長は、僅かな望みにすがるように、健人に詰め寄る。
「顔にモザイクはかかっていますが、これは・・・。」
「これは?」
店長は涙目だ。
「俺ですね。」
「あぁーーー!!!!終わった。終わったーーーー!!!!」
店長は、涙ながらに叫ぶ。
「て、店長、何で終わりなんですか?」
「うちみたいな弱小企業、芸能事務所に目を付けられたら終わりだよ!
大事な人材に熱愛報道・・・賠償金・・・億?・・・兆か?」
店長はフラフラしている。
「待って下さいよ店長!熱愛なんか無いですし、俺達は、杏子さんのお見舞いに行っただけなんですよ!」
「そうか・・・その線で交渉するしかないな。」
プルプルプルプル。
「わぁ!」
突然会社の電話が鳴り、店長がビクつく。
他の従業員が電話を取り対応している。
「店長、詩音ちゃんの事務所からです。」
「わぁーーー!!おわたーー!!!」
店長は床に崩れ、小さくなって震えている。
「店長、早く出て下さい。」
「はいー。」
店長は、恐る恐る受話器をとる。
「お、お電話変わりました。店長をさせて頂いております」
「はい。」
「はい。」
店長は、少し安堵した様子で、受話器を置いた。
「あ〜。首が繋がった〜。」
店長は、横に置かれたイスに座った。
「店長、すいません。俺のせいで。」
健人は、疲れ果てた様子の店長に申し訳無さそうに声をかけた。
「いや、今回のは仕方ない。まぁ、向こうも詩音ちゃんには事情を確認済の様で、とりあえず、ほとぼりが冷めるまで、1ヶ月程は家事代行をお休みしたいと言う電話だったよ。」
「そうですか。杏子さんも復帰しないし、俺が行くとまた写真撮られそうだし。心配ですが、仕方無いですね。」
「そ、それなんだが。」
「はい?」
「どうやら、1ヶ月後に様子を見て、家事代行を再会したいそうなんだが、詩音ちゃんは、杏子さんではなく、健人くんを指定して来てるんだよ。」
「えっ?俺?」
「なんか、言いたい事があるとか。
仕事もできるし、ご飯も美味しかったから、復帰初日は健人くんに来て欲しいそうだ。」
「そ、そうですか。」
言いたい事・・・・あっ。下着の事か?怒ってる?
「ははっ。」
健人は、プンプン怒る詩音を想像して笑った。
「よし!色々騒いでしまったが、仕事、仕事!みんな今日も頼むよー!」
「はぁーい!」
従業員達は、それぞれの現場へと出発していく。
健人も、詩音を心配しながらも、切り替えて現場に向かった。
詩音の部屋を経験した健人は、実力がぐんぐんと上がり、この短期間で他のお客さんからも指名される程に成長していた。
独り立ちした健人は、今日も指名されたお客さんに感謝され、帰路についていた。
「あ〜今日も働いたな。」
独り言をいいながら健人は下を向きながらポツポツと歩く。
「健人くん?」
誰かに呼ばれて健人が、顔を上げると、パーカーのフードわーかぶり、サングラスにマスクという怪しい姿で人が立っていた。
「か、カツアゲ?」
健人は、身構えた。
「あはははっ。私よ、私。」
怪しい人物は、サングラスを少しずらして目を見せる様に、健人を見つめる。
「あぁ!詩音か!」
「しっ!」
詩音は辺りを気にしている。
「こんな時間に何してんの?暗いし危ないぞ?」
健人は心配そうにする。
「私、もうすぐ成人よ?大丈夫よ。
健人くんに来てもらえなくなるから、洗濯洗剤とか色々買いに行ってたの。
ためるとどうしていいか分からなくなるから、こまめにがんばろうと思って。」
「あぁ。なんかごめん。」
「私も。ちゃんと警戒するべきだった。」
「暗いし、送ろうか?荷物も重そうだし。」
「いや、いい。また写真撮られたら大変だから。今日はもう行くね。」
「そうだな。気をつけて。」
「うん。ありがとう。」
健人は、送りたかったなと思いながらも、詩音の後ろ姿を見送った。
「あれ?何で俺、送りたかったと?」
小さく呟くと、健人は、自宅へと歩みを進めた。
「あっ、言いたい事って何だったんだろ?」
ポツポツと歩きながら、健人は呟く。
健人は、詩音ともっと話したい、一緒にいたい、そう思う様になっていた。




