3.不思議体験。
「ただいま〜。」
健人は、疲れた体を引きずる様に、誰もいない暗い部屋に帰宅した。
廊下からリビング入るドアを開けると、ソファーに誰かが座っている。
「えっ?!」
健人は身構える。
「ど、泥棒か!」
健人は叫ぶ。
ソファーに座る人影は、ゆっくりと振り向いた。
健人が目を凝らすと、暗闇に目が慣れてきたのか、人影の顔がぼんやりと見えた。
「なんだ、詩音か。」
健人は胸をなで下ろした。
が、「いやいや!なんで?」
たちまち、健人は驚く。
「なんで?なんで、私の名前知ってるの?」
「え?さっき会ってたし、君の部屋、片付けてただろ?」
健人は不思議そうにしながら、詩音に近づく。
「ちょっと!近づくの禁止!」
詩音は、健人を警戒している様子で、近づく健人を見ながら、ソファーから立ち上がる。
「キャッ!」
詩音は、足をからませて、健人の方に倒れ込む。
「危ない!」
健人は、詩音を受け止めようと手を伸ばした。
スー。
詩音は、健人の手をすり抜け、床に倒れた。
「え!?」
健人は、驚きながらも悟る。
「あっ!昨日の幽霊の方か。」
詩音は、立ち上がりながら不満気に健人を見つめる。
「まったく。いきなり近いてこないでよ。」
「いや、疲れたし、ソファーに座りたいんだよ。と、言うか、ふふっ。」
「何笑ってんのよ?」
「いや、ドジな幽霊って。」
「ムカつくー!」
「悪い、悪い。」
「まぁいいわ。ところで、幽霊の方とは?」
「・・・。」
「いや、黙るな。」
詩音は、不快そうに健人を見る。
「いや、俺も理解が追いついてない。
君・・・も、詩音なのか?」
「えぇ、詩音よ?も(・)とは?」
「君にそっくりな人に今日会った。
その子も詩音だ。」
「あら、珍しい事もあるのね。」
「そうだな。色々と整理したい。
君、いや、詩音は、何でここに?
あと、幽霊で間違い無いのか?
あと、」
「待って!一つづつ!」
「あぁ、ごめん。興奮した。」
「それは私に?」
「・・・まぁ、ある意味?」
「はぃはぃ。冗談も通じない堅物のようね。」
「失礼な奴だ。」
「む〜。」
詩音は、不満気に健人を睨む。
「で?とりあえず、詩音は幽霊?」
「分からない。」
「分からんのかい!」
「おぉ!突っ込んできた。」
「茶化すなよ。」
「本当に分からない。私が幽霊なのか、なんなのか。気づくと、いつもここにいる。
今まで、色々な人がここに住んだけど、みんな私が現れると、怖がってすぐに出ていった。
私に話しかけてきたのはあなただけよ?しかも抱きついてくるとか。」
「そうか。あ、俺は芦田健人。健人でいいよ。」
「都合の悪いところは流すのね。
まぁいいわ。
じゃぁ、健人くん。健人くんは、私が怖くないの?」
「そうだな、声だけのときは怖かった。目をあけて詩音を見たら、可愛いから怖くなくなった。」
「口説いてる?」
「幽霊を口説く趣味は無い。」
「そっ。」
詩音は不満そうにする。
「つまり、なぜここにいるのかも、何も分からないと言う事か?」
「そう。」
詩音は、考え込む様に顔を伏せた。
「と、言うか。驚きすぎて電気付けるの忘れてたわ〜。」
健人は、立ち上がりながら言うと、照明のスイッチに手を伸ばした。
「待って!」
カチッ。
詩音の叫ぶ声と共に、照明が部屋を照らした。
「えっ?」
健人が照明をつけて振り返ると、詩音の姿が無い。
「あっ。・・・幽霊だし明るいと消えるのか?」
健人は、焦った様子でもう一度、照明を消したが、詩音がその日、現れる事は無かった。
「あ〜。もう少し話したかったな〜。」
健人は、日課の勉強をしながら、たまに詩音を思い出しては、小さく呟いた。




