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約束〜父親の会社が倒産したので家事代行のバイトを始めたら、アイドルとお近づきになりました。  作者: 蓮太郎


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17/19

17.大切な人。

特に進展の無い健人と詩音の日々は、そのまま1ヶ月程続いた。

二人はお互いを思いながらも、連絡を取ることさえできていなかった。


「おはようございます。」

健人は、やりきれない日々で、疲労困憊していた。

「おはよう、健人くん!」


「店長、おはようございます。」


「健人くん、すまない。今さっき連絡があってな、今日の現場、キャンセルになったんだ。」


「そうですか。」


「今日は変わりに行ってもらえる所もなくてね。」


「分かりました。じゃあ、次はあさってでしたよね。また、あさってお願いします。」


「あっ!健人くん!」

店長と健人が話していると、

休憩室の中から、杏子が顔を出す。

「キャンセルでたんだってね。」


「はい、そうみたいで。」


「丁度良かった。こっち来て!」

杏子は、手招きしている。

「はい。」


健人が休憩室に入ると、杏子は健人をソファーに座られる。

「何ですか?」

健人は、不思議そうに杏子を見る。

「テレビ見て。」


「・・・えっ?」

テレビの画面には、中條詩音重大発表まで、5分15秒とカウントダウンされている。

「これは?」

健人は、杏子を再び見る。


「健人くんと詩音ちゃん、写真撮られたらでしょ?あれからワイドショーでは、ああだ、こうだと盛り上がり続けてるのよ。事務所の意向か、詩音ちゃんの意向かは分からないけど、記者会見を開くみたいよ?」


「そうなんですね。うち、テレビないから全然知らなかったです。」


「テレビくらいはあってもいいと思うけどな〜。」

杏子は少し呆れている。

「あっ!始まるよ?会場はこの近くのホテルなのね〜。」

杏子は、テレビに集中している。

「杏子さん、俺、見ない方がいいような気がします。」

健人は、詩音が何を発表するのかと思うと、緊張で心臓の鼓動が早くなる。

「どんな内容にしろ、今の健人くんは、ちゃんと見るべきよ。」


「・・・杏子さん、たまに厳しいですよね。」


「あはははっ!厳しいんじゃなくて、絶対見た方が、健人くんの為になるから。」


「そうですかね。」


「良い結果でも、悪い結果でも、健人くんのためになる。だから、ちゃんと見てあげましょ?

あっ!詩音ちゃん入ってきたよ?」


テレビの画面の向こうでは、横長に並べられた机、事務所の責任者、マネージャー、詩音が着席した。


「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます。早速ではありますが、中條詩音より、皆様にお伝えしなければならない事がごさいます。

本日は、よろしくお願い致します。」


カシャカシャカシャ。

カメラのフラッシュがチカチカとする中、詩音が立ち上がった。


「中條詩音です。

今日は、お伝えさせて頂きたい事があります。」

カシャカシャカシャ。


「わたくし、中條詩音は、アイドルを引退致します。これまで支えて下さった方々、ありがとうございました。」

詩音は、深々と頭を下げる。



えーー!!!

引退?

会場の記者達は、ざわついている。


「まぁ!」

「・・・引退か。何で!?」

杏子と健人も目を見合わせて驚いている。


ざわつく記者達は、詩音が再び話だそうと頭を上げると、静まる。

「熱愛報道でお騒がせしてしまい、申し訳ありません。

今は、熱愛はありません。

ですが、一緒に写真に写っいた方は、私の大切な人です!

私がアイドルだからだけではありませんが、私は、彼を沢山傷つけてしまいました。

そして、アイドルである以上は、恋愛はするべきではないと、自分の気持ちを押さえてきました。

私は、彼と向き合いたい。

だから・・・身勝手ではありますが、引退を決意しました。

もし、許されるなら、女優のお仕事は続けさせて頂きたい。

そう思っています。」


静まりかえる会場内。

堰を切る様に一人の記者が立ち上がる。

「恋愛したいからと言う理由で引退されると言う事ですか?ファンは納得しませんよ!」

発言した記者もファンなのだろう。

言葉には熱が籠る。


「健人くん、詩音ちゃん大丈夫かしら?あら!?」

杏子がテレビに集中している間に、健人の姿は消えていた。

「がんばれ、若者。」

杏子は、にこやかに笑った。


ハァハァハァ。

「詩音、めちゃくちゃだな。

・・・でも、あそこまでしてくれたんだ。次は俺の番だ。」

健人は、記者会見の会場へと走り、ホテルの前に立っていた。

ハァハァハァ。

「会場に入れるのかな・・・いや、無理やりにでも入る!今行かないと後悔する。」

健人は、出待ちのファンをかき分けて、ホテルの中に進んだ。



会場内では、詩音が拷問を受けるかのように叩かれ始めていた。


助けて。

詩音は俯き、心の中で呟く。


逃げ出したい、そう思いながら詩音が再び顔を上げると、会場の後ろのほうがザワザワしている。

まるで花道を作るかの様に、記者達は、左右にハケて行く。


健人くん?

詩音は心の中で呟く。

詩音は、健人が来てくれたのかと、期待した。


花道が詩音まで繋がると、そこに立っていたのは、刃物を持った母親だった。


詩音の頭の中は、一瞬、真白になった。

そして、恨み、悲しみ、絶望。

そんな負の感情が頭と心を埋め尽くした。


・・・あぁ、もういいや。疲れたよ。

神様、私は悲しい思いをするために産まれてきたの?

・・・幸せになりたかった。


詩音は、諦めた様な表情で倒れ込む様にイスに座る。


「あなた!何ですか!警備員さんは!?」

マネージャーは、詩音を庇う様に前に出た。


「どーけー。お前だけ幸せになるなんて、許さない。」

詩音の母親は、マネージャーの後ろの詩音を虚ろな目つきで睨む。


「詩音!逃げて!」

マネージャーが叫ぶ。

「あーーー!!!!」

「キャー!!」

我を失った詩音の母親が、マネージャーに切りつけると、マネージャーは、倒れ込み、腕を押さえている。

床には、血がポタポタと落ちている。



「やめて!」

詩音は、あの日、父親が倒れている光景が脳裏をよぎり立ち上がる事はできなかったが、力いっぱい叫んだ。

「私が気に入らないなら、どうぞ。

もぅ、好きにすればいい。」

詩音は、俯いた。


詩音の母親は、詩音の前に立つと、刃物を振り上げる。

「あはははっ!聞き分けのいい子ねー!!」


詩音は覚悟を決め、体に力込める。

・・・恐い。

でも、これで楽になれる。


「あーーー!!!!」

詩音の母親が刃物を振り下ろす。


詩音は、目を閉じた。

目を閉じると、涙が、ポタポタと机の上に堕ちる。

覚悟した詩音だったが、一向に刃物で切りつけられた様な痛みを感じない。

不思議に思い、ゆっくりと目を開けると、ポタポタと堕ちる涙と別に、赤い水滴が机にポタ、ポタ、と堕ちている。


「離せ!」

詩音の母親が叫び、詩音は顔を上げた。


「・・・来てくれたんだね。」

詩音の目尻からは、大粒の涙がとめどなく流れ出す。


「遅くなった。ケガはないか?」

健人は、詩音に微笑む。

「私は大丈夫、それより健人くんが。」

詩音は、心配そうに刃物を素手で握る、健人の手を見た。


「よっ。」

健人は、詩音の母親の腕を捻り、刃物を落とさせ、床にねじ伏せた。

「警備員さん!」

健人が叫ぶと、警備員達が駆け寄り、詩音の母親を遠ざけていった。


「健人くん。」

詩音は、ようやく立ち上がると、涙をふいて、笑った。


健人は、二人の間に置かれた、長机をヒョイッと飛び越えると、詩音を抱きしめた。

「しーちゃん。お待たせ。」


「・・・。」

何も言わない詩音だったが、ようやく泣きやんだ詩音の目尻からは、また涙がこぼれ堕ち、重なる健人の頬を濡らす。

小さい頃の記憶。

モヤのかかっていたけいくんの顔が鮮明になる。

幼いが、紛れもなくそれは、健人だった。

「思い出した?」

健人は、小さく呟く。


「うん。けいくん。」

詩音は、健人を抱きしめ返した。


「約束。守りにきた。俺が詩音の家族になってやるよ。」


「ふふっ。また上から。私、スーパーアイドルよ。」


「もう違うんだろ?」


「ははっ。そうでした。

・・・家族になって下さい。」


「あぁ。喜んで。」


おーー!!!!

カシャカシャカシャカシャ。

記者達は、我に返り、歓声を上げると、一斉に抱き合う二人に向け、カメラのシャッターを切った。


二人も我に返り、離れると、恥ずかしそうに俯いた。

「何の茶番劇よ。これ、私クビだわ〜。」

幸せそうな詩音と健人に向かい、マネージャーは笑う。


「マネージャー、大丈夫ですか?」

健人は、腕を押さえながら、血を流すマネージャーを見て心配そうにする。


「救急車来たみたいだから、あなたも行くわよ。」

マネージャーは、血まみれの健人の手を指さす。


「ははっ、そうでした。」

健人はも笑った。


マネージャーは、腕の痛みに耐えながらも、記者達の前に立つ。

「皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした。

詩音の事、温かい目で見守って頂きたい。何卒よろしくお願い致します。」

マネージャーが深々と頭を下げると、詩音と健人も頭を下げた。


パチ、パチ。


パチ、パチ、パチ。

パチパチパチパチパチパチパチ!

会場内を、拍手の音が埋め尽くした。


「ありがとうございます。本日の会見は、これにて終了させて頂きます。」

マネージャーは、その場をしめると、倒れそうにふらつく。

健人は、マネージャーを支えた。

「いきましょうか。」

健人は、マネージャーを支えながら、詩音を連れて、救急車に乗り込んだ。


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