スキルの詳細
大量の食パンを抱え、俺たちは再び冒険者ギルドへと戻った。
「まずは両ギルドマスターに確認してもらおう。」
俺の提案で、ガッレナと、連絡を受けて駆けつけたバルトロメウスが個室に集まった。テーブルに並べられた「箱庭の聖封ガーデン・パレス)」済みの至高の食パンを見て、二人はその異常な香りと魔力密度に喉を鳴らした。
「……配るかどうかはお二人に任せます。これが今の俺にできるパンです」
「ふん、迷う余地などない。これだけのもの、出し惜しみする奴は戦士失格だ」
ガッレナが力強く頷き、バルトロメウスも「流通は私が責任を持ちましょう」と微笑んだ。
一段落したところで、俺はずっと気になっていたことを切り出した。
「ところで……相談があるんです。さっきパンを試食してもらった時に、今まで見たこともない『通知』が頭の中に響いたんです。……スキルって、進化したり、レベルが上がったりするものなんですか?」
その言葉が出た瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「「……は?」」
二人が同時に声を上げた。クラリスやエマまでが、信じられないものを見るような目で俺を見ている。
「ケンタ殿……まさか、そんなことも知らずにこれだけの物を作っていたのですか?」
バルトロメウスが呆れたように溜息をつく。
「まあ、君は『異世界人』だ。この世界の理に疎いのは仕方ないのかもしれませんが……」
「……あ? 待て。今なんて言った、バルトロメウス。こいつが『異世界人』だと?」
ガッレナが目を剥いて俺を凝視した。
「……ああ、そうか。だからあのデタラメなスキル、それにこの妙な知識……。なるほど、腑に落ちたぜ」
彼女はガシガシと頭を掻くと、真剣な表情で俺に向き直った。
「いいか、ケンタ。この世界の住人には、生まれ持った『天職』とは別に、自己を研鑽することで上がる『レベル』って概念があるんだ。スキルだって一つじゃない。常用する『主スキル』の他に、補助的な『副スキル』、さらには一定のレベルに達して発現する『進化スキル』や『奥義』……数種類あるのが普通だ」
「レベル……」
「そうだ。魔物を倒す、あるいは職人なら何かを創造し続けることで経験値が溜まり、レベルが上がる。レベルが上がれば身体能力もスキルの出力も上がる。……お前、自分のレベルアップの通知すら来てないのか?」
「はい。パンに付与した能力の通知は来るんですが、自分自身のことは何も……」
俺の答えに、ガッレナは眉根を寄せた。
「……妙だな。異世界人だからシステムが違うのか、それともお前自身が何か特殊な制約を受けているのか。おい、クラリス! ギルドの奥から『真理の鏡石(鑑定用魔道具)』を持ってこい!」
「はい、ただいま!」
クラリスが慌てて持ってきたのは、複雑な銀の装飾が施された不気味に光る水晶玉だった。
「これに手を置いてみろ、ケンタ。お前の魂に刻まれた『今の本当の姿』を、数値として引きずり出してやる」
俺は生唾を飲み込み、その冷たい水晶に手を触れた。
果たして、俺という「パン職人」はこの世界でどれほどの位置にいるのか。そして、通知すら来ない俺のレベルはどうなっているのか――。




