表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

知らない世界の顔

──音が、違った。


踏みしめる地面から、かすかに金属の鳴き声が響く。

コンクリではない。土でもない。

廃棄された技術と建材が何層にも積み重なった“層”のような感触。


トワはその上を歩いていた。

瓦礫と風が混ざる路地を抜けながら。


「……空気が……違う……」


呟いたその声すら、自分のものとは思えなかった。


後ろには、マネキンがついてくる。

無言で、重さのない足取りで。


──だが、それよりも気になっていたのは、

街の人々が、決して近づこうとしない区域の存在だった。


崩れた塔の影。沈んだ運河跡。骨のように立ち尽くすモノレールの橋脚。

誰もが、見ないようにしていた。


(何かあるな──)


そう思いながら、彼は足を踏み入れる。


そして、見た。


それは、“人間ではない”。


肌が青白く、耳は裂け、指が6本あった。

目は細長く、髪の代わりに細かい甲殻のようなものが生えている。

だが──その存在は、確かに“生きて”いた。


彼は何かを拾い、修理し、鍋のようなものを抱えていた。


──普通に、生活していた。


トワは立ち止まった。


その姿を、目を、呼吸を。

全てが“自分の常識”から逸脱していた。


──そして、ようやく、認識する。


(ああ……俺は……本当に……)

(知らない世界に来ちまったんだ……)


その“青い人”が、トワに気づいた。


目が合った。

だが、敵意はない。


彼は目を伏せ、少しだけ微笑んだ。


「……ヘヌァ……イタミ、ナァ……?」


トワには意味が分からなかった。

だが、声の抑揚だけは、どこか優しかった。


「ごめん……言葉、わからないんだ」


その言葉に、相手は小さく首を傾げ、

そして、指を差した──マネキンの方へ。


しばらく見つめて、ぽつりと漏らす。


「……アレ、ウゴク、ナ……?」


トワは、無言で頷いた。


青い男は、それを見て、もう一度だけ笑った。


だが──その笑みには、微かに震えがあった。


恐れとも、祈りともつかない──遠い記憶の残響のような。


「この世界……どこまで、“知らないもの”があるんだ……」


吐き出すように、トワはつぶやく。


街はまだ続いていた。

この先に、もっと何かがある。


そのすべてが、「人間だった頃の自分」には想像すらできなかったもの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ