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約束〜父親の会社が倒産したので家事代行のバイトを始めたら、アイドルとお近づきになりました。  作者: 蓮太郎


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10/19

10.幸せ。

ピンポーン。

「誰だろ?」

いつもの様に、勉強をしていた健人は、来客の予定が無いはずと思いながらインターホンを見た。

エントランスには、詩音が変装して立っている。

「あれ?明日じゃ?」

健人がインターホン越しに言うと、詩音は画面の向こうで、人差し指を口の前に立てている。

健人は、黙って自動ドアを開けた。


健人が詩音を誘った日から数週間、明日、詩音は久しぶりの1日丸々の休みをもぎ取った。

「詩音が来るのは明日のはずだったが・・・嫌な予感しかしない。」

ピンポーン。

健人が独り言を呟くと、詩音がインターホンを鳴らす。

ガチャ。

「とりあえず、入って。」

健人は、周りを気にしながら、玄関のドアを閉めた。

ガチャ。カチッ。

「まぁ、鍵閉めて、何かいやらしい事考えてるのかしら〜?」

詩音は、マスク越しにニヤけながら、健人を見つめる。

「ば、バカ!普通閉めるだろ!」


「あはははっ!健人くんは、からかい甲斐がある〜。」

詩音は楽しそうに笑う。

「おじゃましま〜す。」

詩音は、靴を脱ぐと、恐る恐る、部屋の奥へ進む。

「えっ?広くない?」

詩音は、驚きながら部屋を見回す。

「まぁ、訳あり物件だからな。」


「・・・・。」

楽しそうだった詩音が俯いて突然黙ったので、健人は詩音の顔を覗き込んだ。

詩音は、胸の辺りを押さえて、苦しそうにしている。

「し、詩音?どうした?大丈夫か?」

驚いた健人は、詩音の両肩に手を置いて、心配そうに覗き込む。


「・・・大丈夫。何だろ?この部屋を見た途端に、胸の辺りが・・・何だか、苦しくて、温かくて、色んな感情が流れ込んできたみたいな。」


「・・・やっぱり、この部屋と詩音には何か関係がある気がする。」


「そうなのかな?」


「電話では話せなかったけど、生きた人の幽霊が現れるのは、強い思いがある場所らしい。詩音は、この部屋に何か強い思いがあるんだと思うんだけど、何か思い出さないか?」


「う〜ん。ダメだ。」


「そっか。」


「ごめん。せっかく私の為に考えてくれたのに。」


「いや、いいよ・・・それよりだ。」


「何?」

詩音は、感情が落ち着いた様で、健人に笑顔で問いかける。


・・・か、可愛い。

健人は、詩音の笑顔に流されそうになる。

「来るのは明日の朝じゃなかった?」


「早く来たすぎて、予定変更した。

何か問題でも?」


「そ、そう。まぁ、こんな時間に追い返す訳にもいかないし。」

健人は、渋々受け入れる事にした。


「じゃぁ、晩御飯作ってよ〜!」


「はぁ〜!」


「嫌?私、お腹空いた。」


「分かりました。」

健人は、満更でも無さそうに、キッチンに向かおうとする詩音は、健人の手を握った。

「あと、お風呂入る。

仕事終わってそのまま来たから、着替え持ってきてなくて、貸して?」


「・・・分かった。」

健人は、わがまま放題の詩音に少しイタズラしてやろうと、ニヤリとする。

詩音は、健人の不敵な笑みを見逃した様だ。

「着替えとタオル用意しといてやるから、入ってきなよ。もうすぐ入るつもりだったから、お湯はためてある。」


「ありがとうー!

・・・一緒に入る?」


「入らねーよ!」


「あら、千載一遇のチャンスを逃したわよ?後悔しなさ〜い!」

詩音は、ニヤニヤしながら洗面所に入っていった。


「フッフッフ。これくらいの報復は、許されるよな?彼シャツと言うやつだ。」

健人は、嬉しそうに、長袖の白いカッターシャツ1枚だけをクローゼットから取り出した。


トントントン。

「詩音?入るぞ?」

返事が無い。

詩音は風呂に入った様だ。

ガチャ。

健人が洗面所に入ると、詩音の服や下着が床に脱ぎ散らかされている。

「まったく。」

健人は、カッターシャツとタオルを台の上に置くと、いつものクセで、詩音の服と下着を拾い、洗濯を始めた。

「まぁ、明日には乾くだろ。

お〜ぃ、詩音?」


「はい?」

スリガラス越しに、少しボヤケて見える詩音は、恥ずかしそうに健人に背中を向けて答える。

「服とタオル、台の上に置いとくから。」


「う、うん。ありがとう。」


健人は、ニヤニヤしながら洗面所を後にした。

それから、詩音が風呂に入っている間に、さっとパスタを作る。

「ふぅ。我ながら上手いな。」

健人は、味見すると小さく呟いた。


「なんだよー!健人ー!」

洗面所から、詩音が叫んでいる。


ニヤニヤしながら、健人は洗面所のドアの前に立つ。

「どうかしたか?」

白々しく、健人はドアの向こうの詩音に問いかける。

「こんなの無理!しかも、私の服洗濯してるし!下着無しで、このシャツとか!全部透けてるし!」


「彼シャツってやつだ。」


「いや!知らんし!」


「丁度、パスタできたぞ?」


ガチャ。

諦めたのか、空腹からか、詩音は洗面所のドアを開ける。

「後悔するなよ?」

詩音は不満気に健人を睨みながら、洗面所から出てきた。


「こ、これは!」

健人は思わず目を反らした。


「・・・念願の彼シャツはどうですか?」

詩音は!恥ずかしそうに目を反らしながら、問いかける。

「い、いや。ちょっと想定外だ。」

詩音は、スタイルが良く、胸も大きい上に、背が高いため、健人の想像していたダボダボ感は無く、あからさまに透けた胸元に、ギリギリ隠れる下半身。

健人は、見てはいけないと、自分をせめた。

「わ、悪い。思ってたのと違う!

すぐに違う服を!」

健人が、寝室に服を取りに行こうとすると、詩音が健人の手を掴んだ。


「えっ?」

健人は、詩音の方を振り向かないまま、停止する。


「わがままな私に、報復のつもりだったのかしら?私、今日はこのカッコで寝るから。」

挑戦的な視線を健人は感じる。

健人は知っている。

詩音は、こうと決めたら聞かない事を。


「ぐっ。仕方ない。パスタ、冷めるから食べろよ。」


「うん。」

健人は、掴まれた手を、掴み返して、ダイニングテーブルのイスに詩音を座らせた。

「イス冷たーい。」

木製のイスに座ると、詩音は不満気に言う。

「何か着るか?出すぞ?」

わらをもすがるように、健人は詩音に訴えかけた。

「いい。」

詩音は意地をはる。

黙って食べ始めるのかと思えば、詩音はニヤリとする。

健人はそんな詩音の顔を見て、ブルッと震えた。


「いや、ブルッと震えないでよ!」


「何か不敵な笑みがこぼれたような気がしまして。」


「ふふっ。ここに座って。」

詩音は、立ち上がり、自分の座っていたイスを指さす。

「ん?」


「ん?じゃなくて。」

詩音は、健人の手を引き、イスに座らせると、健人の膝の上に座った。

健人の薄い部屋着を通り過ぎて、詩音の温もりが伝わる。

「温かい、これで大丈夫だ!」

詩音は、満足気に食事を再会する。


「あの〜。ちょっとこれはつらいのだが?」


「やられたら、やり返さないとね〜。

食事が終わるまでは耐えなさ〜い。」

詩音は楽しそうだ。


健人は、詩音の食事が終わる頃、廃人の様になっていた。


「廃人健人くんもお風呂入ってきたら?

それとも、私の入ったお湯は、ペットボトルに保管して、飲料水にする?」


「そう言う趣味は・・・無い事も無いかも。」


「いや、冗談だし。バカ。」

詩音は少しひいている。

「最近、やり返しされる様になってきたな〜。なんかドキドキさせられて癪に障る。」

不満気に詩音は健人を見る。


「やられたらやり返さないとな〜。」


「む〜。」


あはははっ!

二人は、一緒に過ごせる事が幸せで仕方なかった。


健人が風呂から出ると、詩音はソファーに座り、台本の様なものを読んでいた。

「ドラマの台本?」

健人は詩音の隣りに座る。

「あっ、お風呂出たんだ。集中し過ぎて気づかなかったよ。」

詩音は、台本を閉じて、ニヤニヤしながら健人を見る。

「何でございましょ?」


「寝よ。」

満面の笑みで詩音は言う。


「うん。詩音はベッドで寝てくれたらいいよ。俺はソファーで寝るから。」


「分かってるよね?私の言いたい事。」

詩音は、そう言うと立ち上がり、健人の手を掴んだ。

「だ、ダメだぞ!無理だ!」


「嫌!」

詩音は健人の手を引く。


「ハァ。だって俺、眠れないし。」


「・・・眠れる様にしてあげてもいいよ?」


「・・・ダメだ。前に詩音の家でマネージャーさんに言われたんだ。

今は大事な時だから、くれぐれも頼むって。」


「・・・じゃあ我慢して。

一緒に寝たいのーー!!!」


「駄々っ子かよ。

・・・分かった。」


「ふふ〜ん。じゃあ、ベッドいこっ。」

少し恥ずかしそうに、詩音は健人の手を引いた。


二人はベッドに横になり、目を閉じた。

バサッ。

詩音は、健人に抱きつく。

「お、おぃ!流石に寝れん!」


「頑張れ〜。私、疲れたから寝るね。」


「ハァ。おやすみ。」


「おやすみなさい。」

詩音は数分後には、幸せそうな顔で寝息をたてた。



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