パン職人・ケンタ
魔道具『真理の鏡石』が放つ眩い光の中に、俺という存在の全情報が残酷なまでに詳細な数値として映し出された。それを見た瞬間、個室にいた全員の思考が停止した。
「……な、なんだこれは。こんなステータス、見たことがないぞ」
ガッレナが椅子をガタンと鳴らして立ち上がった。クラリスは眼鏡を何度も拭き直し、エマは持っていたペンを床に落とした。
【鑑定結果:詳細ステータス】
• 名前: ケンタ(異世界渡り)
• 現在のレベル: 1
• 身体能力:
• 体力(HP): 15 / 15 (一般成人男性の平均:50)
• 攻撃力(ATK): 5 (子供のパンチ程度)
• 防御力(DEF): 3 (紙同然)
• 魔力量(MP): 800 (宮廷魔術師級。ただしパン作りにのみ特化)
• 運(LUK): 99 (限界突破:異世界転移の影響)
【固有特性:職人の矜持】
• 経験値バイパス: 生物を倒しても経験値は得られない。
• 魂の対価: 製作物を食べた者の「感謝」と、それによる「バフ発動」によってのみスキルが成長する。
【保有スキル(職能特化型)】
1. 魂の成型:Lv. 42
2. 神速の発酵:Lv. 38
3. 聖域の焼成:Lv. 40
【至高シリーズ製作記録】
• 至高の丸パン:全ステータス微増、体力回復(中)
• 至高のクロワッサン:全ステータス増加(中)
• 至高のハンバーガー:防御力増加(大)、状態異常回復(中)
• 至高の食パン:24時間の間、感覚鋭敏化(中)・攻撃力増加(大)
【次段階スキルの獲得条件】
• 累計製作数、および魂を震わせた者の数:21
• 現在:21 / 25
• 解放予定スキル:『万物真実の食覚』
「レベル1……。そして体力が15だと!? 坊や、お前……ちょっと転んだだけで死ぬんじゃないか?」
ガッレナが戦慄した声を出す。クラリスも顔を青くして頷いた。
「ええ。事務仕事で運動不足の私ですら体力は40あります。15というのは……もはや奇跡的な脆さです」
俺自身、レベルを上げることには全く興味がなかった。パンが焼け、誰かに喜んでもらえればそれでいい。だが、そんな俺の隣で、スノウが自信満々に胸を張った。
「大丈夫だよ! ケンタの体力が少なくても、この『至高のパン』があるもん。これを食べれば誰よりも強くなれるし、何より、私が世界で一番ケンタを守ってるから安心だね!」
スノウの純粋すぎる信頼に、俺は苦笑いしながらも勇気をもらった。
「……そうだな。スノウ、ありがとう。さて、ガッレナさん、バルトロメウスさん。この食パンはここに置いていきます。配るかどうか、誰に渡すかはお二人に任せます。ただ、一つだけ……」
俺は表情を引き締め、部屋にいる四人を真っ直ぐに見据えた。
「俺のこのステータスのこと、特にレベル1でこれだけのスキルを持っているという事実は、絶対に内密にしてください。 目を付けられて、パンが焼けなくなるのは御免ですから」
ガッレナがふん、と鼻を鳴らした。
「わかってるさ。こんな異常事態、国の上層部にバレてみろ。お前は一生、地下の奥深くでパンを焼かされることになる。安心しな、ここにいる奴らに口の軽いのは一人もいねえよ」
バルトロメウスも深く頷き、クラリスとエマも真剣な顔で沈黙を守ることを約束してくれた。
「……信じます。それじゃあ、俺はもう一度管理区に戻ります。次は、俺自身のために作りたいパンがあるんです」
「あ? なんだ、もう一仕事する気か?」
「ええ。次は、俺自身のために作りたいパンがあるんです」
俺の言葉に、クラリスとエマがハッとしたように顔を上げた。
「えっ、ケンタ様! 私もお供します!」
「私も、市場との連携がまだ……!」
二人が食い気味に志願してきたが、俺は静かに首を振った。
「二人とも、自分の仕事があるでしょ。ここは俺とスノウだけで大丈夫です。……すぐ戻りますから」
クラリスは名残惜しそうに眼鏡の縁をいじり、エマは不満げに頬を膨らませたが、最後には「……お待ちしております」と深く一礼して俺たちを見送った。
ギルドの面々と別れ、静かになった兵糧管理区へ戻った。
【ケンタの現状ステータス】
• 名前: ケンタ
• Lv: 1
• HP/MP: 15 / 800
• ATK/DEF/MP/LUK: 5 / 3 / 800/99
• スキル:
• 魂の成型 Lv. 42
• 神速の発酵 Lv. 38
• 聖域の焼成 Lv. 40
• 至高シリーズ: 丸パン、クロワッサン、ハンバーガー、食パン
• 次の獲得スキル:万物真実の食覚




