5.お見舞い。
ガラガラ。
「杏子さ〜ん!」
病室の戸をあけるなり、詩音は叫ぶ。
「あっ。」
詩音は、部屋には杏子が一人、ベッドに寝ているのを想像していたが、病室には、4人、患者がいた。
病室の患者は、一斉に詩音を見た。
「えっ?詩音ちゃん?」
病室には、若い子はいなかったものの、当然、詩音の事をみんな知っている様だ。
「あっ、騒がしくしてすいません。」
詩音は、申し訳無さそうに、窓際のベッドに座る杏子のところへ進む。
健人も、詩音の後ろを申し訳無さそうについて行った。
「詩音ちゃん、わざわざ来てくれたんだ。ありがとう。健人くんも、ありがとう。でも、お休みは休まないとダメよ?」
「うん、でも心配で眠れないかもしれないし。」
詩音は、少し照れた様に杏子に言う。
「寝ぼけて服を脱ぐくらいには、熟睡しておられましたが?」
健人は、意地悪く言う。
「黙ってて。」
詩音は、頬を膨らませて、健人を睨んだ。
「ちゃんと寝たし、大丈夫だよ!
それより大丈夫?骨折したの?」
「大丈夫。骨折はしたけど、見た通り元気よ!」
杏子は、詩音に微笑んだ。
「そっか、よかった。」
詩音は安心した表情で胸をなで下ろした。
「ところでなんだけど、服を脱ぐくらいにとは?」
杏子は、健人の発言を聞き逃さず、興味津々の様だ。
「そ、それは・・・いつもみたいに、寝てる間に服脱いでて、起こしにきた健人くんに・・・。」
詩音は、結末を濁す。
「あら〜!なんだか、ラブコメみたいね。恋が始まったりして〜。」
杏子は楽しそうに笑う。
「・・・。」
詩音と健人は、見つめ合い、何も言わずに目をお互い反らした。
「ふふっ。」
杏子は、冗談で言ったつもりだったが、少し意識し合っている様に見える二人を見て、微笑ましいなと、笑った。
「今日はありがとうね。二人共、早く帰って休みなさい。」
杏子は、多忙な二人を心配した様子で言う。
「まだ来たところなんですけど〜。」
詩音は不満気に言う。
「いいから、早く帰って、しっかり休むの。」
「はぁ〜い。」
詩音は少し寂しそうに立ち上がった。
「じゃぁ、お大事に。」
健人も立ち上がりながら、杏子に言う。
「早く治して、復帰するから!」
「いえ、無理せず、ゆっくり休んで下さい。
俺は今日、自信がつきましたから。」
気を使いそうな杏子に、健人は誇らしげに言う。
「なによ。それって、私の家をこなせたから、他は難なく的な事?」
詩音は不満気に健人を睨む。
「まぁ、そんなとこだ。
でも、俺は詩音を応援している。
片付けは任せろ!」
「はいはい。ありがとう。」
皮肉を言いながらも楽しそうな二人を見て、杏子は微笑んだ。
「じゃあ、杏子さん、また!」
詩音と健人は、病室を後にした。
病院から出ると、外は暗くなっていた。
「もう暗いね。」
「そうだな。家の前まで送るよ。」
「あら、ありがとう。」
満更でもなさそうに、詩音は笑った。
夜道を二人はゆっくりと歩く。
「なぁ、幽霊っていると思う?」
「何それ〜?
あっ!分かった。
私を怖がらせてくっついて欲しいんでしょ?」
詩音は横目で健人を睨んだ。
「違うわ!幽霊、俺の部屋に来るんだよ。」
真面目な顔で健人は言う。
「あはははっ!何?目的が分からない!それ、もしかして、受け狙い?」
「違う・・・もういいよ。」
健人はスネた様にそっぽを向いた。
「えー!何でスネてんのよ〜?」
詩音は、健人の顔を覗き込んだ。
「別に、スネてない。真面目な話なんだよ。」
「・・・ホントに?」
「うん。幽霊はいる。しかも詩音と同じ顔。」
「・・・。」
この人、何が目的?
私と同じ顔の幽霊って。
「信じてないだろ〜。だからもういい。
もしかすると、何か分かるかと思っただけだから。」
「・・・。」
嘘ついて無さそうだけど・・・幽霊って。
まさか、ホントに?
詩音は、返答に困りながら、黙って歩く。
「じゃあ今度見せてもらおうかしら?」
詩音は、思いついた様に言う。
「そうだな。俺もまだ2回しか会って無いんだけど。」
「そうなんだ。お泊りセットいるかしら?」
「えっ?泊まるの?」
「冗談よ。」
詩音はまた、健人を睨む。
「期待した?」
「何の?」
「私が泊まりに来るかもって。」
「あ〜。まぁ、泊まりに来てくれたら嬉しいけど。」
健人は平然と答える。
「えっ?」
詩音は返答に困り、また黙った。
「楽しそうだし。お泊り会。
俺さ、小さい頃から勉強ばっかしてたから、友達いないし、お泊りとかした事ないんだ。」
「ねぇ、年頃の男女がお泊り会するって、健人くんが今想像してる感じじゃないと思いますよ?」
「・・・なるほど。」
健人は、少し顔を赤くした。
「えー!何?今、何想像した?」
詩音は、悪戯に笑いながら健人の顔を覗き込んだ。
「いや!いい!見るなー!」
健人は照れている。
「あはははっ!可愛いー!」
詩音は楽しそうに笑う。
「・・・なんかいいな〜。」
健人は夜空を見上げて突然真面目に言った。
「何が?」
詩音は、きょとんとしている。
「楽しい。人と関わるのが楽しい。」
「学校で話したりしないの?」
「そうだな。一人を除いて、友達と言えるやつもいないし、人付き合いとか、恋愛とか、勉強の邪魔になりそうなものは、全部壁を作って妨げてきたから。」
「重〜い。暗〜い。」
詩音は冗談めかしく笑った。
「そうだな。でも、詩音と出会えて良かった。バイト頑張るから、これからもよろしくな!」
健人は、真っ直ぐ詩音を見つめた。
「うん。こちらこそ。頼りにしています。」
少し照れくさそうに、髪を指でクルクルしながら、詩音は俯いた。
「じゃぁ、また来週!」
気づけば詩音の家の前に着いていた。
健人は、笑顔で手を振る。
「うん。また。」
詩音も小さく手を振りながら、マンションへ入って行った。
「何だろ?健人くんといると、すごい楽しい。」
詩音は、玄関のドアを閉めると、小さく呟いた。
「さっ!明日も仕事だし、早く寝ないと。」
詩音は手を洗おうと、洗面所に向かった。
「ギャーーー!!!」
洗面所に入ると、風呂を見て驚愕した。
風呂の物干しには、下着が綺麗に並べて干されていた。
「あ!あいつー!やりやがったなー!」
黙々と下着を干す健人を想像して、詩音は両手で顔を覆いしゃがみ込んだ。




