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エルフとの遭遇

「はぁ……幸せすぎる……」

 スノウがメロンパンを頬張り、陶酔しきった声を漏らしている。俺も焼き立ての一口を楽しみ、食パン作りで蓄積した精神的疲労が心地よく溶けていくのを感じていた。午後の柔らかな光が差し込む工房は、甘いバターの香りに包まれ、ここが戦時下の兵糧管理区であることを忘れさせるほど穏やかだった。

 その時だった。

 ガサッ、と工房の裏手に続く茂みが大きく揺れた。

 スノウの耳がピンと立ち、口に含んでいたパンを瞬時に飲み込む。その瞳は、おやつを楽しんでいた少女のものから、群れを守る孤高の魔狼のそれへと切り替わっていた。

「誰だ! 隠れてないで出てこい!」

 スノウが低く唸るような声を上げ、警戒のポーズをとる。茂みの奥からゆっくりと、しかし一切の足音を立てずに人影が現れた。

 そこに立っていたのは、透き通るような銀髪を背中まで伸ばした、高校生くらいの少女だった。耳が長く、肌は雪のように白い。

 エルフだ。

 彼女は古びているが手入れの行き届いた旅装束を纏い、腰には細身の魔力付与剣を下げている。その瞳は冷たく澄み渡り、俺たちを値踏みするようなクールな光を湛えていた。

「……不審者ではない。ただ、風に乗って漂ってきた『香気』が……あまりに不自然だったからな」

 少女は無表情のまま、真っ直ぐに俺が手に持っているメロンパンを見つめた。

 警戒して剣の柄に手をかけてはいるが、鼻先がかすかにピクピクと動いている。……武人としての誇りで隠そうとしているが、その香りに抗えていないのは丸わかりだった。

「香気、ね。……もしかして、腹が減ってるのか?」

 俺が問いかけると、彼女は眉一つ動かさずに言い放った。

「エルフは精神を研ぎ澄ますことで空腹を制御できる。だが、その物体に含まれる未知の魔力組成……それが私の知的好奇心を刺激しているだけだ」

「……随分と難しい言い方をするんだな。まあいいや、一個余ってるんだ。毒なんて入ってないから、食べてみるか?」

 俺がメロンパンを差し出すと、彼女は一瞬の逡巡の後、音もなく歩み寄ってそれを受け取った。そして、貴族のように優雅な所作で、端の方を小さく一口、齧る。

「…………ッ!」

 彼女のクールな仮面が、一瞬で崩壊した。

 大きく見開かれた瞳が小刻みに震え、白い頬が火照ったように赤く染まる。

「な……何だ、この食感は……。外殻の結晶化した甘みと、核にある極上の柔軟性。相反する事象が口の中で調和し……私の精神防御レジストを容易く突破してくる……!」

 彼女はその後、無言で、しかし恐ろしいスピードでメロンパンを完食してしまった。最後の一粒まで惜しむように眺める彼女を見届けると、俺の脳内にこれまでで最も荘厳な鐘の音が響き渡った。

【至高のメロンパンを摂取しました】

【魂を震わせた者の数が条件を満たしました】

【新スキル:『万物真実の食覚ウィズダム・ビジョン』を獲得しました】

(きた……! これでようやく、素材や人の状態が詳しくわかるようになる……!)

 俺は心の中で小さく拳を握った。その瞬間、視界が銀色の粒子を帯びて劇的にクリアになる。

 目の前のエルフの少女を見つめると、彼女のステータス、魔力の流れ、さらには彼女が深刻な「魔力枯渇状態」に陥り、無理をしてここまで歩いてきたことまでが、手に取るように分かってしまった。

「……君、相当無理して歩いてきただろ。魔力が空っぽだぞ」

 俺の言葉に、彼女は驚いたように目を見開いた。

「……なぜそれを。私の隠蔽魔法を見破るのか? ……貴様、ただのパン屋ではないな」

「ただのパン屋だよ。……今はまだな」

 彼女は自らの失態を恥じるように顔を伏せ、再びクールな表情を作り直した。

「……私はルナリア。恩着せがましい真似は好まないが、この『糧食』への礼はいずれ必ず返す。……達者でな」

 彼女はそれだけ言い残すと、再び風のように音もなく、森の奥へと去っていった。

「行っちゃったね、ケンタ。変わった人だったけど……パン、すっごく嬉しそうに食べてたね」

「ああ、そうだな。またどこかで会う気がするよ」

 新たな「眼」を手に入れた俺は、去っていった彼女の背中に漂う、複雑な魔力の残滓を見つめていた。

【ケンタの現状ステータス】

• 名前: ケンタ

• Lv: 1

• HP/MP: 15 / 800

• ATK/DEF/MP/LUK: 5 / 3 / 800/99

• スキル:

• 魂の成型 Lv. 43

• 神速の発酵 Lv. 39

• 聖域の焼成 Lv. 41

• 万物真実の食覚(NEW!):対象のステータス、素材の最適値、バフの浸透率を完全に可視化する。

• 至高シリーズ: 丸パン、クロワッサン、ハンバーガー、食パン、メロンパン

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