14.記憶の断片。
「あ〜、何だか前より疲れるな。」
大学の講義が終わり、健人は机に項垂れながら伏せる。
「おぃ、おぃ。若者よ、もうちょい楽しそうに生きられないかね?」
隣りの席に座って、声をかけて来たのは、山田 龍人だ。
健人に唯一話しかけてくる、同い年のチャラ男だ。
健人は、龍人が嫌いではなかった。
むしろ、名前は伏せているが、恋愛相談なんかもしていたりする。
「知ってんだろ?俺は今、絶望の縁にいるんだよ〜。」
健人は伏せたままボヤく。
「ははぁ~。そんな健人くんに蜘蛛の糸が降りてきた。」
「何だそれ?」
「知らないのか?芥川の蜘蛛の糸。」
「知ってるわ。・・・そもそも、ぶら下がるとまた堕ちるだろうが。」
健人は不機嫌そうに、龍人を睨む。
「一人で登れば切れないだろ?ぶら下がってみるか?」
「何だよ?」
健人は、不機嫌そうに耳を傾ける。
「合コン!お前しかいないんだ!頼む!」
「さっ、帰るか。」
健人は、カバンを持ち立ち上がる。
「お、おい!待て!この通りだ!」
龍人は、人目もはばからず、土下座している。
「ば、バカか!やめろ!」
「来てくれるまで続ける!」
「じゃぁ、がんばれー。」
健人は、龍人に背を向け、歩き出す。
龍人、健人を追いかけ、前に回ると、また土下座。
そんなやり取りを繰り返す。
「いやー!良かった良かった。
もうすぐ女の子も来るからさ、とりあえず寛いでくれ!」
健人は、根負けして、龍人の予約した店にいた。
「ハァ。ちょっとしたら帰るぞ?」
「まぁ、そんな事も言えなくなる。」
「どういう事だよ?」
「ま、まぁ、頼むわ〜。」
龍人は誤魔化す様に言う。
「何隠してんだ?そもそもさ、合コンって4人ですることあるのか?」
どう見ても4人しか入れない個室を、健人は見回す。
「あっ、来た来た。」
龍人が言うと、健人は後ろを振り返った。
「ごめ〜ん、龍人。遅くなった。」
個室に入りながら、女が龍人に詫びる。
「えっ?」
健人は、開いた口がふさがらない。
「なんで?」
後からもう一人入ってきた女も、硬直している。
「詩音。」
「健人くん。」
「えっ?二人は知り合いなの〜?」
白々しい感じで、とぼける女は、西川 茜、詩音のアイドル仲間だ。
詩音は、茜に色々と相談をする仲だ。
「・・・。」
詩音と茜は、とりあえず席についたが、気不味い雰囲気が流れる。
「じゃ、じゃあ自己紹介から〜。俺は、山田龍人。龍人でよろしく〜!」
「・・・。」
「こいつは健人。俺の親友な。」
「じゃ、じゃあ、私は、西川 茜。
茜でよろしく〜!」
「・・・。」
「こ、この子は、詩音。知ってるよね〜!?」
龍人と茜は、何とか盛り上げようとする。
「さ、さぁ、今日は楽しもうじゃないか〜。」
龍人は、運ばれてきたビールを手に取った。
かんぱーい!
健人と詩音は、ソフトドリンクで仕方無さそうに乾杯する。
「合コンとか行くんだね?」
詩音は、ようやく口を開いたが、健人を睨みながら、皮肉を言う。
「あ、いや!違うんだよ!俺がしつこく土下座して、半ば無理やり連れてきたんだよ!」
龍人は、健人を庇う様に割り込む。
「そ、そっちこそ。アイドルが合コンとかいいのかよ?」
健人は、不機嫌だ。
「私も、茜が。」
詩音は、健人にムカついていたが、自分も同じだと気づいた。
「そ、そう。私がしつこく頼んだの!
詩音は、合コン初めて来たのよ?」
茜も詩音を庇う。
「・・・。」
終始重たい雰囲気に、茜と龍人は酒のペースが早くなる。
茜と龍人は視線を合わせ、声にならないため息をつく。
「私ちょっとトイレ〜。」
茜がトイレに向かう。
しばらくして、健人は立ち上がった。
「ん?どうした健人?」
龍人は、不安気な表情を向けた。
「あ、いや、トイレ。」
「そう。帰るなよ?」
龍人は、健人を睨む。
「はいはい。」
健人は、不機嫌そうにトイレに向かった。
「あ、あのさ、二人の関係は?」
龍人は、詩音に話しかける。
「知り合い。」
詩音は不機嫌そうだ。
「あはは。そうなんだ〜。」
茜ー!早く戻ってこいー!
そんな事を思いながら、龍人の酔いは完全にさめていた。
「いいじゃん〜!俺達とのもうや〜!」
「いや!やめて下さい!」
健人がトイレに向かうと、トイレの前で女が男二人組に絡まれている。
「ハァ。」
健人は、ため息をついた。
絡まれていたのは茜だった。
「仕方ない。」
健人は、呟くと、男の肩に触れた。
「その子、困ってるけど?」
健人、男二人組に冷めた声で言い放つ。
「はぁ?関係ないだろ?」
「関係はあるな。その子、連れだから。」
「知るかよ!黙ってろ!」
一人の男が健人の胸ぐらをつかんだ。
ドスッ。
健人は、男の手を捻り、地面に倒した。
「いてー!離せコラァ!」
腕を捻られたまま、男は叫ぶ。
「お前!なめんなよー!」
もう一人の男が殴りかかってきた。
ドスッ。
健人は、男の拳を交わし、勢いを利用して投げ飛ばす。
男は、先に倒れていた男の上に倒れる。
「いてーよ!早くのけよ!」
「す、すまん!」
二人は、ヨレヨレしながら立ち上がる。
「まだやる?」
「ど、どうされましたーー!?」
店員が騒ぎに気づき、駆け寄ってきた。
「警察呼んでもらおうか?」
健人は、二人の男を睨みつける。
「けっ。」
二人の男は、不機嫌そうに立ち去った。
「ハァ。恐かった〜。」
茜は、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫?」
健人は、手を差し出した。
茜は、手を取ると、健人にしがみつく。
「えっ?それはちょっと。」
「ほんとごめん。腰が抜けるってこう言う事なのね。」
茜は申し訳無さそうにする。
「とりあえず、席行こうか。」
「うん。」
しがみつく茜を連れて健人が個室に戻ると、スマホをいじる龍人と、黙って食事する詩音が二人を見る。
「えっ?」
二人は、目を丸くしている。
「腰抜けちゃった。」
茜は、照れた様な表情で健人にしがみいている。
「何があった?」
龍人は固まっている。
「いや〜、トイレの前でナンパされちゃって、健人くんに助けてもらったんだよ。健人くんすごいカッコ良かったよ!
二人組の男をブーンって投げ飛ばしてさ!」
茜は、健人にしがみつきながら、目を輝かせている。
「何よ!デレデレしちゃってさ!」
詩音は立ち上がった。
「帰る!」
詩音は荷物を持って飛び出した。
「ちょっと詩音!」
茜が呼び止めるが、詩音はいってしまった。
「健人、なんかすまん。後で色々話すから、追いかけろ。」
「・・・ハァ。なんだこの茶番は。
何となく分かったわ。」
健人は、急いで店を出た。
店を出ると、少し先で詩音はヨレヨレと涙を拭きながら歩いている様に見えた。
健人は、走って詩音に追いつくと、腕を掴んだ。
「ハァハァハァ。詩音、どうしたんだよ。」
「ほっといてよ!」
「・・・ほっとけない・・・だろ。
分かるだろ?」
「何よ!茜と仲良くしちゃってさ!健人のバカ!」
「お前、あんなんでヤキモチとかやいてんのか?俺はどうなるんだよ!」
「・・・うるさい!」
詩音は健人に背を向けた。
「帰る。」
「送る。」
健人は、再び詩音の腕を掴んだ。
「いいって。」
「ごめ〜ん。」
二人が言い合いをしていると、茜が龍人に肩を借りて追いついて来た。
「健人くん、ごめん。詩音に色々説明しないといけないから、私が一緒に帰るね。」
「そ、そう。分かった。」
健人は、詩音の腕を離した。
「龍人、多分もうあるける。ありがとう。」
「そう。気をつけろよ?」
「うん。」
茜は、少しヨレヨレとしながら、詩音に腕を組む。
「茜。」
「詩音、ごめん。色々と謝らないといけない。一緒に帰ろ。」
「うん。」
詩音と茜がゆっくりと歩くのを、健人と龍人は見送った。
「さてと、龍人、懺悔の時間だ。」
「そうだな。悪かったよ。」
龍人は素直に謝る。
「俺と茜は幼馴染でさ、お互いの仲のいい友達の恋バナで盛り上がった訳よ。
で、ちょっと待てと、スーパーアイドル中條詩音のお相手は、俺の親友かよ!ってなったわけ。」
「・・・すごい偶然だな。」
「あぁ。上手くいってない二人の仲を取り持とうと言う、俺達の優しさだったんだが、余計な事をしたな。」
「もぅ、修復不可能じゃないかこれ?」
健人は頭を抱えた。
「大丈夫!茜が何とかする!」
龍人は明るく答える。
「何を根拠に。」
「まぁ、信じようじゃないか、友よ!
それはそうと、あんまり茜に触るんじゃねーよ。」
珍しく龍人は、不機嫌そうにする。
「そう言う事か。」
「まぁな。あいつも一応そこそこなアイドルだし、今は何も言わないが、俺はずっとあいつだけをみてる。」
「・・・以外だ。」
「失礼な奴だな!俺は、合コンなんか行ったことないぞ?今日は疲れたわ〜。」
「すまん。結果は余計なお世話だったが、ありがとう。」
「まぁ、気持ちをくんでくれただけ、良かったわ〜。」
「所でさ、どこまでついてくるんだよ?」
「いや、俺んちもこっちだし。」
二人は、お互い、いい友達を持ったななどと思いながら並んで歩く。
「うちここだから、またな。」
健人は、龍人に手を上げる。
「えっ?健人、お前何階だ?」
「ん?三階だが?」
「・・・マジか!引っ越したって言ってたのまさか同じマンションだったとは。」
「えっ?龍人もここに住んでんのか?」
「あぁ、俺も三階だ。隣りだったりしてな〜!」
二人は、笑いながら部屋の前に着いた。
「・・・マジで隣りかよ!」
「だな。」
「健人、もうちょいうちで話さないか?」
「別にいいけど。」
「じゃ、決まり!」
ガチャ。
龍人は、玄関のドアをあけた。
「ただいまー!」
「おかえり。」
龍人が元気良く玄関に入ると、龍人の母親らしき人が顔を出した。
「あら、お隣りさんじゃないの。」
「母さん、こいつは健人。俺達、親友なんだよ〜。隣りに引っ越したの聞いてなくてさ、今知って驚いたわ!」
「それはまた、すごいわね。」
「だろ?母さん、ちょっと健人上がってもらうからな〜。」
「はいはい、じゃあ、お茶でも入れるわ〜。」
「ありがとう、頼むわ〜。」
「おじゃまします。」
健人は、礼儀正しく靴を揃え、龍人の後ろを歩く。
「なぁ、見てみろよ!」
リビングに通された健人は、龍人に言われて窓の外を見た。
「小さいけど、東京タワー見えるんだよ!」
龍人は嬉しそうに言うと、見慣れた東京タワーを嬉しそうに見ていた。
「ゔ。」
健人は、胸の辺りが何か苦しくなり、うずくまる。
誰かに抱きかかえられ、反対の腕には少し年下の女の子が抱かれている光景が頭の中に流れ込む。
見てみろよ、ここからは東京タワーがみえるんだぞ。
聞いた事のある声。
「同じ光景?何だ?」
健人は我に返る。
「ど、どうした健人!?」
龍人は、うずくまる健人に駆け寄る。
「いや、何でもない。」
「大丈夫かよ?」
「あぁ、もう大丈夫だ。」
「そっか。」
二人は、リビングで龍人の母が出してくれたお茶を飲みながら、しばらく話した。




