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門番と異端者

小屋をを後にし、俺たちは鬱蒼と茂る森の深部へと足を進めていた。

 木々は天を隠すほどに高く、足元には奇妙な発光植物が群生している。時折、遠くで地響きのような咆哮が聞こえるが、スノウは鼻歌まじりに軽快な足取りで進んでいく。

「スノウ、少し聞きたいんだが……この国で一番大きな街、あるいはパンの材料が豊富に揃うような有名な場所はどこなんだ?」

 俺の問いに、スノウは尻尾をぴんと立てて振り返った。

「それなら、ここから一番近い大都市『王都グラノリス』だよ! どんなに珍しいものも、あそこに行けば全部集まるって言われてるの。ケンタを一番いい場所に案内してあげるね!」

 本来なら、一介のパン職人と幼い少女が二人きりで超えられるような森ではない。だが、今のスノウの身体には、先ほど食べた「至高のハンバーガー」による『聖域の守護』が満ちている。

 彼女が放つ不可視の威圧感に、森の捕食者たちは近づくことすらできず、俺たちは一度の戦闘も経験することなく、まるで庭歩きでもするかのように森を抜けた。

 視界が開けると、そこには見渡す限りの草原と、その中心にそびえ立つ白銀の巨壁があった。

「わあ……あれが王都か」

「すごいでしょ? さあ、行こうケンタ!」

 王都に入るには、巨大な門の前に設置された関所を通過しなければならない。そこには厳めしい鎧に身を包んだ衛兵たちが鋭い眼光で並んでいた。

「止まれ。入都希望者か。身分証を提示しろ」

 スノウは懐から古びた小石のような魔道具を取り出した。それがこの世界での身分証らしい。衛兵はそれを確認すると頷き、次に俺を見た。

「次は貴様だ。提示しろ」

「……あ」

 俺は動きを止めた。この世界に来たばかりの俺が、そんなものを持っているはずがない。

「どうした、早く出せ。持っていないのか?」

 衛兵の目が険しくなる。

「いや、その……実はなくしてしまって。というか、その……」

 正直に「異世界から来た」と言えば間違いなく不審者として捕まる。かといって、パンを焼くだけで伝説級の力が発現する自分のスキルのことを軽々しく話すわけにもいかない。俺が言葉に詰まっていると、横からスノウが衛兵の腕を掴んだ。

「おじさん、待って! この人、私の専属の料理人なの! 遠い修行の旅から戻る途中で、悪い魔獣に襲われて荷物を全部食べられちゃったの。私が助け出したんだけど、身分証もその時に……ね?」

 スノウは大きな瞳を潤ませて、衛兵を見上げた。その完璧な「迷子の少女と、彼女を守って全財産を失った職人」という構図に、衛兵は毒気を抜かれたように溜息をついた。

「……なるほど。災難だったな。この嬢ちゃんの身分証が確かである以上、お前を無碍にはできんが……」

 衛兵は俺の肩を叩いた。

「身分証のない者は、そのままでは街に長居できん。中に入ったらすぐに『冒険者ギルド』か『商業ギルド』へ行け。そこで手続きをすれば、仮の身分証が発行されるはずだ」

「……助かります。ありがとうございます」

 俺は冷や汗を拭いながら礼を言った。

「えへへ、ケンタ、行こう! ギルドに行けば、新しい冒険が始まるよ!」

 スノウの機転に救われた俺たちは、ついに王都の重厚な門をくぐった。

 目の前に広がるのは、中世の面影を残しつつも魔力の灯火が輝く、活気に満ちた大都市の風景だった。

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