表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

塵の底で、声がした

歩いているだけだった。

けれど、それが一番苦しい時間だった。


見渡せば、瓦礫、鉄、ゴミ、

そして──腐った川が、絶え間なく流れていた。


油の浮いた水面は虹色に光り、

漂ってくる臭気は、皮膚を刺すほどだった。


「くそっ……水、ひとつすら……ない……」


マネキンは、相変わらず無言でついてくる。

ただ、沈黙だけが、延々と背中に突き刺さっていた。


空腹。渇き。疲労。

何より、孤独が一番堪えた。


(俺は……本当に、もう……)


──足がもつれる。


意識が、ずるりと剥がれていく。



──風の音だけが、鼓膜をなでていた。


どれくらい、歩いたのか。

どれだけ、進んだのか。

わからない。ただ、喉が焼けるように痛かった。


そして──ついに、膝が砕けた。


身体が、音を立てて瓦礫に沈む。


(ああ……ダメだ……)


瞼の裏で、マネキンが立ち尽くしていた。

その白い仮面は、何も言わないまま、ただこちらを見ていた。


そして──意識は、落ちた。



風の匂いが変わっていた。


鼻の奥に、干した薬草のような、

火と木と鉄が混ざったような匂いがした。


遠くで、誰かの声が響いた。


「おーい!目覚めたぞ!」


視界がぼやけている。

だが、確かに、周囲に何人かの影がいる。


目が合った。


──その顔は、人間に似ていた。

けれど、“完全に同じ”ではなかった。


瞳が横長で、肌に薄く文様が浮いている者。

耳が丸くなく、花のような軟骨が付いている者。

髪が銀と藍のグラデーションをしている女。

背中にうっすらと羽のような突起が見える男。


合計8人──人間のようで、どこか“違う”存在たちだった。


「おいおい、結構な長寝だったぞ?」

「まさか死んでるんじゃねーかって、ハナが3回も鼻鳴らして確認してたんだぞ」

「水が足りなくてな……一時は足裏まで吸わせるかって話だったしな」

「やめろ。あれは冗談でも言うな」


わらわらと寄ってくる。


トワは、反射的に身体を引いた。


「……ここは……どこ……?」


すると、一番落ち着いた雰囲気の男が、

火の前にしゃがんで言った。


「お前が倒れてた場所から、ちょうど“1日と半分”経った。

飲まず食わずだったみたいだな──そりゃ死ぬ」


トワは、まだ混乱していた。


「……お前ら……誰だ……?」


答えは──まだ返ってこない。

代わりに、鍋の中から、温かい香りが漂ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ