第9話 「記録者の心臓」
中央制御塔「バベル」の最上階。
そこは、エデンの清潔な白さすらも削ぎ落とされた、無機質な鏡面の世界だった。
湊は、新フォーム『エターナル・メモリー』の翼を休め、床に降り立つ。
目前に鎮座するのは、巨大な「脳」を模した生体演算ユニット。そして、その前に静かに浮かぶのは、かつて湊が打ち倒したはずの戦士だった。
「……セラフィム。いや、違うな」
そこにいたのは、セラフィムの装甲を纏いながらも、全身を不気味な半透明のコードが貫く、変わり果てた姿。
仮面ライダー・デウス(神)。
「ようやく来たか、レナトゥス。……いや、湊」
デウスの仮面が割れ、中から現れたのは、感情を失った「リナ」と全く同じ顔を持つ、中性的な少年だった。
「私はエデンの意志。この世界を『清浄』に保つための、自動修復プログラムだ」
デウスが手をかざすと、塔の壁面に無数の映像が投影される。
そこには、リナがこれまで「汚れ」として記録してきた悲鳴や絶望が、凄まじい濁流となって流れていた。
【衝撃の真実:リナの正体】
「君が守ろうとしている『リナ』は、人間ではない。彼女は、この世界に溜まる『負の感情』という毒素を、一時的に隔離しておくための生体ハードディスクに過ぎない」
エデンが「完璧な幸福」を維持できるのは、そこに住む人々から奪った「悲しみ」や「怒り」を、すべてリナ一人に押し付けているからだった。
そして、その「毒」が満杯になれば、リナは殺され、また新しい「記録者」へと中身が移される。
「彼女を救えば、この世界は毒に呑まれ、一瞬で崩壊する。君の守りたい平和も、カイトの再生も、すべてはリナという『生贄』の上に成り立っている偽物だ」
湊の拳が震える。
守りたいと思っていた彼女自身が、この地獄を維持するための「鍵」だったという矛盾。
【カイトの決断:最後の賭け】
一方、地上ではカイトが絶体絶命の窮地に立たされていた。
無限に湧き出すレギオンの群れ。ボロボロになったグラトニーの装甲から、赤黒い火花が散る。
「……ハッ、記録者だの神だの、小難しい理屈は聞き飽きたんだよ」
カイトは、リナの側に駆け寄る。
彼女の体は、湊が塔に近づくにつれて、共鳴によってノイズが激しくなっていた。
「リナ。あいつは、あのアホな湊は、たぶん今頃『お前を救うか、世界を救うか』で悩んでやがる。……だから、俺がお前のその『毒』、全部食ってやるよ」
カイトは、グラトニーのコアを強引に逆回転させた。
自らの肉体を「器」に変え、リナの中に溜まった数万人の絶望を、自分の中に引き受けようとする禁忌の心中。
「暴食の本領……見せてやる。……湊、あとは、お前が決めろ!!」
【湊の決断】
塔の頂上で、デウスの細剣が湊の喉元に突きつけられる。
「世界を選ぶか、一人の少女の死を選ぶか。選べ、レナトゥス」
湊は、ゆっくりと顔を上げた。
左目の闇は消えていない。身体の変質も止まらない。
だが、その瞳には、もはや迷いはなかった。
「……選ぶわけねえだろ。俺は欲張り(エンヴィ)なんだ。……お前の作った『世界』も、あいつの『運命』も……全部、俺が書き換えてやるッ!!」
湊のベルトが、限界を超えた高熱を放ち、周囲の鏡面世界を溶かし始める。




