約束。
詩音が旅立った後、健人は試験に合格し、コミュニケーション能力は競合と比べ若干劣ると指摘を受けたが、無事官僚職に就くことが叶った。
健人は、毎日朝早くから、夜遅くまでがむしゃらに働いた。
時差の影響もあり、詩音との連絡は、メッセージのやり取りがほとんどで、顔どころか、声を聞く事も余り無いまま、11ヶ月が過ぎていた。
「終わったー!」
今日の仕事を終え、健人が小さく叫ぶ。
「おっ、芦田、今日は早いな。仕事にもようやく慣れてきたか?」
隣りの席の先輩が、健人を労う様に言う。
「そうですね〜、まぁ、ようやく少し慣れてきました。」
「そうか〜。じゃあ来月辺りからもう一段階上げていくかな〜。」
「お手柔らかにお願いします。」
「あはははっ!まぁ、がんばれ。
終わったなら帰れよ。たまには早く休め。」
「はい!ありがとうございます。
では、失礼します!」
健人は、元気良く挨拶すると、帰路についた。
「詩音に返事しないとな。」
健人は、駅から家までを歩きながら、詩音に返事を送る。
ブーブー、ブーブー。
健人がメッセージを送ると、詩音から着信が入った。
「もしもし詩音?」
お疲れ様。お仕事終わった?
「うん、今日は久しぶりに早く終わった。もうすぐ家に着くとこだ。」
そっか。
「詩音、寝なくていいのか?そっちは夜中じゃないのか?」
大丈夫。
「寝れないのか?何かあった?」
順調だよ。
「ほんとか?」
うん。
「ならいいけど。あと1ヶ月だな。」
そうだね〜。会えるのが楽しみ。
いっぱいいちゃいちゃしようね!
「お、おぅ。」
健人は、一人照れながら夜道を歩く。
なに?照れてるの〜?
「まぁな。そんなはしたない事をすらすらと口に出せるのが不思議だ。」
え〜?何を想像したのかな?
「ゔっ。で、今日はどうしたんだ?
やけに機嫌がいいな。」
べつに〜。
早く帰ってゆっくり休んでね。
「うん。」
じゃぁ、またね〜。
「うん。おやすみ。」
おやすみなさい。
プープー。
「何だったんだ?機嫌が良すぎて恐いな。・・・久しぶりに詩音の声聞いたな。今日は、いい日だ!」
健人は、ご機嫌で自宅の玄関をあけた。
「ん?」
玄関には見慣れない靴が無造作に脱ぎ捨てられている。
「誰か来てる?いや、電気付いてないしな。なんだこの靴?」
健人は、ブツブツいいながら、脱ぎ捨てられていた靴を揃えて置いた。
ガチャ。
リビングのドアを開けると、真暗なリビングのソファーに人影が見えた。
「誰だ?」
健人は身構えた。
「おかえりなさい。」
人影は、立ち上がり、健人の方を向いた。
「幽霊?」
暗闇に目がなれると、そこに立っているのは詩音だった。
・・・詩音は海外。
なら、今俺の前にいるのは、詩音の幽霊?
健人は、無言で詩音を見つめる。
「・・・どっちだ?」
そして、恐る恐る確認する。
「どっちって?」
「幽霊?それとも本物の詩音?」
「確かめてみたら?」
詩音は、微笑みながら手を広げる。
健人は、ゆっくりと近づくと、抱きしめてみた。
「・・・すり抜けないな。
詩音なのか?」
「未だに疑ってたんだけど、私の幽霊って本当だったんだ。」
「そんな嘘、つく意味が無くないか?」
「賢い健人が、賢くない私を好きにさせるための、厳密な計算の元についた嘘。とか?」
「何でもいい!」
「キャッ!」
健人は、詩音をソファーに押し倒した。
詩音は、健人の首に腕を回して見つめる。
「ちょっと強引すぎない?」
「いっぱいいちゃいちゃするんだろ?」
「あら、さっきは照れてたのに。」
「詩音。会いたかった。」
「私も。」
二人は唇を重ね、そのまま愛し合った。
「あ〜ぁ。もっとロマンチックな再会を期待してたな〜。」
ソファーにぐったりと二人は座り、体を寄せ合っている。
詩音は、不満気だ。
「ロマンチックってどんな感じだよ?」
健人は、少し悲しそうだ。
「う〜ん。ゴロゴロカバンを引きずりながら歩く私の前に、健人くんが偶然現れて、健人くん!詩音?健人く〜ん!詩音!とか言いながらお互い駆け寄ると、そこは、イルミネーションされた木の下で、久しぶりの再会にドキドキして、しばらく見つめ合って、健人くんが私を抱きしめる。とか?」
「それならそもそも、家で待ってたらダメなんじゃ?」
「・・・確かに。」
「あはははっ!」
「ちょっと!笑わないでよ〜。」
「なぁ、詩音。」
「何?」
「またまた順番も、展開もロマンチックじゃないけどさ。」
健人は立ち上がり、寝室に行くと、小さな箱を持って戻ってきた。
「詩音。」
「はい。」
「詩音が戻って来たら渡したくて、買っておいた。」
健人は、小さな箱を開けると、中身を手に取った。
詩音の左手を取ると、それを薬指に差し込む。
「えっ?これって?」
「約束。家族になって下さい。」
健人は、詩音の前にひざまずき、真っ直ぐ見つめる。
「・・・はい、喜んで。」
詩音は、頭の中でこれまでの人生を思い返すと、涙が溢れ出す。
「お、おぃ、何で泣くんだよ!?」
健人は焦っている。
「・・・私も幸せになっていいんだって思ったら、涙が。」
「当たり前だろ?なろう!幸せに。」
「うん。でも、裸でプロポーズって。」
「あ〜。早く伝えたくて我慢できなかった。」
「ありがとう。」
詩音は、ひざまずく健人の隣りに膝をつくと、健人に抱きついた。
「幸せです。」
「俺も、幸せだ。」
健人も、詩音を抱きしめ返した。
それから月日は流れ。
ゴ〜ン、ゴ〜ン、ゴ〜ン。
二人は、健人の家族と、少人数の友人を呼び、結婚式をあげた。
「では、誓のキスを。」
健人は、詩音のベールを上げると、優しく口付けをする。
「これで家族だね。」
「あぁ。」
二人は嬉しそうに微笑み合った。
「完」




