16.記憶の蓋。
「う、う〜ん。」
健人は、微睡みの中、時計を見る。
「げっ!」
時計は10時を示していた。
「ハァ。昨日は色々疲れたからな。
・・・一限目の授業、もう、間に合わないな。」
ピンポーン。
「誰だ?」
インターホンがなり、健人は起き上がる。
「父さん?!」
インターホンには、健人の父親が写っていた。
「健人ー!来たぞ〜!」
父は嬉しそうにする。
「お母さんもいるわよ!」
父の後ろから母も顔を出した。
ガチャ。
健人が玄関のドアを開けると、両親は嬉しそうに入ってくる。
「あら、寝起き?まぁ、いいわ〜おじゃましまーす。」
「来るなら言ってくれよ。寝坊しなかったら、俺は今ごろ大学だぞ?」
「あら、健人が寝坊なんて珍しいわね。」
「あぁ。まぁ、色々あって疲れが。」
「無理し過ぎないようにね〜。」
母と健人が話していると、父が部屋を見回す。
「まさか、健人がこの部屋に住んでるとはな〜。」
父は、健人を見て驚いている。
「この部屋?」
「ん?健人、覚えてないのか?
父さん、この隣りの部屋に住んでただろ?健人も良く遊びに来たじゃないか。」
「・・・えっ?知らないけど。」
健人は、不思議そうに父を見た。
「まぁ、あんな事があったから、仕方無いか。」
「あんな事?」
「まぁ、いい。そう言えば、しーちゃんは覚えてるか?今ではスーパーアイドルだもんな〜。」
記憶に無い様子の健人を見て、父は話題を変える。
「・・・しーちゃん?ゔっ。」
健人は、胸の辺りが苦しくなる。
昨日、東京タワーを見た時の光景がまた頭に流れ込む。
しーちゃん!東京タワー綺麗だな!
そうだね!けいくん!
・・・小さな女の子と、話しているのは、子供の頃の俺?
健人は、気分が悪くなり床に屈む。
また違う光景が頭の中に広がる。
健人と若い父は、隣りの部屋のソファーに座っている様だ。
「ギャーーー!!!」
「やめろーー!!」
隣りの部屋から叫び声が聞こえる。
尋常ではない叫び声だ。
「なんだ、なんだ!?」
健人の父が驚いた表情で隣りの部屋に走る。
「やめろー!何やってんだ!」
隣りの部屋から聞こえる、健人の父の叫び声に、健人の視界は、隣りの部屋へとゆっくりと進む。
部屋に入り、廊下を進んだ健人の視線の先には、信じられない光景が広がる。
健人は思い出した。
健人の父は、刃物を持った詩音の母親を押さえ込み、その傍らには、血まみれの詩音の父親が倒れている。
「ゔ。ゔー!」
我に返った健人は、トイレに走った。
「ゔゲー、ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。」
トイレに走った健人を見て、父と母が驚いて追いかけてきた。
「大丈夫か?」
「忘れてた。
・・・と、言うか、記憶に蓋をしてたんだろうな。」
健人は、立ち上がると、頭を抱えた。
「もう少し早く思い出してたらな。」
健人は、ヨレヨレしながら、ソファーに座った。
「何?どうしたの?」
母は、健人の隣りに座った。
健人は、詩音との事を簡単に説明した。
「まぁ、すごい偶然・・・というか、赤い糸とか運命感じるわ!」
健人の母は、驚いている。
「まぁ、分かった所で、どう伝えるべきか。思い出すのが遅かったかもしれない。」
「大丈夫よー!ここまで運命的な事が起きてるのよ!二人は結ばれる運命なのよ!」
母は、目をときめかせながら、両手を握っている。
「健人、がんばれ!」
父も嬉しそうに笑う。
「まぁ、考えとくよ。」
父と母は、晩御飯を一緒に食べた後、帰っていった。
健人は、ベッドに横になり、ボーっとしている。
「あぁ、なんて事だ。
俺も記憶が無かったなんてな。」
健人は天井を見ながら呟く。
「こんなに拗れた状態で、俺がけいくんだったとか言えないよな。
そう言えば、詩音のやつ、けんくんは言いにくいから、けいくんね〜!とか言ってたな。せめてけんくんだったら・・・まぁ、同じだったか。」
バサッ。
健人は、枕に顔を押しつけた。
「あーーー!!!」
そして、枕に向かって叫ぶ。
「誰かに相談しよう・・・最近、勉強が疎かになってるな。
・・・こんな状態じゃぁ、無理に頑張っても身にならんな。」
小さく呟くと、健人は考えるのをやめ、眠りについた。




