第6話(クライマックス) 「光を喰らう深淵」
「塵に還れ。それがこの世界への唯一の貢献だ」
上空に滞空するセラフィムが、六枚の翼を最大出力で展開する。その中心に凝縮されるのは、廃工場一帯を消滅させるほどの純白の破壊エネルギー。
カイトは頭を抱えたまま蹲り、リナは力を使い果たして意識を失いかけている。
湊は、震える脚で二人の前に立った。左腕の異形の爪が、過剰な熱量で自らの肉を焼き、焦げた臭いを上げている。
(足りない……今のままじゃ、あの一撃は防げない。カイトも、リナも守れない……!)
湊の脳裏に、ベリアルのどす黒い笑い声が響く。
『ヒャハハハ! 絶体絶命だな! なあ小僧、もっと深い場所へ来いよ。お前の「羨望」も「絶望」も、全部俺に食わせろ。そうすれば、あの綺麗なだけの神様を引きずり下ろす力を貸してやるぜ?』
「……代償は、なんだ」
『簡単だ。お前の「命」と「記憶」。変身が終わる頃に、お前が誰だったか、何を守りたかったか、全部消えてるかもしれねえがな!』
湊は、懐から取り出した二枚のコア――『エンヴィ(羨望)』と、本来は相容れないはずの『セラフィムの欠片』を、ベルトの口へ強引に叩き込んだ。
「……構わない。俺の名も、思い出も……あいつらが生きてりゃ、それでいい!」
湊がベルトのレバーを、自らの骨が砕けるほどの力で回した。
「臨界点突破オーバーロード……アビス・シンクロニシティ!!」
「ガチリッ……バキィィィィィィィンッ!!」
今までとは比較にならない、耳を弄する破壊音が鳴り響いた。
湊の全身から、光すらも吸い込む「純粋な闇」が噴き出し、それが瞬時に白銀の破片を飲み込んでいく。
「ぁ、あああああああッ!!」
湊の叫びが、獣の咆哮に変わる。
漆黒の装甲の上に、剥ぎ取ったセラフィムの力が「血管」のように白く走り、背中からはボロボロに崩れた三対の黒い翼が突き出した。
仮面ライダー・レナトゥス『アビス・エンプティネス(深淵の虚無)』。
それは再生でも、進化でもない。ただ全てを無に帰すための、禁忌の姿。
「……消えろ」
湊が空を見上げ、右手をかざす。
セラフィムが放った極大の光束が、湊の手のひらに触れた瞬間、まるでブラックホールに吸い込まれるように、音もなく消滅した。
「馬鹿な……!? エデンの裁定を、飲み込んだというのか!?」
驚愕するセラフィムに対し、湊は言葉を返さない。
バイザーの奥の瞳からは色が消え、ただ虚ろな闇がセラフィムを射抜いている。
湊の体が、一瞬で「消滅」したかのように消えた。
次の瞬間、彼はセラフィムの背後にいた。加速ではない。空間そのものを「奪い、移動した」のだ。
「……お前の光、全部……返してやるよ」
湊の左拳が、セラフィムの胸部を貫く。
それは打撃というより、存在の否定。セラフィムの輝きが、湊の黒い翼に吸い取られ、白銀の装甲が砂のように崩れていく。
「湊……?」
背後でカイトが、掠れた声で呼んだ。
だが、湊はその声に反応しなかった。ゆっくりと振り向いたその仮面には、涙を流す隙間すらも、もはや残されていなかった。




