最終話 「再生(レナトゥス)―光も闇も、抱きしめて―」
「世界か、少女か。選べ、レナトゥス」
デウスの冷徹な宣告が、バベルの最上階に響く。
湊は、左腕の異形の爪を強く握りしめた。剥ぎ取ったセラフィムの欠片が、かつてないほど激しく熱を帯び、湊の肉体を焼き尽くそうとしている。
「……選ぶわけねえだろ。俺は欲張り(エンヴィ)なんだ。……お前の作った『世界』も、あいつの『運命』も……全部、俺が書き換えてやるッ!!」
湊の背中から、灰色の翼が最大出力で展開される。
デウスの放つ「神の法(絶対消去コード)」と、湊の「虚無」が激突し、バベルそのものが震動を始めた。
【カイトの最期:暴食の極致】
地上では、カイトがリナの肩を掴み、グラトニーのコアを咆哮させていた。
「……リナ、お前の『毒』……全部、俺の腹に収めてやるよ」
リナの中に溜まった数万人分の「絶望」が、黒い濁流となってカイトの体へと逆流する。
カイトの装甲がひび割れ、中から溢れ出すのは、耐え難い悲鳴と呪詛。
「あ……が、あああああッ!!」
カイトの瞳が白濁し、肉体が異形へと膨れ上がる。
だが、彼は笑っていた。
「……湊。お前が、世界を……リナを救うんだろ。……俺は、そのための『ゴミ箱』に……なってやるよ……」
カイトの体が、光り輝く「黒い繭」へと変わる。リナの中の毒をすべて吸い出し、自分ごと封印するための自爆的昇華。親友の最期の献身が、リナを「生贄」の呪縛から解き放った。
【ベルト(ベリアル)の真実】
湊の脳内で、ベリアルがこれまでにないほど穏やかに笑った。
『……ハハッ、ようやく気づいたか、小僧。なぜ俺がお前を選んだか。……俺は悪魔じゃねえ。……俺は、かつてエデンに抗って敗れた、「最初の人間」の記憶の残滓だ』
ベルトの真実。それは、神の支配を拒み、不完全な「感情」を愛した人間たちの最後の抵抗回路。
『湊。お前の「羨望」は、世界を欲しがる愛だったんだ。……最期の契約だ。俺の全てをくれてやる。その代わり、このクソッタレな神様を、……ぶん殴ってこい!!』
【湊の第3の答え:レナトゥス・ノヴァ】
「――再生とは、元に戻すことじゃない。……何度でも、泥の中から立ち上がることだ!」
湊のベルトが、純白と漆黒を超えた「虹色の光」を放つ。
仮面ライダー・レナトゥス『アンサー(真実の解)』。
湊は、デウスの胸元に飛び込み、その「心臓」を掴んだ。
それは破壊ではない。
カイトが引き受けた「毒」と、湊が持つ「人間の温もり」を、デウスというシステムに直接流し込む**『強制再構築』**。
「お前も、知れ。……俺たちが生きてきた、この泥臭い世界の味を!!」
ドォォォォォォォン!!
バベルが、内側から弾けるように光り輝く。
エデンの管理システムが崩壊し、人々の脳内に封じられていた「本当の感情」が、涙とともに溢れ出した。
【エピローグ:そして物語は】
数ヶ月後。
「エデン」という名は消え、街は荒廃しながらも、人々の活気に満ちていた。
空は青く、そして何より、食べ物には「味」があった。
スラムの片隅で、リナは子供たちに物語を聞かせている。
かつて、自分を救うために世界と戦った、二人の少年の物語を。
リナの視線の先。
ボロボロのコートを羽織った一人の男が、雑踏の中を歩いている。
その左腕には、もう銀色の破片はない。けれど、そこには今も深い「傷痕」が残っている。
男は、ふと立ち止まり、空を見上げた。
傍らには、どこか面影のある「黒い子犬」が、親しげに寄り添っている。
「……カイト。今日の水は、少し甘いな」
湊は、懐から一枚の壊れたコアを取り出し、陽の光に透かした。
かつて悪魔のベルトと呼ばれたそれは、今はただの、温かい鉄の塊だった。
『仮面ライダー・レナトゥス ―悪魔のベルトに選ばれた少年は、偽りの光を断つ―』
――完。
執筆を終えて
湊の「欲張り(羨望)」が、最後には世界すべてを抱きしめる愛に変わる。ダークヒーローとしての苦悩を抜けた先の、希望ある結末にいたしました。




