18.旅立ち。
「たった3日でなぜこうなる。」
健人は、詩音の部屋の玄関で立ちつくしていた。
事件の後、しばらく詩音は休みを取る事になった。
健人は、時間のある時には詩音に会いに来ていた。
「ごめん。」
「まったく。」
健人は文句を言いながらも、廊下に脱ぎ散らかされた服を広い集めながら廊下を進む。
「健人くんが来てくれるから、最近家事代行頼む必要がないのよね〜。」
詩音は、笑う。
「俺はおかんか!」
「・・・。」
詩音は、思い出した様に俯く。
「悪い。」
健人は、焦って、謝った。
「・・・大丈夫。でも、助かるな〜。彼氏がお片付け上手だと。」
詩音は顔を上げ、ニコニコしているが、まだ元気がない様に見える。
「ハァ。いいんだけどさ、しばらく休みなんだから、ちょっとは片付けできる様にがんばれよ。」
健人はため息交じりに詩音を見る。
「あはは。気持ちに頭と体が追いつかないといいますか〜。感謝しています。」
「はいはい。まったく。これはもう、無償の愛と言うやつだな。」
「・・・無償の愛か。お父さんがいなくなってからは、もらえなかったから、嬉しいな。」
詩音は、力無く笑う。
「大変だったろうな。良く頑張ったな。」
健人は、詩音の頭を撫でた。
「でも、健人くんに無償の愛と言うのは、甘えすぎているよね。」
「いいよ。これからは俺が詩音を支える。」
「うん。ありがとう。
私も、健人くんを支える。
それでね、私考えたの。
これは、私の無償の愛。」
「何だ?体で払うとか、またはしたない事を言うんじゃないだろうな〜。」
健人は目を細める。
「まぁ、それも追々?期待してもらったらいいけど。」
詩音は、髪を指でクルクルしながら、照れている。
「違うんだ?」
「今は、真面目な話、座って。」
「なんか辱められてたみたいで恥ずかしいんだけど。」
健人は、照れながらソファーの詩音の隣りにに座る。
「あはははっ!健人くん、可愛い。」
「う、うるせぇ。」
「あのね、私、アイドルやめて、お仕事が多分減ると思うの。減るだけならまだいいけど・・・アイドル引退、熱愛報道に加えて、殺人犯の娘と言うのも報道されたし。だから、ここを出ようと思う。」
詩音の母親の事件は、会見の日からしばらくは、熱烈なファンの暴走と報道されていたが、詩音の過去が探られ、過去の事件が公になってしまっていた。
「そっか。どこに引っ越すか決まってんのか?」
「うん。」
「どこらへんだ?余り遠くなると、困るんだが?」
健人は、不安そうにする。
「近いよ?ものすごい。」
「もしかして、俺と同じマンションとか?」
健人は、少し期待している。
「うん・・・同じ部屋に。」
「そうか。
えっ!!?それって?」
「同棲、しない?」
「・・・大丈夫なのか?」
「マネージャーと、事務所には事前に相談済み。会見のとき、家族になる約束したでしょ?散々報道されたんだから、もう大丈夫だよ。」
「あはは。まぁそうか。」
「でね、健人くんが家事代行してくれたら、私が家賃と、生活費、それから健人くんの学費もまかなう。
私は絶望的にできない家事をしてもらって、健人くんは学業に専念できる。
どうかしら?」
「・・・それは甘え過ぎだろ?」
「健人くんが、就職できた暁には、私は芸能界を引退するかもだし、私を養ってくれたらチャラよ?」
「・・・いや、待て!その場合、詩音は何をする?」
「・・・綺麗でいるための努力?」
「だけ?」
「子育てとか?」
「あぁ。」
「なんだよ?不満気ですな〜。スーパーアイドルを嫁にできるのですぞ?」
「あははっ。まぁ、俺に取って、詩音がスーパーアイドルだったと言うのは関係ない。
それでも、いいよ。
俺は、詩音とずっと一緒にいたいから。」
「よ、よろしい。」
詩音は少し照れながら、俯く。
健人は、詩音の顎に手をあて、顔を上げる。
「俺、がんばるから。」
健人は、詩音の顔に顔を近づけた。
「未来の旦那さん、頑張ってね。」
詩音が目を閉じると、健人は唇を重ねた。
二人は照れながら俯く。
「お仕事でもなんとか守った、ファーストキス。」
「・・・俺も、初めてした。」
「何だか、嬉しい。」
「うん。
・・・詩音はこの先、仕事でキスしたりすることもあるんだろうな。」
健人は、その時の事を考え、落ち込んだ。
「アイドルの時は、守られてたし、断れたんだけど、これからは分からないな。
でも、全力でそうならない様にする。」
「うん。」
「私、こんなだから、芸能界以外のお仕事で、できる仕事が思い付かないんだ。
ごめんね。」
「仕方ないだろ?」
「・・・そうだね。
健人くん。」
「何だ?」
「どんな仕事が来ても、健人くんが動じないくらい、私を全部あげる。
今から?」
「えっ!?
・・・今、から?」
「そう、今から。」
「じゃぁ、もらおうかな。」
「あら、珍しく素直。」
「うん。」
「いつもと違って、素直過ぎると、照れるのですが?」
バサッ。
健人は、詩音をソファーに寝かせた。
「千載一遇のチャンス。今度は後悔したくないから。」
健人は、真っ直ぐ詩音を見つめる。
「じゃあ、ベッドに行こ?」
「うん。」
「キャ、また〜。」
健人が詩音をお姫様抱っこすると、詩音は照れながら膨れている。
「嫌?」
「嫌じゃない。」
健人は、詩音をベッドに寝かせた。
そして、健人と詩音は、心も体も一つになった。
「詩音。」
「はぁい?」
「好きだ。」
「私も・・・大好き。」
ピンポーン。
ベッドで二人がいちゃついていると、インターホンが鳴る。
詩音は、立ち上がり、毛布を体にかけ、インターホンの画面を見た。
「健人くん、服着て!マネージャーが来た。」
「えっ?!うん。」
「何度も連絡したのよ?」
玄関に入ったマネージャーは、詩音に文句を言いながら、廊下を進み、リビングに入ると、ベッドに座る健人に気づいた。
「あら、ごめんなさいね。お楽しみ中でしたか?」
「もう、終わったから大丈夫。」
詩音はサラッと言う。
「お、おぃ、詩音!」
健人は恥ずかしそうにしている。
「ふふっ。それはそれは。」
マネージャーは、少し嬉しそうにソファーに座った詩音の隣りに座った。
「丁度良かった。健人くんも聞いてもらいたいのよ。」
マネージャーは、振り返り健人を見た。
「あ、はい。ここで聞いてます。」
「じゃあ、詩音ちゃんの仕事の事なんだけど、アイドル引退、熱愛、それに加えてご両親の事が公になって、仕事がパッタリ無くなったのは二人とも理解してるわね?」
「はい。」
健人と詩音は、声を合わせて答えた。
「で、これは、最後のチャンスかもしれない。」
「チャンス?」
詩音は、マネージャーを見つめる。
「えぇ、ある有名な作品を、有名な映画監督が映画化する事が決まってるそうなんだけど、詩音にオファーがきてる。」
「えっ!やりたい!」
詩音は、マネージャーに詰め寄る。
「待って。とりあえず聞いて。」
「はい。」
「まだ作品については非公開で、後々、オーディションをする予定だったみたいなんだけど、映画監督が、今の詩音がピッタリハマるって、詩音を指名してるそうなの。
映画の内容としては、ラブシーンも無い、シリアスな感じらしいんだけど、問題があってね。」
「問題?」
「えぇ。あなた達はこれから、同棲してずっと一緒にいられるって思っているでしょ?」
「はい。」
詩音は、不安そうに頷く。
「映画の撮影は、海外なの。
1年くらいは向こうにいる事になるわ。」
「えっ?」
詩音は戸惑った表情で俯いた。
「お仕事を取るか、幸せを取るか。まだ時間はあるわ。ゆっくり考えてくれたらいいわ。」
マネージャーは、複雑な表情で詩音を見つめた。
「行ってきなよ。」
黙っていた健人が口を開く。
「えっ?だって、1年も会えないんだよ?」
詩音は、不安気に健人を見た。
「詩音が頑張っている間、俺も頑張る。詩音が帰ってきたら・・・」
「帰ってきたら?」
「家族になろう!」
健人は立ち上がりながら叫んだ。
「・・・分かった。」
詩音は、決意に満ちた表情をする。
「マネージャー、私、やります!」
「以外だったわ。もっと悩むかと思ってたわ。」
「少し前なら悩むどころか、断ったかも。でも今は、大丈夫。そう思えるから。」
詩音が、健人を見つめると、健人は小さく頷いた。
それから、詩音は健人の家に引っ越し、しばしの同棲生活を満喫した後、映画の撮影へと旅立って行った。




