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約束〜父親の会社が倒産したので家事代行のバイトを始めたら、アイドルとお近づきになりました。  作者: 蓮太郎


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12/19

12.嫉妬と戸惑い。

「ただいま〜。なのか?」

健人は、両親の新居に上がる。

「へ〜、思ってたより広いな。」

健人は、奥へ続く廊下の両側に、部屋が2部屋と、お風呂やトイレがあるんだろうと、想像する。


「健人、身長伸びたんじゃない?」

母は久しぶりに健人に会えて、嬉しそうにしている。

「そうかな?さすがにもう伸びないと思うけど。」

健人は、気丈に振る舞うが、元気は無い。

「まぁ、いいわ。疲れたでしょー!

ご飯できてるから食べましょ?」

健人が空いた部屋に荷物を置き、手を洗ってリビングに入ると、父はダイニングテーブルで一杯始めていた。

「健人、おかえり。」

父はほろ酔いのようだが、健人を見て嬉しそうに笑う。


「ただいま。」

両親を向かいに、健人も座った。


「大丈夫か?」

父は心配そうにしている。


「何が?」


「失恋だよ。まさか健人が恋をする日がくるとはなー。」


「父さん、酔ってるだろ?」

普段恋バナなんてしなさそうな父がグイグイくるものだから、健人は警戒している。

「あはははっ!呑まないとやってられんわー!この年でまた一から出直ししないといけないんだ。ヒクッ。」


「大変だよな。父さんこそ大丈夫か?」


「あはははっ!大丈夫だ!父さんの話はいい。健人の話が聞きたい!」


「あぁ、まぁ。失恋以外、特に話す事無いし。」


「まぁ、健人も呑め!」


「いや、酒は脳に悪いから。」


「かぁー!相変わらずだな。」

健人の父は残念そうに俯く。

「所でだ!」

父は、蘇った様に再び顔を上げる。

「父さんも、母さんに何度もフラれたんだ!」


「ちょっと、お父さん、それは内緒でしょ〜?」


「いいじゃないか!健人には頑張ってほしいんだ!」


「・・・そうね。」

母は、仕方無さそうに引きがかる。


「母さんには、心に決めた人がいたんだけどな、ヒクッ。」


「うん。それで?」

健人は興味をそそられた様だ。


「まぁ、なんだ。細かい事を省けば、父さんの粘り勝ちだ!

でもまぁ、付き合ってからも不安はあった。母さんがいなくならないかって。」


「ははっ。でもこうして結婚してるんだな。なんか・・・いいな。」

健人は羨ましそうに、二人を見る。


「そうだ。お父さんは諦めなかった。

フラれても、フラれても。

健人がどんな状況なのかは知らんが、まだ頑張れる状況なら、頑張ってみたらどうだ?」


「・・・父さん。

ありがとう!俺、明日帰るよ!」

健人の死んだ魚の様な目に、少し光が差した。


「え〜、ゆっくりしていきなさいよ〜。」

母は不満気だ。

「母さん、健人は今、成長してるんだ。

見守ってやろう!」


「・・・そうね〜。」

母も、健人を頑張れと言わんばかりに見つめる。


健人が実家へ帰った日。

詩音は、遠方ロケから帰宅後、

昼からは休みだった。

「健人くんにどんな顔して会えばいいのー!」

詩音は、部屋の中をグルグルと歩き回る。


ピンポーン。


インターホンの音にビクつきながらも、詩音は画面を見た。


「あれ?杏子さん?」

「ごめんね詩音ちゃん。」

詩音のマンションのエントランスに、杏子が立っていた。

杏子は、詩音の部屋へと上がる。

「久しぶりね。」


「杏子さん!腕治ったんだね!」

詩音は嬉しそうにするが、どこか暗い雰囲気をまとっている。

「お陰様でね。」

杏子は微笑む。

「所で・・・健人くんは?やっぱりもう来てくれないんだね。」

詩音は俯いた。


「えっ?やっぱり?何?どういう事?」

何も知らない雰囲気の杏子は、興味津々な様子で詩音に詰め寄る。


「あっ、その色々あって。」

俯いたまま、詩音は答えた。


「・・・それは聞いていい話かしら?」


詩音は、相談相手には適任だと思い、杏子にこれまであったことを話した。

「そう。何だか大変な話ね。

詩音ちゃん大丈夫?

私で良ければ。」

杏子は両手を広げる。

詩音は素直に、杏子の胸に飛び込んだ。


「・・・落ち着く。

杏子さん。

私、どうしたらいいか分からない。

けいくんに会いたいって思うけど、健人くんにも会いたい。

健人くんの事、ふって後悔もしてるんだと思う・・・まぁ、正式に告白された訳じゃないんだけど。」


「そうね〜。健人くんは、実家に帰ってるだけだから、また来週には来てくれると思うわ。しばらく考えてみたら?

健人との時間も大切に過ごして。」


「杏子さん。ありがとう。

そうする。

健人くん、来てくれるといいな。」

杏子からは、詩音が少し明るくなった様に見えた。


「まぁ、アイドルだから、熱愛報道には気おつけてね。」


「うん。前ので凝りたよ。

警戒は怠らない。」


「さぁ!じゃぁ今日も頑張ろうかしら。」


「よろしくお願いします。

じゃぁ、私は少し眠らせてもらうね。」


「はいはい。しっかり休んでね〜。」

少し気持ちが軽くなった詩音は、寝室へと向かった。



それから、1週間程経った日。

健人は、詩音の部屋の玄関の前に立っていた。


・・・詩音。

なんでまだ俺の事を指名するんだろ?

あー!インターホンを押す勇気が出ない!


ガチャ。

健人がドアの前でモタモタしていると、ドアが開いた。

「な、何してんの?入りなよ。」

詩音は少し気不味そうに顔を出す。


「あ、うん。」

健人は、詩音から目を反らしてしまう。

玄関に入ると、健人は廊下を見て驚く。

「えっ?綺麗だ。」


「・・・その、頑張ったの。」


「そ、そう。」


「まぁ、洗濯物をカゴに入れたり、ちゃんとゴミを出したりしただけなんだけど。」

詩音は、長い髪を指でクルクルしながら、褒めて欲しそうにする。


「・・・ゴミを出せたのはえらいな。ただ。」

健人は、洗面所のドアを開ける。

「やっぱり。」

洗面所は、カゴに入り切らない服が散乱していた。


「だ、だってー!洗濯までは無理!」


「まぁ、成長だな!」

健人は、この日、始めて詩音の目を見て笑った。


「あ、ありがとう。」

詩音は嬉しそうにしている。


「後は、やっとくから、詩音は少し寝ろ。目の下、くまできてるぞ?」


「・・・どうしたら。」


「ん?なんて?」


「どうしたらいいのーー!!!」

詩音は突然叫ぶ。


「ど、どうしたんだよ?」


「私が悪いんだよ!でも、でも!

どうしていいか分からない!

寝れないんだよ!毎日!」

詩音は、涙を流しながら健人に訴える。


「・・・俺だって。

俺だって同じだ!」

健人も叫んだ。

「フラれたのに、また呼ばれて、俺はどんなふうに振る舞えばいい?

詩音が何を考えてるか分からん!」

健人は思ってる事を叫んだ。


「・・・私も。私も分からないんだよー!」

詩音は、健人の胸におでこを当て、握った手で健人の胸元を叩く。


「何だよそれ。」

健人はこらえきれずに、詩音を抱きしめた。

「また、突き放すか?俺は・・・突き放されても、突き放されても、何度でもこうしたい。」


「・・・。」

詩音は、健人の腕の中で固まっている。


「ハァ。俺のせいで眠れないなら、寝るまでベッドの横にいてやるから。

少し寝ろ。」


「キャッ。」


健人は、詩音をお姫様抱っこすると、ベッドに運び、寝かせた。


「ありがとう。」

詩音は、健人の手を握り、目を閉じた。


「なぁ、けいくんとやらは見つかったのか?」


「・・・見つけるどころか、探す暇もない。」


「そっか。見つかったら・・・どうしたいんだ?」


「分からない。でも、会いたいって思う。でもね、先週杏子さんが来て、健人くんに会えなかったら、けいくんと同じだけ、健人くんにも会いたかった。」


「この浮気者。」


「・・・私、最低だね。

あの人の娘なんだなって思う。」


「違うだろ?・・・違うよ。」

健人は、目を閉じた詩音の頭を優しく撫でた。


少しすると、詩音は寝息をたて始めた。


「まったく。」

健人は、頭を抱えながらも、立ち上がると、作業に取りかかった。


詩音が頑張って片付けていた事もあり、いつもより早く作業が終わったが、せっかく眠れた詩音を起こすかどうか、健人が迷っていた。

「どうしようか。起こすのも可哀想だし。」

健人が独り言を言っていると、

寝室のドアが開く。

「詩音、起きたのか。」

健人は、心配そうに詩音を見る。


「うん。やっぱり目が覚めちゃった。」


「そっか。まだ時間あるし、隣りにいてやろうか?」


「健人くん。また一緒に寝てほしい。」


「・・・詩音、それは無理だ。」

健人は俯いた。


「・・・お願い。

私、けいくんの事はちゃんと忘れるから!」

詩音は、健人に駆け寄り、手をにぎる。

健人は、詩音の手を払い除けた。

「詩音、頭冷やせ。

来週からは杏子さんに来てもらう。」

健人は、背中を向けたまま、冷たく言い放ち、荷物を取ると、玄関へ向かった。

「嫌ー!待って!」

玄関で靴を履くきドアに手をかけた健人に、詩音は後ろから抱きついた。

「行かないでー!!お願いー!!」

詩音は力いっぱい健人を抱きしめた。


健人は、詩音の手に触れ、引きはがす。

「なぁ、詩音。逆の立場なら、詩音は俺と寝てくれるのか?」


「・・・。」

詩音は、何も言わずに、膝から崩れた。


ガチャ。

バタン。

ドアの閉まる音と共に、詩音の目からは

涙が溢れ出す。

「いゃぁーーー!!!一人にしないでよーー!!健人ー!ごめんなさーい!!」

詩音は、しばらく玄関でうずくまり、泣き続けた。

涙も枯れてしまったと思うほど泣いたあと、詩音はフラフラと、ベッドにたどり着いた。

バタン。

ベッドに倒れる様に横になると、詩音は泣き疲れて眠った。


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